明日の朝、私とアスベル、ソフィ、リチャード、パスカルでウォールブリッジの地下遺跡に行き、ウォールブリッジへ通じる装置から中へと忍び込む。
そしてウォールブリッジの扉を開け、グレルサイド兵をウォールブリッジへ迎え入れる作戦だ。
わたし達には、明日の朝まで自由な時間が与えられた。
デールさんの家の部屋を貸していただいて、私とパスカル、ソフィで一日過ごす事になった。
だが、先程からソフィの姿が見当たらない。
もう遅い時間なのに…。
私は心配になり、隣で寝ているパスカルに聞いてみる事にした。
明るい彼女。少し話してみるとすぐに打ち解けられて、最初に感じた思いもすぐに消えていった。
「ねぇ、パスカル。起きてる?ソフィしらない?」
「ぐおー、ぐおー」
「……」
見事に寝ていた、起きる気配は無い。
私はブランケットを身体に巻きつけ、外へ出てみる事にした。
デール邸の近くの橋の近くに、ソフィはいた。
物陰から何かを見ているのを不思議に思い、私はそっと声を掛ける。
「ソフィ?」
「名前…」
「何見てるの?」
ソフィと同じように橋を覗くと、そこにはリチャードとアスベルがいた。
「話しかけないの?」
私の問いにコクリと頷くソフィ。そして、黙って二人を見据える。
疑問を抱きながら、私もそれに倣うことにした。
「僕は…したく…道を、ざるを得ない…」
「一日も早く…取り戻そう…」
「明日は…必ず…」
断片的にしか聞こえないが、明日の作戦の事について話しているのだとわかった。
ソフィを見ると、無表情で二人を見ていた。
…いや、アスベルに視線を向けていない…彼女は、リチャードをじっと見ている。
「ソフィ…?」
「……」
「あれ、名前とソフィ。お前たち何で…?」
「あ、アスベルにリチャード!」
「立ち聞きかな?」
「う、それは…」
いつのまにかこちらへやって来ていた二人に、私は驚く。
すると、ソフィは何もいわずにこの場から立ち去った。
「ソフィ?」
「何かあったのか?」
「いや、特に無いはずなんだけど…」
もう一度ソフィの去っていたほうを見るが、もう彼女の姿は無かった。
「そうか、…じゃあ明日は早いし俺はもう寝るよ」
「あ、うん。おやすみ、アスベル」
「名前、これから少しつきあってくれるかな?」
リチャードが私の手を取り微笑む。これから寝るだけだったので、時間はある。
「うん、いいけど…?」
「じゃあ、おやすみ。アスベル」
「あぁ。リチャード、名前、おやすみ」
アスベルが去ったあと、私たちは街のベンチに座った。
ベンチは少しだけひんやりしていて、慣れるまでに時間がかかった。
「何か用事?」
「ただ、君と少し話したかった…っていうのは駄目かな」
「ううん、駄目じゃないよ」
そう答えると、リチャードは微笑んだ。
私の手を包み込むように優しく握る。
「こうしてゆっくり話すのは久しぶりだね」
「そうだね、色々ばたばたしてたからね」
空を見上げると満点の星空。
…今日は本当に色々あった。皆との再開、新たな出会いに…変な装置。そして明日の襲撃。
「名前、僕は本当に君に再会できて嬉しいよ」
「私も、会いたかったよ」
「ふふっ…」
静かな時間を、二人きりで過ごす。
私は、リチャードに抱いた畏怖の念なんて、とうの昔に忘れ去っていた。
「昔か…」
リチャードがポツリと呟く。
「昔は、よかった。君がいて、アスベルたちがいて…僕がいた」
「……」
「…いつの間に、こんなに変わってしまったんだろうね」
握り合っている手に力を入れるリチャード。
私は何も言えなかった。
リチャードのことを何も知らない。
もちろん、アスベルのこともソフィのことも。
私は友達というだけで、彼らを知った気でいた…。
7年経っても、何も変わらずにそれは続き続けるんだと信じていた。
だが、どうだ?
私は、みんなのことを何も分かっちゃいない。
友達なのに…
「……」
「変な話をしてしまったね。すまない、名前」
申し訳なさそうにするリチャード。
私は、笑顔で首を横に振る。するとリチャードも笑顔で頷いた。
「そろそろ、戻ろうか」
「…うん」
会話らしい会話もせずに、わたし達は部屋へ戻った。
7年…
それは短いのかな、長いのかな…?
みんなの周りでは、その7年の間に色々な事が起こったようだ。
私は、何か変わった?
みんなは、何が変わった?
本当に、私は何も変わっていないのかな?
それとも、私が変わって、みんなが変わってないのかな?
7年間って、何なのかな。