ユ・リベルテの港に着き、ヒューバートはストラタの兵士と何やら話し始めたので、私たちはその様子をじっと見ていた。
するとソフィが港の端へ行き、海をじっと見つめていた。私は彼女が気になり、傍によってみることにした。


「ソフィ」
「名前…。元気になった?」
「…うん。お陰さまで。心配かけちゃったね…。ごめんね?」
「ううん、名前が元気になってよかった。アスベルもシェリアも、嬉しそうだったよ」
「そっか…」


それが凄く嬉しくて、でも同時にとても申し訳なくなって(シェリアの言葉とか、無視しちゃったしね…)それを紛らわすようにソフィと同じように海を覗く。
海が太陽の光に当たって、キラキラと光っている。


「綺麗だね」
「うん。お魚さん、いないかな」
「探してみようか」
「二人とも、戻ってください。フェンデルへの潜入方法についての指示を受けました」

そんなヒューバートの声に、ソフィは少し落ち込んだように項垂れる。そんな彼女の頭をぽんぽんと叩き「また今度お魚さん探そうね」と言ったらソフィは嬉しそうに頷いた。
彼女の手を引き、みんなの輪の中に加わる。


「ちょうど今フェンデル軍の小隊が闘技島を訪れているようです。小隊の中に、かねてから我が国があの国に潜入させていた密偵が混ざっています。その密偵と合流してフェンデルへ潜入する手引きをしてもらう事になりました」
「大丈夫なの…?」
「そうですね、少し危険です。フェンデル兵に目をつけられると動きにくくなりますからね。くれぐれも行動には注意してください」

ヒューバートの眼鏡がキラリと光った。
それが様になりすぎていて…少しだけ笑ったら、ヒューバートにじろりと睨まれた。


「まったく、分かっているんですか?」
「あはは、ごめんごめん」
「はぁ…本当に分かっているのだか」

頭を抱えて溜息をつくヒューバートを無視して船に乗り込もうとすると、がしっと肩を掴まれた(痛いなぁ)
振り返ると、肩を掴んだ犯人はヒューバートで、眉間に皺を寄せている。


「まだ話は終わってはいません!」
「え〜…わかってるったら」
「全然分かっていませんよ!」
「ヒューバートは久しぶりに名前に会えて嬉しいんだな」
「は?兄さん、意味が分かりませんよ」

バッと私から離れて、ヒューバートはアスベルを見る。アスベルはにこにこと笑っていて…。


「だって一緒に行くと決まってからずっと名前の傍に居るじゃないか。今だって名前に説教するように見せかけて、本当は一緒に居た「な、何言ってるんですか!砂漠を歩いたせいで熱でも出たんじゃないんですか?兄さん!」
「え?アスベル、熱あるの?」
「い、いや…俺は…」
「シェリア!アスベルが熱あるんだって!」
「いや、俺は…」
「大変!早く船室に行きましょう、アスベル!」
「え…あ…あぁ」

シェリアに引きずられて、アスベルたちは一足先に船へ入っていった。
それに続き、私も船内へ入ろうとしたら、またしてもヒューバートに腕を掴まれる。


「ヒュー…?」
「…船、大丈夫なんですか?」
「……。ストラタへ来るときは平気だったよ」
「そうですか。…トラウマになっていて乗れなくなったと思いましたよ」
「あはは。生まれてからずっと船に乗ってたんだよ?海を嫌いになることなんて、ないよ」
「そう、ですか…。でも、くれぐれも…」
「無理しないでください、でしょ?」
「…ええ」
「ありがとう。ヒューは優しいんだね。さ、みんなが待ってるから早く乗ろう?」

私が手を差し出すと、ヒューバートは素直に私の手を取り、二人で船内へと向かった。








船室で、パスカルとストラタで採ったバナナの残りを食べる事になった。
大量に採ったため、まだその量は多い。


「ん〜っ!おいひーっ!」
「冷やしておいてよかったね」
「宿屋に雪だるまがあるなんて思いもしなかったよー!」
「画期的ですなぁ…」
「ですなぁ」
「こら、ソフィが真似するでしょ?」

シェリアがポカンと私の頭を叩く。すると、ソフィが叩かれた所をよしよしと摩ってくれた。


「痛いの痛いのとんでいけー」
「おわ、治ったよ!ありがと、ソフィ」
「うん。良かった」
「ソフィ、それ誰から習ったの?」
「教官がわたしにやってくれたの」
「教官……」

シェリアが遠い目をしている。おーい、戻ってこーいと目の前で手を上下に振ると、シェリアにいきなり手を掴まれた。


「え、シェリアさん?」
「そうよ!名前。あなた、や〜っと元気になったわね!」
「あ…あぁ。その節はどうもすみません」
「今回はヒューバートにいい所を持って行かれたわね。…いや、とにかく、よ」

シェリアが掴んでいた私の手を優しく握りなおした。


「あんなことがあったものね。…どうなるか、心配だったけど。もう心配はいらないわね」
「…うん。ありがとう」
「ところでさぁ」

パスカルが本日6本目になるバナナの皮を剥きながらこちらへやってくる。


「なぁに?パスカル」
「名前って、リチャードと弟君。どっちが本命?」
「え…?」
「ちょ、パスカル!それはまだ早いって昨日言ったでしょ!?」
「でもさ〜。気になるじゃん!」
「それはそうだけど…」
「本命…?何の話?」
「だーかーらー、リチャードと弟君!どっちが好きなの?」

どっちが好き…?
そんなの決まってる。


「どっちも好きだよ?」
「そ、そう来たか!」
「うん。だって二人とも大切な友達だしね!」
「……」
「……」
「え…?な、何?」


二人が突然真顔になったので、私は何か変なことを言ったのだろうか、と焦りだす。
あ、そうか!

「もちろんシェリアもパスカルもソフィもアスベルもマリクさんもみんな好きだよ!」
「そうじゃなーい!」
「え…だって、みんな同じくらい好きだし…」
「はぁ…」
「え、え…。嫌だった…?」
「…リチャード陛下もヒューバートも、前途多難ね」
「わたし、名前に好きって言ってもらえて嬉しいよ?」
「ソフィ…!」


ソフィの優しい言葉に、私はなんだか泣きそうだった。
…というより、本当にどういう意味だ?

だって、どっちが好き…って。本命って…。
二人は私のこと友達としか思っていないだろうし、みんなもそのことをよく知っているはずだから、間違いなく色恋の話ではないだろう。
…じゃあ、一体何の話?…女の子とこんな会話するの初めてだから、よく分かんないな。

ま、いっか。



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