裏山からラントへ戻る途中…私はリチャードの手を握り笑った。リチャードは驚いたように目を見開いたが、その目は優しく曲線を描き私の手を握りなおす。
するとソフィもやってきて、リチャードと繋いでいる反対側の手を握った。ソフィはそのまた反対側の手をアスベルに伸ばした。
アスベルは少し照れながらも差し出された手を握りなおし、みんなに声を掛ける。


「またこうしてみんなで朝日が見たいな!今度はシェリアとヒューバートも一緒に!」

そうだね、とリチャードが言い、私とソフィも頷いた。


私たちは友達だ。
それはいつまでも変わらないことで、かけがえのないことで、みんなの宝物で。
私はそれがこの先、何があろうとも、何年経とうとも続く…そう信じていた。







「んっ…」
「名前!」


目が覚めたのと同時に、今まで感じていた幸せな思い出が消えてなくなってゆく。
夢…だったのか、そうだよね…もう7年も前の事だ。


「よかった…本当に…よかった」

ボーっとしていると、誰かの声が聞こえたのでそちらに目を向ける。
青い髪…ヒューだ。


「…ヒュー?」

私がボーっとしたまま彼を呼ぶと、彼は嬉しそうに笑った。
なんとなく周りを見渡す。…ここはアスベルの家の客室だろうか…?リチャードと初めて会った場所でもある。


「私…どうして…?」
「すみません、名前。あの後あなたはリチャード陛下に腹を殴られて気を失ってしまったんです…僕のせいで…僕が、守れなかったから…」
「ヒュー、ヒューは悪くないよ」
「でも…」
「悪くないよ、…誰も悪くないよ…」


そう、リチャードだって悪くない。だれも、誰も悪くないんだ…。





それから、ヒューバートに私が気絶していた間のことを聞かされた。
リチャードはソフィとヒュー、アスベルと戦って深く傷を負い、撤退していったという。
それに、ソフィの記憶が戻ったという事。…私はとても喜んだ、彼女は…あの時の少女だったんだ…

そして、みんなはこれからヒューバートのために大統領に信書を渡しにストラタへ行くという事を聞かされた。


「それで…みんなは?」
「それが…」


言葉を濁すヒューバートに疑問を持ちながら、ふと横に視線をずらす。
そこには、ストラタの軍人さんが呻きながら寝ていた。


「どうしたの、この人…」
「…その男は大統領に信書を渡すのを快く思っていなくて、シェリアを人質にとったんです。それで今、兄さんたちはシェリアを助けにラントの西に向かっています」
「シェリアが!?…!」

私は立ち上がり身なりを整える。そして傍においてあった槍を手に取る。


「名前あなたは怪我人です!」
「でもシェリアが!行かなきゃ、私…!」
「名前、僕はあなたに伝えなくてはならない事もあるんです!」

そこで部屋のドアが開いた。
振り返ると、アスベルたちが笑いながら部屋に入ってくる所だった。


「名前、よかった!目が覚めたんだな!」
「シェリア!」
「あらら、無視されちゃったねーアスベル」
「う…」


私はシェリアに駆け寄り、その細い身体を抱きしめる。


「名前、あなた身体は大丈夫なの!?」
「心配したよ…」
「!…名前…ありがとう。…でも私たちも貴女のこと、とても心配したのよ?」


シェリアの言葉に、私は顔を上げみんなを見る。
みんなは優しく微笑んでいた。


「心配かけてごめんなさい…私はもう平気だよ!」
「あぁ、よかった…」


アスベルに頭を撫でられて、それがなんだか懐かしくて目を細めた。


「シェリア、今回の件は全てぼくの管理不行き届きが原因です。申し訳ありませんでした」
「過ぎた事はもういいわ。それより…」


シェリアは抱きついたままの私を優しく離し、例のストラタの軍人の方へ行く。


「ひどい傷…」

よく見たら、彼の腹には包帯が巻きつけられていた。何故。

「追いつめられて、発作的に自らを刺してしまったんです。なんて浅はかなまねを…」


なるほど。


「もう大丈夫ですよ。今、治療しますからね」


そういうとシェリアの両手は温かい光に包まれる。それを男に向けた。
するとどうだろう、先ほどまで呻いてばかりいた男が目を開いた。


「あなたは…」
「…これで後はしばらく安静にしていれば良くなるでしょう」
「私はあなたに酷い事をしたんですよ。一体どういうつもりで…」
「もうその事はお互い忘れましょう」
「あなた…!」


彼女の優しさに感動した、というか…男の顔が赤い…シェリアに惚れたな。
シェリアは両手の光を収め、男に微笑みかける。


「これからは無茶な事はしないで下さいね」
「…は、はい。…わかり、ました…」
「では俺たちは予定通り信書を届けにストラタへ行こう。…シェリア、名前。ついて来てくれるか?」
「あ、うん。もちろん!」
「…」
「どうした、名前」
「あ、ううん。何でもない。私ももちろん行くよ!」


その言葉に、仲間たちはほっとしたように談笑を始めた。
私は一瞬考えてしまった。
ここで、ストラタに行ったら…リチャードの事はどうするの、と。リチャードに会って伝えたい事があるんじゃなかったのか…と。



「(でも…)」

私は唇をかみ締める。
結局、自分の居場所はないのだ。王都へ行っても、リチャードはきっと会ってくれないだろう。あんな事があった後だし。何より彼は王様だ…簡単に会えるわけがない。
じゃあ自分はどこへいく?家族も行方知れずなのに…自分の居場所はどこにあるのだろう。
だったら、アスベルたちについていってせめてもの役に立つべきだ。…結局私にはなにもできない。


あぁ、自分は結局変わっていない。
そう痛感した。






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