玉座の間から出た後、私はその場にうずくまり涙を流す。
悲しかった、リチャードと私の関係が全て崩れた、そんな気がした。リチャードは一体どうしたというのだろうか、全く分からない…。

幼いころの彼は、今の彼とは全くの別人だった。
優しくて、お兄ちゃんみたいで…。憧れだった、私の知らない何かを沢山知っている…それがすごく魅力的だった。
久々に会った彼は、昔みたいにあまり微笑まないものの、あの時の優しさが残っていて…?

あれ、じゃあ変わったのは…旅の途中?



私はハッと顔を上げる。
彼が変わり始めたのは、ソフィの手を拒んだときからだった気がする。それまでは昔私たちと仲良しだったリチャードだった。
そこから、何かが変わり始めた。

じゃあ、具体的に何が変わった…?
みんなへの態度?考え方?アスベルに冷たくなったこと…?
私と小屋で再会したときは、それらは昔のままだった。…何かが引き金となって彼を変えてしまったというのか?


でも…結局人は変わるものだ。7年も会ってなかったんだ、変わるのも当然…。

いや、でも…当然、なのかな…。
あの変わりようははっきり言っておかしい…何かが変だ。


それとも私は、「リチャードは変わってしまった」と決め込んで、「仕方ない」と思いたいだけではないのか?
自分に腹が立つ。彼は私の友達なのに、信じないといけないのに…!



…じゃあ、私はこれからどうしたらいい?
このままリチャードが違った道に進んでいくのを黙ってみているだけなんて、そんな事できない。
じゃあ、どうすれば…?彼の気持ちは、全く分からないというのに…。

全く、分からない…?
…私は分かろうと、彼の気持ちを理解しようとしていないだけなのかもしれない…。
まずは、彼を理解しないと彼を変えることなんてできない。




そのためには…ラントだ。
アスベルがヒューに頼み、交渉の席についてもらって、ウィンドルとストラタの問題を解決してリチャードに安心してもらおう。
そして、話すんだ。私たちはリチャードをずっと友達と思っていると、だから何でも相談してくれ、とリチャードに言うんだ。


「名前、こんなところにいたのか!」


立ち上がり、アスベルたちの下へ向かおうとしていたら、向こうからやってきてくれた。
アスベルに、シェリア、ソフィ、パスカル…それに…。


「確か、アスベルの…」
「君が名前さんか、俺はマリクだ。これからの旅に同行させてもらうことになった、よろしく頼む」
「呼び捨てで大丈夫ですよ、こちらこそよろしくお願いします。心強いです」


笑顔で言うと、シェリアが驚いたようにこちらへやってきた。


「名前、あなた泣いてたの?」
「うーん、まぁ泣いていなかったといえば嘘になる」
「…リチャードと何かあったのか…?」
「ちょっと喧嘩。でも仲直りするから、絶対に…」


そういうと、みんなが心配そうな表情になったので、私は笑顔でみんなを見る。
すると、次第にみんなが笑顔になる。それが嬉しかった。


「何かあったら私たちに相談するのよ!名前は抱えちゃうんだから!」
「ありがとう、シェリア」
「名前、こっち…」


ソフィに呼ばれたので、向くと頬を伝っていた涙をハンカチで優しくふき取られる。


「ありがとう、ソフィ」
「私、名前に泣いてほしくない」
「ソフィの言う通り!名前に涙なんて似合わないよ〜!」


パスカルに頭を撫でられ、私は本当に幸せな気持ちになる。
友達って、本当に大切だ。何かあったら心配してくれて、私の心の支えとなってくれる。
…私は、リチャードの心の支えになりたい。…だから今は…


「ごめんね、遅くなっちゃって。じゃあ早速ラントに向かおう!」
「あぁ、行こう!」


リチャードのために、みんなの幸せのために…私はやれる事をやろう。










ラント、私の大好きな土地。
ここで初めての友だちができ、色々なことを体験した。私にとってかなり思い出深い土地。
そんなラントへと通じる門は、ストラタ軍により閉じられていた。


「門が閉じられてるね」
「シェリアはいつもどうしてたの?」
「頼めば開けてくれるわ。私はいつもそうしていたもの」
「彼らはアスベルの正体を知っているのではないか?不用意に近づくのは避けるべきだ」
「アスベル、門を通らずに街の中に入る方法はないの?」
「門を通らずに…」

アスベルは考え、視線を川の方にずらす。


「そうだ…水路を伝っていけばきっと」

アスベルはそういうと川の方まで降り、水路の鉄格子を外す。
私たちも川に降り、アスベルの後に続いて街の中に入った。




川から出て、辺りを見渡す。
幼い頃来たときと変わらない、のどかな街がそこにあった。

綺麗だ…子供の頃の思い出が蘇る。
リチャードと橋の上でお話したり、ヒューやアスベルと川で魚を捕まえたり…


「名前、何をボーっとしているんだ。アスベルたちはもう屋敷に入ったぞ」
「え、あ、ホントだ。すみません、マリクさん」
「何か、思い出していたのか?」
「…はい、子供の頃のことです。私はここの出身ではないんですけど、一番思い出深い大切な場所なんです」
「そうか…アスベルたちも喜ぶだろうな」
「そうですね」


大切だ、この土地もここでできた人たちも、みんなみんな。
だから守りたい、侵攻なんて絶対させない。よーし、待ってろヒューバート!







「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -