ロックガガンの中に入って何分経ったのだろうか。
不安定な足場に、臭いにおい。入ったらダメージを受けてしまう胃酸…どれも危険で、心が折れそうだ。
それに、何故かロックガガンの中に住み着いている魔物たち。これが結構しつこく、数も多いので進むのだけでも一苦労だった。


「こいつ、でかいぞ…!みんな、気をつけろ!」


アスベルの声に振り向くと、大きな…やどかり?みたいな赤い禍々しい魔物がこちらを威嚇していた。はぁ、また戦闘か。
私は槍を握りなおし、魔物を睨んだ。


「逃がすか!」

アスベルが魔物に仕掛けた。それと同時に他の仲間たちも突っ込んでいく。


「ガスティーネイル」


輝術で魔物を怯ませる。この術は結構お気に入り。なんたって範囲は広いし威力もそこそこ。
なんて、思っていると魔物がこちらへと突っ込んできた。
え、ちょっと待って…私詠唱硬直してるから、今動けないんだけど…!

魔物が私を引き裂こうと爪を高々に上げた。


「や、やば…!」
「ロックランス!」

硬直は解けたが、かわしきれないだろうと思い、受身を取った瞬間、マリクさんの詠唱と魔物の叫び声が聞こえる。
私は尻餅をついた。


「大丈夫か、名前」
「うあ、はい…。大丈夫、です」


マリクさんが手を差し出してくれる。私はその手を取り立ち上がった。
仲間たちが駆け寄ってきてくれた。…なんだか今日は私助けられっぱなしだな。
尻餅をついたときに擦ったのだろう両手のひらが痛いが、気にしないようにしよう。


「大丈夫か、名前?すまない、俺が油断した隙に…」
「いやいや、アスベルのせいじゃないよ。ありがとう、大丈夫だから!怪我もないし」


申し訳なさそうに言うアスベルに胸が痛み、そう言うと頭をバシンと誰かに叩かれる。
結構痛いよ…。

頭を押さえて見ると、シェリアが顔を顰めて立っていた。


「なにが怪我はない、よ!その手のひらはどうしたの!」
「あ、バレた?」
「バレた?じゃない!いい?今度からは隠さないのよ?もう、ほんっと心配かけるんだから!」
「名前、わたしが治療する」


駆け寄ってきたソフィに腕を取られ、私は素直に応じた。傍でシェリアの溜息が聞こえる。…オカンだ。この人、オカンだ。


「ヒール」


淡い光が私の手を包む。瞬く間に手の傷は塞がり、痛みもなくなった。
私はソフィにお礼を言い、彼女の頭を撫でる。すると、ソフィは気持ちよさそうに目を細めた。


「おい、あれを見てくれ」

マリクさんが何かに気づいたようで、遠くを指差す。
何かの建物のようだった。

「小屋みたいだね。あんなのも飲み込んでたんだ」
「ロックガガン…好き嫌いないの、偉い」
「信じられない…」
「外観はほとんど損傷がない。あの分だと中も無事かもしれんな」
「見てみましょう」
「え、なにかいたらどうするの?」
「だ〜いじょうぶだって、名前!」

楽しそうに笑うパスカルに手を引かれ、私たちは小屋に向かった。







小屋の中はいたって普通で。港や街道にあるような簡易なものだった。
中を漁っていると、アスベルが何かを発見したようで、皆を呼んだ。


「笛か?なんでこんなものがこんなところに?」
「とりあえず持っていこう!何か他にも面白いものないかな〜?」
「これは…誰かが残した記録日誌のようだな」
「記録日誌…?」

マリクさんの手元には数枚の紙。何かが小さい文字で書かれているようだった。

「ここに書かれた記述が確かなら、ロックガガンが暴れた原因は、今しがた戦った魔物にあるようだ。どうもあれは寄生虫で、そのせいでロックガガンが苦しみ、暴れているらしい」
「寄生虫を全部退治すればロックガガンはおとなしくなるって事?」
「寄生虫の親玉は体が紫色らしい。そいつを倒せば寄生虫を根絶できるそうだ。最後にこう書いてある。これを見た人よ、私に代わってロックガガンを救ってほしい…」
「あくまでここから脱出する事が最優先だが、寄生虫の事もなんとかできるといいな」
「外を目指しつつ、寄生虫がいれば対処する形で構わないのではないか?」
「そうしましょう」


皆が話し合っている中、私は気になる事があった…。
これ書いた人…どうしたんだろう。ブラックな考えが頭をよぎり、身震いした。
いや、大丈夫。ここから出れるさ、絶対に。





寄生虫を何体か倒し、私たちはこのロックガガンの体内を周りに周った。
流石に…疲れてきたなぁ。


「いつまで進めばここから出られるのかしら」
「う〜ん、どうだろうね〜。一生ここで暮らす事になっちゃったりするのかな〜」
「パスカル。相変わらず楽しそうね…」
「仮にそうなったとして…。シェリアがお母さんで、アスベルがお父さんでしょ」

そんなパスカルの言葉に、シェリアは赤くなってアスベルを見る。か、可愛い…!
…あれ?シェリアって、アスベル好きなのかな?今度聞いてみよう、うん。


「あたしとソフィが仲良し姉妹とかかな〜。う〜ん、ロックガガンの中の家族!なかなかいいねぇ〜」
「名前と教官は?」
「名前と教官はねぇ〜…」

ソフィが問うと、パスカルは私と教官の周りをくるくると回りだす。

「教官はおじいちゃんかな?名前は…ペットの猫ちゃん!」

ゾクリ、と何か殺気がした。
私とマリクさんは、パスカルのすぐ後ろに紫色の魔物がいることに気づいた。
槍を出すと、パスカルは慌てだす。いや、そういうことじゃないんだけどね…?


「い、いやだなぁ。冗談だってば。そんなに怒らないでよ〜」
「違う、後ろ!」
「ストリームアロー!」

咄嗟に放った術が、紫色の寄生虫(親玉だ…!)に当たる。
マリクさんがその隙にパスカルの手を引き、魔物から距離をとらせた。
私は槍を持ち直し、魔物に斬りかかる。


「裂風迅槍衝!」

私が槍で魔物を攻撃すると、魔物が分裂…した。え、え…?


「ふ、増えたよ!ちょ、え…き、気持ち悪い!」
「いくぞ!」


アスベルの掛け声で、みんなが戦闘態勢に移る。私は後ろに下がり、再び詠唱を始める。
とりあえず、こいつを倒したらロックガガンは落ち着くんだよね…?

術を放った後、私は静かに溜息をついた(なんだか最近溜息ばっかりだ。幸せが逃げるぞ、私)





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