「て、敵襲ーっ!」

ストラタ兵がそう叫ぶのが聞こえた。
来た道から煙が舞う…それと同時に鳥の羽音が聞こえる…。

煙が晴れると同時に見えたのは、見覚えのある金…


「リチャー、ド…」
「リチャード!?なぜここに?」
「……」

鳥の魔物に乗ったリチャードはアスベルの呼びかけに答えない。じっと大輝石を見つめたままだ。


「おい、返事をしてくれ!」

そう言って前に踏み出したアスベルに、リチャードは剣を向ける。
そこから放った衝撃が、アスベルに当たり彼は倒れてしまった。私たちはアスベルの下に駆け寄る。

リチャードは無表情のまま、近づいてくる。
すると、ソフィが私たちの前に立ち、両手を広げた。

だが、苦しそうにソフィは俯く。

「う…駄目…これはリチャード…戦っちゃ、いけない…」


リチャードはソフィを物凄い形相で睨み付ける。


「邪魔をする気か……!」
「リチャード!」
「名前か。久しぶりだね」
「っ、答えて!」
「…君は傷つけたくないからね…」


リチャードが私に手を向けると、黒い細長いものが体に巻きつく。な、なにこれ…?


「名前!」

マリクさんが私に手を伸ばすが、既に遅し。
そのままその黒く細長いものは私を捉えたまま上空に伸び、リチャードの近くまで伸びていった。


「名前に何をするんだ!」
「何もしない。名前にはね」

不敵に微笑むリチャードに、私はゾッとした。
リチャードは鳥のような魔物に命令した。するとリチャードを乗せた魔物以外の二体がアスベルたちに向かって飛んでいった。

私は抜け出そうともがくが、物凄い力で抑えられているため身動きが全く出来なかった。


「っ!リチャードっ、離してよ!」
「君に怪我をさせるなんて、そんなことはしたくないからね」
「いいから、離してよ!みんなが!みんなが危ないっ!」
「…そんなにあいつらが大事なのかい?」
「当たり前じゃない!」
「僕よりも…かい?」
「え…」

リチャードの真っ赤な瞳に睨みつけられる。…あれ、リチャードって、こんな瞳の色だったっけ…?
すると、私を覗き込むリチャードの端整な顔がすぐ近くにあった。


「どうなんだい?」
「…リチャードも、皆も…どっちも大切だよ」
「……僕はそんな答えなんか求めていない」
「……」
「名前、僕についてこないかい?」
「え…」

リチャードの突然の申し出に、私は驚く。

「君と一緒にいたいんだ…。…君は、君だけは守りたいんだ」
「……リチャード、私…今やらなくちゃいけないことがあるの…。ヒューを、助けないといけなくて、それで…」
「ヒューバート、だって?」
「うん…今、彼が大変な目に遭ってて…それで…」
「アスベルの次はヒューバートか…」
「え…?」
「一体、どうすれば…君は僕を見てくれるんだ」

悲しそうに呟くリチャードを、私はただ見ているだけしかできなかった。


「リチャード…私、私…」
「…終わりそうだ」

リチャードは、下を向いてアスベルたちを見た後、一人で大輝石の近くまで飛んでいく。
何を…する気なの?


リチャードは大輝石に手を近づた。


「っ!?な、なに…」

リチャードは、大蒼海石から何かを吸い取っていた…!?
どんどん色を失っていく大蒼海石…。まさか、リチャードは大輝石から力を吸い取ろうとしている…?


「リチャード!やめてっ!そんなことしたら、ストラタはっ!」

私の声に、魔物を倒し終わったアスベルたちが何事かと目を向ける。
すると、彼らも目を見開いた。

「何をするつもりだ、リチャード!」
「ああぁああ…!こんな馬鹿な…!大輝輝が…か、空っぽに…!」

研究員の一人が必死に装置を弄るが、大輝石は色を失っていくばかりだ…。

「駄目です!全ての計器が残量なしと出ています!」

研究員がそういった瞬間、大蒼海石は全ての色を失ってしまった。
リチャードは、ソフィを見ると顔を再び歪める。

「貴様の顔を見ると…虫唾が走る…。貴様がいる限り…安息の時が訪れる事はない。…いずれ決着をつけてやる。覚悟しておけ」
「リチャードっ!」
「……名前」


彼は私の方へ手を向ける。すると、黒い細長いものがしゅるしゅると引っ込んでいく。
私の体は地面についていた。


「リチャード…?」
「……」


彼はもう何も言わずに去っていった。
それと同時に私は違和感を感じる…。あれは、本当にリチャード?本当に…?
昔のリチャードの雰囲気もあり、禍々しい雰囲気もある今の「リチャード」に、私は戸惑いを隠せなかった。


「大丈夫?名前!」

駆け寄ってきてくれたパスカルに、平気と答え、私は彼が去っていった方向を見つめる。
何も、わからなかった。わからないことだらけで、頭がパンクしてしまいそうだった。



「ソフィ!」

アスベルの驚いた声に、私は慌てて振り向くと、ソフィが胸を押さえて膝をついていた。


「だめ…リチャードは、…リチャードはともだち…。だめ…傷つけちゃ…みんな、悲しむ…名前が、悲しむ…もの!」
「…!」
「ソフィ、しっかりして!」
「はぁ、はぁ…。もう平気」

ソフィは自分の手で立ち上がり、じっとアスベルを見る。


「アスベル、リチャードのことなんだけど…。このまま…放っておいたら、いけない気がするの…。でも、リチャードは友達…戦うなんて、いけないよね…。なのに…わたし…戦おうとして…ごめんなさい…」
「……」
「ソフィ、俺たちも同じ気持ちだ。戦う前に…何故あんな事をしたのか確かめないと」
「…しかし、一体何が起こったというのだ?…リチャード陛下が大輝石の力を吸い取ったというのか?」

大輝石の装置の近くで様子を見ていたパスカルも、両手をあげて溜息をつく。

「お手上げ。こうなったらあたしにもどうにもできないよ」
「なんて事だ……大輝石がなければ、我が国の将来はどうなるんだ?」
「アスベル、大統領には何と言うつもりだ?」
「とにかく…ありのままを大統領に報告するしかないと思います…」
「アスベル、リチャードはもう元に戻らないの?…そんなの、嫌だよ」
「いいや、そんな事はない筈だ。…とにかく、いったん大統領の所へ戻ろう。これ以上ここにいても仕方ない」


みんなの言葉が、何故か残酷に聞こえた。
私の脳裏にはリチャードの悲しそうな顔がいつまでも浮かんでいて離れない。

…ねぇ、リチャード。私またあなたに伝えれなかったよ。…本当に、どうしようもないね。
また、会えるかな?…私、は…リチャードを信じたいんだ。信じたいのに…なんなんだろうね、この気持ちは…。
どうしよっか、本当に…





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