「うっ!」
リチャードが身じろいだ隙に、私は腕を引かれリチャードから解放された。
…ヒューバートだった。
彼がリチャードの腕の近くを撃ち、怯ませたのだ。
「ヒュー…?」
「…大丈夫ですか」
「う、うん…」
ヒューバートは私をリチャードから守るように隠し、睨みつける。
それに答えるようにリチャードもまた、ヒューバートを睨みつけた。ヒューバートを睨んだまま、リチャードは続ける。
「とにかく…僕に逆らう者は容赦しない。思い知らせてやらないとね」
「リチャード、最近のお前は何かと言うとそればかりだ。今のお前のやり方は間違っている!」
「どうやらラントを攻め落とす前に君と話をつける必要があるようだね」
リチャードが私たち全員を睨む、これは…戦う気だ。
アスベルは小さな声でシェリアに言う。
「シェリア、みんなと一緒に街の人を安全な場所に誘導してもらえないか。俺が話している間に早く!戦いが本格化してからでは遅い」
「…わかったわ。ソフィ、行きましょう」
「ここに残る!」
「いいから早く!」
シェリアとパスカルがソフィの両手を掴み、街の方へと引きずる。
それにマリクさんも着いていった。
残ったのは、私とヒューとアスベルだけだった。
「名前も早く!」
「私は残るよ…リチャードと話をしなきゃいけないから」
そう言うとアスベルは、そうか…と頷いた。
…もう一度、私たちはリチャードを見据える。
「アスベル、もう一度聞く。僕の何が間違っているって?…君は僕の事ならなんでも理解してくれるんじゃなかったのかい?」
「力に頼り、恐怖で縛るばかりのやり方では何も解決できはしない。そんなやり方では平和など到底手に入れられない!」
アスベルは一歩踏み出し、リチャードに訴える。
「わかってくれ、リチャード!昔のお前に戻ってくれ!」
するとリチャードは悲しそうに俯く。
「そうか…本気なんだね。君も僕に逆らうのか…所詮は君も…」
彼を取り巻く雰囲気がまた変わった。
リチャードは剣を真上に突き出し、叫ぶ。
「うおおおおおっ!」
青い光を纏った剣を、こちらに向けるとその光は物凄い勢いでヒューの方へ向かってくる。
ヒューは武器を取り出しそれを受け止めた。
一瞬、視界が真っ白になった。
「ぐっ…!」
呻き声に恐る恐る目を開くと、ヒューが膝をついて倒れているではないか!
私はすぐに彼に駆け寄る。
「ヒューバート!」
アスベルも駆け寄ってきて、私たちは傷ついた彼を心配する。
苦しそうにヒューはリチャードを見上げた。
「なんて凄まじい闘気だ…本当にあのリチャードか?」
するとリチャードは剣を向けながら私たちに近づいてくる。
リチャードは足でアスベルを蹴り倒し、私の腕を掴むと先ほどのように拘束した。
「返してもらうよ、弟君」
「ぐっ…名前…!」
アスベルとヒューバートが慌てて私を追いかけようとするが、リチャードは彼らから私を遠ざけてしまった。
私はリチャードをキッと睨みつける。
「離してよ、リチャード!」
「名前…少し眠っていてくれ、君には見せたくないからね…仲間が死ぬ瞬間なんて」
腹に衝撃が走る。
薄れ行く意識の中、最後に見たのはリチャードの酷薄な笑みだった。