(残酷描写あり)




北橋を無事に下ろし終えた私たちは、南門を開ける部屋に入るための鍵を取りに中央塔に向かっている。
襲ってくる兵士たちの中に、騎士団の人もいるようで…アスベルの表情は険しかった。


「アスベル…」
「…大丈夫だ、俺はリチャードを、みんなを守らなくてはならないから…」


自分自身に言い聞かせるようにその言葉を呟くアスベル。
彼は、自分の居場所がないと言っていた。
それは私もだ…。
船はどこにいったのかもわからないし、お父さんだって…生きているのかどうかさえわからない。
情報だって少ないから、どこへ行ったらいいのか分からない…全て手探りの状態だ。

だから…アスベルの気持ちは、少しだけ理解できる。

でも、彼にかけれる言葉が見つからない…。彼を励ます事が出来ない、彼の力になる事ができない…。
私は友達なのに…





「あった、鍵だ。あれさえあれば…」
「誰かいる…!」

リチャードが鍵を見つけて、取ろうとすると、ソフィが上を見て声をあげた。
上を見ると、兵士が剣を構えて飛び降りてきていた。


「何っ!」
「リチャードっ!」


手を伸ばしたが遅かった。
リチャードはドサリと床に落ち、動かなくなった。

急いで駆け寄ると、彼の傷口から大量の血が…


「っ!リチャードっ!」
「大変!」
「やった、やったぞ!この手で…王子を!」
「ソフィ、パスカル、あいつを捕らえろ!応援を呼ばれてしまう!」


兵士は興奮気味なのか、私たちには眼もくれずドアへと歩き出す。
アスベルはそれに気づき、ソフィとパスカルに指示を出す。
すると彼女たちは兵士を拘束した。


「リチャード、お願い。目を覚ましてよ!」

私はリチャードの身体を揺らす。
アスベルも近寄ってきて、リチャードに声をかける。


「リチャード、しっかりしてくれ!」


すると、リチャードの身体がびくりと動いた。


「え…?」
「リチャード…?」

彼の心臓の音がひどく大きく聞こえる。
ドクン、ドクンドクン…

様子がおかしいと感じたアスベルが私をリチャードから引き離す。
リチャードはゆっくりと立ち上がった。

そして、口をあけたままじっと上を見つめる。
…その瞳は血のように真っ赤だった。


「リチャード?」


リチャードはゆっくりと二人に拘束されている兵士を見る。
いつもとは違う雰囲気に私は驚き言葉が出ない。
…でも、この雰囲気…どこかで…



「下衆が…」
「リチャード…?」


ゆっくりと兵士に近寄り、その胸倉を掴む。
パスカルとソフィは驚き兵士から手を離した。


リチャードはそのまま兵士を長机へ放り投げると、その上に乗りあがった。
震える兵士は逃げようとするが、リチャードはそれを許さなかった。


「よくも…」


兵士を血のような瞳で睨み上げると、剣を抜く。


「この下衆が!」


兵士を斬りつけるリチャードに、私たちはさらに驚く。
パスカルはソフィにそのあまりにも悲惨な光景を見せないように彼女の目を覆う。
兵士の叫び声が室内に響き渡る。


「見るな、名前!」

私もソフィと同じように、アスベルに目を塞がれた。
ガタガタと体が震える。怖い、怖い…怖い


「貴様がしでかした事の報いだ!その身で思い知るがいい!」


兵士の身体を何度も何度も斬りつける音がする。
もう息絶えているであろうその身体を、何度も、何度も…



「あ…い、いや…」


私は震えが止まらない。
するとそれを見かねたアスベルが、私を背中に隠してリチャードに話しかけた。


「リチャード、もういい!やめるんだ!」
「まだだ…こんなもんじゃない…。僕の受けた痛みは…こんなものじゃないぞっ!」
「やめろ、リチャードっ!」
「僕に命令するなっ!」
「リチャード…」


すると、リチャードは手を止めた。


「僕は…一体…。ごめん、アスベル!僕は…君にこんな事を言うつもりじゃ…うぐっ!」

リチャードは机から降りると、胸を押さえて膝をつく。


「胸が苦しいのか?大丈夫か、リチャード!」
「平気だ…それよりも急いで南橋に向かおう。せっかく鍵も手に入った事だ」
「あぁ、だがリチャード。さっきの傷は…」
「僕ならなんともない。思ったより傷も浅かったようだ」
「なんともないって、あれほど…」
「ほんとだ」

パスカルがリチャードの傷を見て驚いたように目を見開いた。

「そんなにひどくなかったんだね」


嘘だ…あれほどの血が出ていたのに…平気だなんて。
アスベルも同じことを思っていたみたいで、目を見開いていた。


「アスベル、何をしているんだ。早く門を開けよう!」
「あ、あぁ…わかった」
「ほら、名前も!」
「……」



私はそっと机の上の兵士の死体に目を向ける。机が血に濡れていた。
何も、ここまで…


「名前…どうしたんだい?」
「なんでもない、行こう…」


リチャードの差し出す手を無視して、私は中央塔のドアを開けた。
…怖かった。
リチャードが、怖かった…。
心配するより先に、恐怖心が芽生えたのだ。

友達なら、心配するべきなのに…大丈夫?って、声をかけるべきなのに…。




私は唇を噛んだ。





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