紫色の魔物を倒し、私は地面に座り込んだ。つ、疲れたよ…。あの魔物すごく気持ち悪かったよ…うえぇ。
ソフィが私に近づき、ぽんぽんと頭を撫でる。「大丈夫?」と聞かれ、コクリと頷き立ち上がった。


「寄生虫の問題は片付いたが、肝心の出口はどこだ?」
「早く信書を届けに行かなくてはいけないのに…」

そう呟くアスベルの手には彼がヒューバートに貰ったお守りが…って、あれ…。破けてない?

「お守り、破けちゃった…」
「何か出てきたぞ?…なんだ、この粉は」
「どれどれ?見せて。……へ、へ、へっくしょい!」


パスカルがお守りに顔を近づけ、豪快にくしゃみをした。
彼女の周りを、何かの粉がふわふわと漂っている。な、なんだろうこれ…。


「な、何が入っていたの?」
「コショウだ!」
「なんでお守りにコショウが?」

すると、ロックガガンに入る前に感じたくらいの揺れが起こった。


「揺れてる…」
「これは…もしや…うわっ!」
「あああぁぁっ!」


途端、ものすごい風に吹き飛ばされて、私は意識を失った。








「名前、大丈夫か!」


誰かに体を揺さぶられている。目を開けるとアスベルがいた。あぁ、アスベルが揺らしてたのか…。
彼の手を借りて、私は立ち上がる。すると、シェリアが難しい顔をして近寄ってきた。…あ、シェリアってアスベルのことが…あ、やば。


「名前!」
「シ、シェリア!あ、あの…これは…」

掴んでいたアスベルの手を慌てて離し、シェリアを恐る恐る見る。
彼女はものすごく怒っていて、その手は私の方へ伸びてきた。うわ、うわ!

彼女の手が触れ、さっさっと何かを払うように頭の上を往復した。


「埃がついてるわよ!…うん、これでよし。可愛いわ」
「あ、ありがとう…」

にっこりと微笑むシェリア。な、なんか焦って損した。…って、私考えすぎだ。
溜息をつくと、マリクさんが私の頭を撫でてくれる。…マリクさん、ありがとう。


「どうやら外に出られたようだな」
「コショウのおかげなのかしら?」
「ヒューバートから貰ったものが、こんな形で役に立つとはな。…けどなんでヒューバートはコショウなんか渡したんだ?」
「あたしたちがロックガガンに飲み込まれるってわかってた…わけないよね」
「じゃあ、なんで…?」


お守りの袋の中にコショウ…。嫌味なのか、ヒュー。それとも本当に何か意味があって入れたものなのだろうか…?
みんなで云々と考えていると、ソフィが辺りを見回す。


「アスベル…。ロックガガンどこ行ったの?」
「いなくなってる!?」

アスベルの声に、私たちは砂漠の街道を見る。そこには先ほどまで居た大きな魔物がいなくなっており、砂漠の向こうがよく見えるようになっていた。


「どうやら街道のそばからはどいてくれたみたいだな」
「お陰で街道が復旧した。ストラタを代表して礼を言うぜ。ありがとよ」
「あ、…」


突然声がして、振り返るとセイブル・イゾレで会った男性が立っていた。
なんでこの人ここにいるの…?

「しかし…君たちあいつに何をしたんだ?」
「寄生虫が巣食っていたようで、結果的にそれを退治しました。その後、出口が見つからなくなり困っていたらこれで…」

アスベルが男性に破れたお守りを見せると、男性は興味深そうにそれを眺めた。

「これは、輝石の守りか」
「…あ!思い出したぞ!これは昔俺がヒューバートにあげた物だ…」
「アスベルがヒューにあげた物…?」
「あぁ、本当は砂状の輝石を詰めるんだが、砂の輝石が見当たらなくて、コショウを詰めたんだっけ…。それをあいつ、今もまだ持っていてくれたなんて…」


感動的な話だけど…コ、コショウを入れてたなんて、ヒューが知ったら何て言うんだろうか。
でもまぁ、結果的に助かったんだし、良いか。


「輝石の守りは持ち主を守ってくれる力があると言われてるが、中身が輝石でなくても効力があるのだな…。とにかくこれであいつが暴れる事ももうないだろう。本当に助かったよ。君たちがいなかったらロックガガンを殺さなくてはならなかったかも知れない」
「ロックガガン殺されない?」
「ああ、大丈夫さ。安心しな」
「…ところで、君たちはどうして首都へ行こうとしているんだ?」
「苦境に立たされている弟を助けたいからです。そのためにこの国の首都にいるある人に会う必要がありまして」
「そうか。上手く行くといいな。…さて、俺はそろそろ行くぜ。また会おう」

そういうと、男性は去っていった。…っていうか。
また会おう…って。…随分意味深だな。考えすぎなのだろうか?


「さて。街道も通れるようになったようだし、このまま首都へ向かおう」


アスベルの言葉に、私たちは再び街道を進むことにした。
…なんというか、貴重な体験ができてよかった。



「……」
「教官、どうされましたか?」
「先ほど会った男だが…。何か感じなかったか?違和感というか…」
「そうですか?私はただの観光のおじさんかなと」
「教官の考えすぎではありませんか?」
「それなら、いいのだが…」

アスベルとシェリアがマリクさんから離れたので、私はマリクさんに近寄り話しかけた。


「マリクさん。私も違和感、感じましたよ」
「名前もか?」
「はい、なんだか…上手く説明できないんですけど、なんか威圧感があったし、また会おう…とか怪しすぎますよ」
「そうだな…まぁ、いずれにせよまた会うかもしれん。そのときに聞いてみるとするか」
「…はい」



とにかく、今は首都へ向かおう。
マリクさんのその言葉に、私は頷いた。





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