ロックガガンがセイブル・イゾレの街の近くの街道で暴れまわっていると聞いたのは、朝食の席でのことだった。
にしても昨日の晩御飯の「魚介類めちゃ乗せパエリア」美味しかったなぁ…いいなぁ、ストラタ。美味しいものがいっぱいだよ。


「危ないから軍が街道を封鎖するって…きっとすっごく大きいんだよね〜」
「…どうするの?アスベル」
「状況が分からない事にはなんとも判断がつかない。ひとまずセイブル・イゾレの街を目指そう」
「だって、名前」
「はぇ?な、なんだって?」


いきなり声を掛けられ、頭から昨日食べたパエリアの美味しそうな画が消える。
見るとソフィが首を傾げてこちらを見ていた。

「セイブル・イゾレに行くって」
「あ、はい。わかった」


いけないいけない。パエリアの事考えてたら皆の話を全然聞いてなかった。
…なんか心に余裕が出来たからかな…。昨日より全然世界が違って見える気がした。小さなことでも楽しめる、そう思えた。
やっぱり自分、固くなりすぎていたのかな…なんて、昨日までの自分を小さく笑う。



「名前、砂漠越えになるから水分補給は怠らないようにって教官が言ってたよ」
「砂漠かぁー…船とか出てないのかなぁ」
「残念だが出てないぞ。ほら、名前。お前の分の水だ」


砂漠に入り、アスベルから魔法瓶を手渡され、私はそれに口付ける。
冷たい水が乾いた喉を潤していった。


「こら!名前。今飲んだら後で後悔するわよ?」
「え、だって…」
「だって、じゃない。後で無くなって欲しいって言っても知らないわよ?」
「シェリアのけち」
「…本当にあげないわよ」


横目で睨まれたので、私は慌ててパスカルの傍へ行く。
すると彼女に肩をぽんぽんと叩かれた。


「どんまいどんまい!」
「そうだよね、どんまいだよね!」
「はぁ…。それにしても、ロックガガンという魔物だけで軍が道を封鎖するなんて…。それほど危険な魔物なんですか?」
「魔物だといっても、とても人間が戦える相手ではないらしい」
「戦える相手ではない?どういう意味ですか?」
「オレもそう聞いた事があるだけだ。もしお目にかかれたらその答えがわかるのかもな」
「わくわく」
「いや、パスカル。出来ることなら会いたくないよね?なんでそんなにワクワクしてるの?」


なんとなくパスカルのマフラーをぎゅっと掴むと、首が絞まったみたいで「ぎょえーっ!」っとパスカルは奇声をあげた。


「名前、ひどいよー!」
「ごめんごめん」
「はぁぁー!それにしても喉渇いたしさ〜、こんなに暑いんじゃ死んじゃうよ〜」
「確かに…めちゃくちゃ暑いよねぇ。アスベルとかあんなにきっちり着込んで暑くないのかな?」
「ほんとだー。でもそれを言ったら教官も胸元開いてるけど結構着てるものゴツくない?ねぇ、教官は平気なの〜?」
「では、このサボテンに助けてもらうとするか」

マリクさんは近くにあったサボテンを指差す。ん?どういうことだ?


「サボテンに?」
「内に水分を保持しているストラタサボテンは現地の人間にとっては貴重な植物だ。こうやって切ると…」
「うわっ、なんか出てきた!」


マリクさんが果物ナイフでサボテンを切ると、中から液体が出てきた。
いや、水だけどさ…なんか、不味そう。


「ほら、水が飲める」
「教官すごーい!」
「アスベル、名前もどうだ?」
「はい、俺も喉がカラカラで。助かります」
「私は…まだ魔法瓶に残ってるからいいですよ」


やんわりと断ると、マリクさんは少しだけ悲しそうな表情になる。な、なんかごめんなさい。
パスカルとアスベルはマリクさんから受け取ったサボテンに口を付ける。


「ごくごく…うっ」
「どうだ、旨いか?」
「ぬるくてまずい」
「緑くさい、です…」
「うわっ、助かった!飲まなくて良かったー」
「お前たち…」


マリクさんが何か言いたそうにしてたけど、アスベルとパスカルはそれどころではないようでぺっぺっと唾を吐きながらストラタサボテンを捨てた。
私はマリクさんの背をぽんと叩いて、前の方で談笑していたソフィとシェリアに混ざった。



「どうしたの?教官落ち込んでるし、アスベルとパスカルは物凄い表情で前に行っちゃったし…」
「ちょっと緑くさくてぬるかったんだよ」
「何が?」
「サボテン」
「サボテンを食べたの?ま、また無茶なことを…」
「いや、サボテンの…何だっけ?汁?を吸った」
「し、汁?な、なんてものを飲ましたんですか、教官!」
「…しばらく話しかけないでくれ」


マリクさんは寂しそうにとぼとぼと歩いていった。
その先には、巨大な橋。お、着いたのかな?


「おーいみんなっ!セイブル・イゾレに着いたよー!」


すっかり元気になったパスカルが、どこで買ってきたのかジュースを手にしながら叫んでいた。
そんな彼女の隣には同じくジュースを持ったアスベルが。二人ともいつの間に買ったんだ…?


「ここまでは無事に来られたね。ロックなんとかが出るのはこの先だったっけ」
「街の人に話を聞いてみよう。何かわかるかもしれない」
「そうだな、それがいいだろう」



少し不機嫌な教官を笑いながら、私たちはセイブル・イゾレを少し歩く事に決めた。





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