「わっ!」
「名前、大丈夫!?」
大統領府に入るドアの前で、眼鏡の男とぶつかりそうになり、私は後ろに倒れる。
パスカルの手を借りて立ち上がり、ぶつかりかけた眼鏡の男を見る。
「あ、あの…ぶつかってしまってすみませんでした!」
「チッ、邪魔だ。どけ小娘」
「そんな言い方ないでしょ?それにアンタが急にドアを開けたから…!」
「いいよ、パスカル!」
「でも…」
「いいの。…あの、本当にごめんなさい!」
私が謝ると、眼鏡の男の人はまた舌打ちをして去っていった。(あれ…なんだかあの人、見覚えがあるような…)
「怪我はない?」
「うん、大丈夫。なんか、ごめんね?」
「ううん、名前が怪我してなかったからよかったよ〜。でもあの人、嫌なかんじだよねぇ」
眼鏡の男の背中に向かってべーっと舌を出すパスカルの手を引きながら、私は大統領府入り口のドアを開けた。
「みんな、お待たせ!」
「やっほ〜」
「名前、パスカル!随分遅かったじゃない。何をしていたの?」
「忙しくなるといけないから、アップルグミとか買い足してたの。遅くなってごめんね?」
「本当?助かるわ、ありがとう」
シェリアに頭を撫でられて、少しだけご機嫌になる私。
大統領府の中は、青を基調とした美しい室内で、他のユ・リベルテの建物の中よりも少し涼しい気がした。
「で、アスベルは?」
「あぁ、アスベル一人で大統領に面会にいったのだ。大分時間が経ったからそろそろ戻ってくるはずなのだが…」
マリクさんの言葉の後に、なんともタイミング良く扉が開いた。
アスベルが少し緊張した様子で出てくる。
「おかえり」
「大統領ってどんな人だった?」
「既に会った事のある人だった。ほら、セイブル・イゾレの街とロックガガンの所にいた…」
「えぇ!?あの人が……?」
ちょいちょい、と肩をたたかれ、私が振り返ると、マリクさんがにやっとしていた。
私もマリクさんににやっと返すと、彼に優しく頭を叩かれた。そして小声で告げる。
「やっぱり凄い人でしたね!」
「あぁ、読みは当たったな」
「なんか嬉しいですね!」
「そうだな」
二人でコソコソ話しているうちに、会話は進められていく。
「でもそれなら話し合いもうまく行ったんじゃ…?」
「いや…このままではヒューバートの更迭は免れないといわれた」
「え?な、なんで…?」
「…そもそもストラタはウィンドルの輝石を手に入れるためにラントに軍を派遣したらしい。あいつのやり方ではストラタが求めている分の?石が集まらないそうだ」
「だから総督の首をすげ替える必要があると?」
「それを思いとどまらせるには輝石不足の問題を解決しないと…」
「それは難しい問題だな。…個人の力でどうにかできる類のものではない」
「そもそも、どうしてストラタはウィンドルの輝石を欲しがるの?ストラタにも大輝石があるっていうのにさ」
パスカルの言葉にはっとなる。
ストラタが輝石を欲しがるのは何で?大輝石の恩恵を確かに受けているはずなのに、?石不足というのは…少々おかしい。
「そうか…確かに考えてみれば妙な話だな」
「そうね、大輝石があれば心配なんていらない気もするけど」
「これは…大輝石に何かあったと見えるね。街の人に話を聞いてみようよ」
「そうしよう」
とりあえず、大統領府を出てから手当たり次第街の住民に話を聞いてみる事にした。
歩きながらアスベルが、先ほどの大統領との会話の内容を話してくれる。
「…と、つまりラント侵攻はヒューバートの養父の独断だったようです」
「セルディク大公と示し合わせていたということか」
「それじゃヒューバートは養父に反発していたというの?」
「自分の立場が危なくなったとしても、ラントを守りたかったのだろう」
ということは、ヒューバートは独りでずっと頑張っていたってことか…。
苦しかっただろうな…。私に、出来ることがあるといいんだけど…。
って、馬鹿私。今からその出来る事をやるんでしょうが!よし、気合を入れなおして聞き込み開始だ!
ドンッ「おわっ!」
そう意気込んでいた私に、また誰かがぶつかった。
勢いよく前に倒れそうになるのを、ソフィが支えてくれた(ナ、ナイスタイミングですソフィ!)
「大丈夫?名前」
「うん…大丈夫。ありがと、ソフィ」
「ご、ごめんなさいっ!急いでいたので…!」
ぐいっと私に今にも泣きそうに歪められた顔を近づけて謝る眼鏡の男の人。
その勢いに負けて、私は体を数歩引いた。
「い、いえ…別に」
「本当にすみません!それでは!」
そういうと、すぐに眼鏡の男の人は去っていった。
な、なんだったんだ…。
「名前、今日人にぶつかられてばっかりだったねぇ〜」
「うん…災難だよ、ホント」
さっきの人はともかく、最初の眼鏡のおじさんは怖かったなぁ…睨まれたし、舌打ちもされたし。
でも、…どこかで見たことがあるんだよなぁ…。ま、いいか。