「ロックガガンを殺すな!あれは大昔から生き長らえている学術的にも貴重な生物だぞ!」
「ロックガガンころしちゃやだー」
「我々はロックガガンを殺す事を決めたわけではありません。来たのは調査のためです」
「だったらどうして軍が街道に展開しているんだ?そんなの必要ないじゃないか!」
「ロックガガンが暴れて国民の皆様に被害が及んだ際、迅速に救助活動を行うためです」


セイブル・イゾレの街の真ん中、大きな建物の近くに人だかりが出来ていた。
その中心にいるのはストラタの兵士。かなり大変そうな状況だ。

というか皆。そんなにロックガガン好きなのか。愛されてるなぁ。


「ロックガガン大人気だね。これじゃ下手に手出しはできないね」
「元々は気性もおとなしくて人間に迷惑をかける事もなかったようだが…」
「というかそんなに大切なら保護して飼育すればいいのに」
「ロックガガン保護の声は日増しに高まってきている」


人だかりの向こうからおじさんがこちらへ向かって歩いてくる。
ソフィは警戒しているようで、アスベルの後ろに隠れてこちらへ来た男性を覗いている(可愛い…)


「しかし一方で街道を通れなくて困っているから、ロックガガンを始末してくれって声もある。…どちらも民衆の本音だ。いずれにせよこの状況に具体的な対策をせず放置すれば良くない結果しか生まれないな」
「困ったな…急いでユ・リベルテへ行かなくてはならないのに」
「首都方面へ急ぐのか?それはあいにくだったな…。すぐにはこの状況は打開すまい」

そういうと男性は去っていった。それを見送って、シェリアが私たちを見回し、聞いた。


「どうする?」
「…教官、ロックガガンというのはよほど危険な魔物なんですか?」
「大きいという話は聞いているが、具体的にどのような物かはオレも見た事がないのでな」
「まあ行くだけ行ってみたら?出てきたら逃げればいいんだし」
「私も、それがいいと思うわ」
「そうだな。ここで待っていたらいつ首都へ行けるかわからない。出発しよう」


アスベルの言葉に私たちは頷き、再び首都を目指して砂漠を進むことになった。
はぁ…また砂漠か。





「はぁー…」
「どうしたんだ、名前」
「いや、マリクさん…。暑いんですよ、めちゃくちゃ…」
「暑いのには慣れていないのか?」
「そうですね、どっちかというと肌寒い方に慣れていますからね。マリクさんはストラタで暮らしていた事があるんですよね?」
「あぁ、だがオレは暑いのも寒いのもどちらも大丈夫だ」
「ひぇえー。かっこいいですー」

砂漠をトロトロと歩く私。だって暑くてとけちゃいそうだ。これはトロトロ歩いちゃうでしょう。
あぁーどこかにオアシスでもないかなぁ…と私が呟くと、マリクさんが私の頭に手を置いた。


「首都のユ・リベルテは美しいぞ?お前の言うオアシスのような街だ」
「オアシスのような街…?そ、そんなところがあるんですか?」
「あぁ、キラキラとしていて涼しく、最高の街だな」
「おおー!ちょ、マリクさん。俄然やる気が出てきましたよ!うわー、楽しみだなぁ…!」


ユ・リベルテかぁ…。残念ながら私はユ・リベルテに行ったことがない。ストラタではオル・レイユ港でしか荷物を運んだ事しかないのだ。
あぁ…とても綺麗な所なんだろうなぁ。あぁ、早く行きたい!
私の歩くスピードが速くなったのを、後ろでマリクさんがこっそりと笑って見ていた。





砂漠を移動していた途中だった。ソフィが立ち止まり、周りをきょろきょろと見回す。
その途端、地面が小刻みに揺れ始めた。


「揺れてる…」
「地震か?」
「うぷ…何、この砂嵐…」
「っ…」


すると、今度は砂嵐が吹き始めた。ちょ、いきなりなんなんだ!
目に入るといけないので、私は慌てて顔を手で覆った。


「みんな、向こうを見て!」

シェリアの驚いたような声に、私は指の間からシェリアの指した方向を見る。


「な、なに…あれ」
「あれは…」
「ロックガガン?」


大きかった。本当に、とてつもなく。
ロックガガンは遥か向こうにいる。だがどうだろう、ゆっくりとこちらへ向かってきているような…。


「う〜ん、あの大きさはさすがに予想外だな〜。って、こっち来るよ!」


アスベルが逃げよう、と声をかけるがそれはもうすでに遅し。
ロックガガンはもう目の前にいた。は、はやい!

その口がゆっくりと開き、私たちの方へ…って、え?え、ええええええ?


「―――――――!」


アスベルの叫び声が聞こえたが、私にはどうすることもできなかった。







「んっ……」


なにやら、物凄い匂いで目が覚めた。いや、匂いじゃなくて臭い。とても臭かった。
目を開けると、先ほどまでの砂漠ではなく…なんか、よくわからない場所だった、よ…?って、あれ。


ガクン


足場がどんどん沈んでいく。え、え、え…?


「っ!」
「名前!手、出して!」


同じく起きたのであろうパスカルが落ちそうになっている私に気づき、手を差し伸べる。
私はその手を掴み、岸へ引き上げられた。


「っ…あ、危なかった…!ありがとう、パスカル!」
「どういたしまして!大丈夫ならよかった!って、ここは…」
「ふむ。どうやらオレたちは奴の腹の中にいるようだな」

見ると、マリクさんや皆も起き上がっていた。…って、腹の中って。
私は先ほどまで乗っていた足場のあった場所を見る。もしかして、落ちたら私…。うわ、うわあ!


「おなかの…中?」
「嘘…」
「いや〜、いくらなんでもここまで大きいとは思ってなかったよ」
「パスカル、随分楽しそうね…」


するとソフィが近くにあった大きな塊を触る。ねちゃあ、となんだか嫌な音がした。うえぇ…。


「ねばねば…」
「嫌あっ!ななな、なにこれ!」
「胃の中って事は…胃酸?」
「急いでここから出よう。胃酸で溶かされても困る」



とりあえず、ここから脱出するために足場がありそうな所を辿っていく事になった。
足場を辿りながら、パスカルは面白そうに呟く。


「いやぁ〜この先が口だといいねぇ。そうでないと、お尻の方から外に出ることになるしね」
「それだけは絶対嫌!もう、しんっじられない!」
「まぁとにかく出発しようよ。進んだ先が頭である事を祈りつつさ」
「そうだな。急がないと消化されて、結局尻から出るはめになるぞ」
「い、いやぁあ〜」
「皆…尻尻いいすぎ」


はぁ、と辺りを見回した。やはり臭いのは消えない。まぁ、お腹の中だからなんだけど。
いつここから出れるんだろう、と私は溜息をついた。




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