「兄さん、これを…」
ヒューバートはアスベルに小さな袋を手渡した。
「ん、なんだ?この袋は」
「…別に大した物じゃありません。ただの…お守りです」
顔を真っ赤にしたヒューは少し怒ったように続ける。
「さあさあ!行くなら早く行ってください!」
「ああ、行ってくるよヒューバート」
アスベルは優しく頷くとそのお守りをポケットの中に仕舞った。
そこで、私はあることを思い出す。
「ねぇ、ヒュー。さっき言ってた私に伝えないといけない事って何?」
「あ、あぁ…そうでした。…少しこちらへ来てください」
「うん…?あ、みんな表で待ってて。少し話があるから」
そういうと、みんなは頷き客室を後にした。
ヒューバートを見ると彼は少しだけ顔色が悪かった。
「どうしたの…?」
「…あなたの船は、モンスターに襲われたのですか?」
「え…うん。そうだけど…。なんで、それを聞くの…?」
顔をしかめるヒューバートに、私は嫌な予感しかしなかった。
「先日ラントの近海に、モンスターの死骸と…積荷と…船体の一部が浮かんでいました…。海底を調べた所、…僕が幼少の頃に見た船が沈没していて…」
あなたは無事だったんですね…と言うヒューバート。
私の頭は真っ白になった。
じゃあ…お父さんたちは…
「生きてる人は!?生きてる人はいなかったの!?」
「…残念ですが…」
「っ!」
私を逃がしてくれたお父さんや船員のみんなの顔が次々と浮かんでくる。
こうなる事を予想していなかったといえば嘘になるが、やっぱり信じたかった…。
お父さんは…もういないんだ…。ガクリと膝をつき、私は拳を握る。
「みんなは…お父さんはどこにいるの?」
「すでに海中モンスターに肢体が喰らいつくされていたようで、その姿を発見することはできませんでした…」
「…」
身体も、もうない。
もうその姿を見ることはできない。
脳裏にお父さんの最期の顔が浮かんだ。
「生きろ、お前は生きるんだ。それが私の望みだ」
優しい、笑顔で…
「っ、うぁぁっ!」
「名前…」
「あぁぁぁぁっ!」
ヒューバートは私を抱きしめる。
私は、叫ぶ事しかできなかった…。
沢山のものを一気に失った
私はこれからどうすればいいんだろうか
役立たずな私
本当に、ここにいてもいいのかな?
友達なのに、家族なのに…
何もできない自分が悔しい。
苦しいよ…