バロニア城に通じる地下通路の先に、リチャードはいた。
周りには兵士たちが倒れており、そのなかで彼は一人だけ立っていたのだ。その後姿が、私は怖かった。



「リチャード!」
「アスベル…来たのか」

少し疲れたような声で、リチャードはこちらに振り返りながら剣を鞘におさめる。


「見ての通りだ。待ち伏せを受けて部下が全員やられてしまった。なんとか僕だけは残ったが…」
「この先は危険だ。後の事は俺たちに任せてもらえないだろうか?」
「それはできない。僕はなんとしても自分の手で叔父と決着をつけたいんだ」
「ならば、せめて俺たちを同行させてくれないか」
「…いいだろう」


リチャードはそういうと、一人で通路の奥に向かう。私たちは急いでそれを追いかけた。


「…リチャード、もう体調は大丈夫なの?」
「あぁ、心配かけて悪かったね。…そういえば」


リチャードは私の腕を掴むと、自分の目の高さまでそれを上げた。
私やみんなはビックリして目を見開く。


「デールに押し退けられたときに出来た傷って、これかい?」
「あ…」
「名前、あなた怪我はないって言ってたじゃない…!」
「ごめん、シェリア…でもあの時はそれどころじゃなかったし…」
「全く…困った子だね。シェリアさん、治療をしてあげてくれ」


私の頭を優しく撫でるリチャードに、私は戸惑いを隠せない。
さっき見たリチャードと、このリチャードは…どっちが本物のリチャード…?


「リチャード…私…」
「どうかしたのかい?名前…。何か悩み……!くっ、やめろ…出て…くるな…」


突然、その場に膝をつくリチャード。私は急いで駆け寄り、背中に手を添える。


「大丈夫か、リチャード!?やっぱりお前、どこか悪いんじゃないのか?ウォールブリッジで襲われた時の怪我が痛むのか?…まさか、前に言っていた国王に盛られた毒が…」
「ああ…叔父は以前父に毒を盛っていた。そしてもちろんこの僕にも同じ事をした…!…それがうまく行かなかったため今度は直接殺しにかかったんだ」

リチャードはゆっくりと立ち上がり、目を細める。


「…この借りは必ず返す。僕の命を狙った事を後悔させてやる…」
「リチャード…」
「…もたもたしてはいられない。さあ、行こう」


また、リチャードの雰囲気が変わった。
さっき彼は「出てくるな」と言った。二重人格…?いや、でも…それは非現実的すぎる。
リチャードの苦しそうな表情…あんなリチャードを見るのは、私には耐えれない。

じゃあ…どうすれば…?
私は、どうすればいいのだろうか。彼のために、何か出来ることはあるのだろうか…?









「この先が玉座だ」


リチャードの案内で、簡単にバロニア城を進むことが出来た。
振り返り、真剣なまなざしでリチャードは私たちを見る。


「叔父は身内に毒を盛るような卑劣な男だが、そのやり方に似合わず、剣の腕は確かだ。…みんな、準備はいいね」


その言葉に、みんなは頷く。
これで、これで終わる…。もしこの戦いがリチャードを変えてしまったのなら、この戦いが終わればリチャードも元通りになる。これで…これで終わると、思いたかった。


「リチャード、私頑張るね」
「あぁ、ありがとう。…でも、無理はしないでくれ。…君が傷つくなんて、僕には耐えれない」
「リチャード…」
「さぁ、行こう」


リチャードは剣を抜き、玉座の間へと繋がる扉を開いた。






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