「あ〜、バナナだ!」


砂漠を暫く進んだ所に、大きなバナナの生っている木があった。
パスカルは嬉しそうにその木に駆け寄ると、手を伸ばす。


「本当、水場が近いのかしら?」
「もう少し行けば、ストラタ首都に到着するはずだ」
「ユ・リベルテですね!オアシスのような街…楽しみだなぁ」
「ねぇねぇアスベル。首都って何か知ってる?」
「ソフィはわかるのか?」

アスベルが聞き返すと、ソフィはにこりと笑って答える。


「中央政府のある街をそう言うんだよ」
「すごいわねソフィ。知ってたの?」
「教官にこっそり教えてもらったの」
「こっそり?」
「うん、寝る前にお話してくれたの」
「いったい何教えてるんですか…教官…」
「ふっ」


ふっ、ってなんですか…マリクさん。なんか怪しいぞ。
そのまま笑みを浮かべながら先へと進んでいくマリクさんを、私たちはただ呆然と見つめている事しかできなかった。


「ん?どったの、みんな」
「あ、パスカル」


バナナを取るのに夢中で話を聞いてなかったのだろうパスカルが、微妙な空気をかもし出す私たちの下へと戻ってきた。
アスベルたちは溜息をついて先へ歩き出す。パスカルは首をかしげながら、私にバナナを差し出した。


「ありがとう、パスカル」
「うん!それにしてもどうしたの?みんな。なんかすごく疲れてるみたいだね〜」
「まぁ、色々あったんだよ。食べていい?」
「もちろん!」
「じゃあいただきます」


黄色い皮を剥き、中の美味しそうな実にかぶりついた。うん、うん…


「美味しい!」
「でしょでしょ?あたし、こんなに美味しいバナナ、食べた事がないよ〜」


そう言って更にバナナを木から取っていくパスカル。…、……。
腕に抱えきれないくらいバナナを収穫したパスカルは満足そうに笑った。


「そ、そんなに取っていくの?」
「あったりまえ!次はいつここに戻ってこれるかわかんないしねぇ〜」
「バナナ、好きなんだね。一人で持っていくの大変そうだから、手伝うよ」
「ほんと?ありがとう!」


パスカルの手にあったバナナをもらい、私たちはアスベルたちを追いかけた。









「うわあ…」


ユ・リベルテはとにかく綺麗だった。マリクさんの言うとおり、オアシスのような、そんな美しい場所だった。
水も緑も沢山あって…。そうだな、水の都というのが一番しっくりくる例えだろう。


「砂漠の中にこんなに大きな街があるなんて…」
「ストラタは古くから大蒼海石という名の大輝石の力を用いて発展した国だ。大輝石を有効に用いる技術に関してこの国は世界一進んでいると言えるだろう」
「まずは預かった信書を頼りに大統領に直接面会します」
「それなら目指すのは大統領府だな」


そうか、急いでるから宿に寄っていかないんだ…。じゃあこの大量のバナナはどうしよう…。まさか大統領府に持っていくわけにもいかないしな…。
一人で宿にチェックインして、バナナを部屋に置いていくしかないか。


「ねぇ、アスベル。私宿をとってから合流していいかな?この街、人も多いし明るいうちに宿を取っておいた方がいいと思うんだ。それに、バナナを持っていくわけにはいかないし」
「そうだな。じゃあお願いできるか?」
「うん、もちろん」
「あ、じゃああたしも行くよ。バナナ、名前一人に任せらんないしね」
「じゃあ行こうか、パスカル。ごめんみんな、それじゃあまた後でね」


バナナを抱えなおし、私とパスカルは宿屋へ、アスベルたちは大統領府へと歩いていった。


「にしてもおっきな街だね」
「そうだね、それにすごく綺麗…」
「名前ここに来るの楽しみにしてたもんね〜」
「うん。…本当に来れて良かった」


さああっとアーチを描いて頭上を流れる水。…どんな仕掛けになっているんだろう。
…こんな所にヒューは7年間もずっと住んでいたのか。





宿をとり、部屋にバナナを置いてから、私とパスカルはユ・リベルテの街を歩いた。
ついでにグミやライフボトルなども一緒に買っておく事にした。


「にしても名前はいい子だね〜」
「…はい?」
「いやだから、名前はいい子だねって。ほら、なでなでしてあげる」


道具屋から大統領府へ向かう道の途中、パスカルが私の頭をよしよし〜と撫でる。私は突然のことに驚き硬直する。

「まさかロックガガンでの猫扱い、まだ続いてるの?」
「ま、まだ怒ってんの?」
「いや…あの時は別に怒ってたわけじゃなくて、後ろに魔物がいたから武器を向けただけで…というか、猫扱いは複雑だったけど、怒ってたというよりも呆れてたというか…」


そうぐじぐじと言う私を撫でるパスカルの手が、急に止まったので、私は彼女を見上げる。


「猫扱い…とかそんなんじゃないよ」
「…」
「名前は優しいな〜って。でもって人を傷つけたくなくて、その人のために出来る事はないかと一生懸命考えてる」
「パスカル…」
「頑張ってるよね、偉い偉い」


にこっと微笑み再び私の頭を撫でるパスカルの手の暖かさに、私は泣きそうになりながらもそれをぐっとこらえる。
それと同時に私は思う。
…本当にパスカルに、みんなに、会えて良かった、と。
嬉しかった、本当に嬉しかったのだ。…みんな私のことを理解してくれる、友達なのだと。

私は「友達だから」理解しないといけない。と考えていた。…でも本当は違うのだ。
「理解しないといけない」ではない。
本当に友達ならば自然と「理解しあえる」はずなのだ。
だから、リチャードともきっと理解しあえる。だって彼と私は…友達なのだから。きっと、きっと大丈夫だ…。



「じゃ、行こっか!」

私は差し出されたパスカルの手を握った。そして彼女にとびきりの笑顔で答えた。





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