中央塔の展望台にリチャードとデールさん、グレルサイド兵の姿があった。
デールさんは跪き、リチャードを見上げながら話す…その目はやる気に満ち溢れていた。


「殿下の勝利を知った諸侯や兵が続々と集まってきております。もはや大公と言えど殿下の勢いを止める事はかなわないでしょう」
「儀王はまもなく滅びる。叔父セルディクよ。最期の時を震えて待つがいい」


やはり、おかしい。
リチャードはこんなことを言う人だっただろうか…。7年という時間はそんなに簡単に人を変えてしまうのだろうか。
彼は王族だ、私みたいな一般人にはとても分からないような大変な思いをして生きているはずだ…
でも、それでも…

小屋で私を包んでくれた温かさ、決戦前夜の時私の手を包んだ大きな手のやさしい温もり…
7年前の面影は、今のリチャードに確かにあった。だからこそ、今の彼の状態に疑問を抱いているのだ。


「あれが…あのリチャード?」


シェリアも、彼の変わりように驚いたのか呆然とリチャードを見つめる。
その声でこちらに気づいたのか、リチャードは振り向いてアスベルを見た。


「アスベル、来たか。…こちらへおいで」

その声に答えてアスベルはゆっくりとリチャードに近づく。

「…ようやくここまできたね。あとは王都を攻め落とせば戦いは終わりだ。見ていろ、正義が勝つという事を晴天の下に知らしめてやる。…む?君は…」


リチャードはシェリアに目を向けると、彼女はリチャードの前に跪いた。



「シェリア・バーンズです。お久しゅうございます、殿下」
「シェリアさんか!君も僕の発した檄に応じて馳せ参じてくれたのかい?」
「あ、私は…」
「安心してくれ、僕が王位を取り戻したら、次はラントを救ってあげるよ」
「シェリアが来たのは戦いで負傷した将兵を助けるためだそうだ」
「そういう事ならよろしく頼むよ。傷つき苦しんでいる兵たちを治してやってほしい」
「かしこまりました」
「捕虜の治療はしなくていいから、味方を優先してやってくれ」


私は驚いた、敵とはいえ同じウィンドルの人間なのに…?
急いで私はリチャードの下へ行き、その腕を掴む。


「みんな同じウィンドルの人だよ?国民を傷つけたくないって言ってたじゃん!」
「…名前。叔父に手を貸すような連中は全て賊軍だ。負傷しようと慈悲を与える必要なんてない」
「そんな…!」
「僕に敵対する人間など、僕の王国の民ではない」
「リチャード…」
「奴らは見せしめに処刑する。僕に逆らったらどうなるか思い知らせてやらなくてはね。しかも僕は奴らのせいで危うく死にそうな目にも遭った。絶対に許せない」
「……」


そう思うのは、当然のことなのだろうか…?それともやり過ぎているのだろうか。
私には分からない…どちらともいえない。
だから私はそれ以上リチャードに言う気になれなかった。


「とにかくそういう事だ。僕が奴らを処刑すべきだと考えるのも当然だろう?」
「しかし処刑なんて…考え直すんだ、リチャード」
「まだ言うか、アスベル」
「彼らの意志で敵対しているわけではないだろう!恐怖で人を縛る事が上に立つ者の為すべき事ではない筈だ!」
「アスベル…。君は僕に王の心得でも説いているつもりか?」
「違う!俺はただ…!」
「うるさい!黙れ!」


リチャードはいきなり剣を抜き、それをアスベルに向ける。


「僕が目をかけているからと言って、少しいい気になっていないか?」
「やめて、リチャードっ!私たち、友達でしょ?」
「くっ…!」


剣を持っているほうの手を掴むと、またリチャードが呻き声をあげる。


「ぐああああっ!」
「リチャード…?」
「殿下!」


デールさんが私を押しのけリチャードの傍から離し、駆け寄る。
私は後ろに倒れ、尻餅をついた。


「っ…!」
「大丈夫?名前!」

腕が痛い…どうやら擦ったようだ。
駆け寄ってきたシェリアに笑顔でなんともないと返すと、私は立ち上がりリチャードから距離を置く。
デールさんはグレルサイド兵に命令する。


「殿下を室内にお連れしろ!それとすぐに医者だ!」


リチャードは、グレルサイド兵に連れられながら下へと降りていった。
デールさんは怒ったようにこちらを向く。


「アスベル・ラント。君に謹慎を命じる。殿下に対する君の態度もあわせ処分を検討する」

アスベルは何も言わずに礼をする。
私たちはそれをただ見ているだけしか出来なかった。







あれから、私たちはリチャードの傍から離れて遊撃隊として行動することになった。まぁ、あれだけデールさんが怒っていたから、覚悟はしてたけど…
でも、シェリアも一緒に来てくれることになったので嬉しかった。


私たちは私とアスベルたちが再会したあの海辺の小屋の付近に到着した。
だが、王都へと続く道は封鎖されていて通れなかった。


「アスベル、他に道はないの?」
「道…あ、洞窟だ」
「洞窟?」
「あそこにあるだろう?」


アスベルが指差す方を見ると、洞窟があった。


「あの洞窟、どこにつながってるの?」
「……あの聖堂だ」
「!…そう。じゃあバロニア城にも繋がってるってことだよね」


あの聖堂、私たちにとって良い思い出はなかった。
まさか、またあそこを通ることになるなんてな…



洞窟の付近に行くと、兵士がこちらに気づきやってきた。


「これはアスベル様。もしや殿下のご指示でこちらに?」
「殿下の指示だって…?もしかして殿下もここを進まれたのか?」
「はい。先ほど部隊を率いて突入を開始されましたが…」
「殿下が…。よし、俺たちもすぐに向かおう」

アスベルの声に私たちは頷き洞窟の中に入った。




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