「さ、ここが橋の向こうに出れる出口よ」

青い装置の上に乗ると、パスカルさんは傍にあった機械をいじり始める。
そして自身も装置に乗ると、ボタンを押した。


すると一瞬で青い世界から、緑が茂る街道へと出た。遠くに、ウォールブリッジが見える。
それにしても、この移動には慣れそうにないなぁと思った。いきなり目の前に違う風景が現れるんだもの。


「どうやら無事に対岸へ渡れたようだ」
「これで予定通りグレルサイドへ向かえるね」
「お、グレルサイドへ行くんだ」
「パスカルさん、遺跡の中では色々とお世話になったね。ありがとう」
「あたしも一緒にグレルサイドに行こうかな〜」


そんなパスカルさんの言葉に、私たちは顔を見合わせる。


「よからぬ目的があってついてこようとしているんじゃないだろうな?」
「くくくく…ばれたか…」


ニヤリと笑うパスカルさんに、私とアスベルは武器に手をかける。
アスベルが彼女を睨みながらわたし達を後ろに隠す。


「お前!」
「ズバリ!あたしの目的はソフィと仲良しになる事だよ〜ん」
「……はぁ?」


私はガクリとなった。
なんなんだ、この人は。会ったときから思っていたけど、この人のテンションに私、ついていけないかも…。
アスベルを見ると、彼も口元をひくつかせていた。なんだか、私たちって似てるなって思った。昔は正反対だったのにな。やんちゃ少年とおとなしめな子。7年ってすごいと改めて思った。


「ソフィのこともっと知りたいし調べたいし、触りたいの!悪いけど、あんたらに興味はないですよー?」

ソフィはアスベルの後ろに隠れ、それを見てパスカルさんはニヤニヤする。


「アスベルと…え〜と、なんだっけ〜?」
「リチャードだよ、こちらは名前」
「ん、リチャードと名前ね。ねぇ、ソフィ〜。あたしとアスベルとリチャードと名前、誰が一番好き?」
「……」


ソフィは少し考え、パスカルさんに近づくとそっと耳打ちする。
するとパスカルさんはくやしそうに顔を歪める。


「むぉ〜!くやしい〜!仲良くなりたい〜、ソフィと仲良くなりたいよ〜」
「この人は…、悪い人ではない気がするよ。一緒に行っても平気じゃないかな」
「…そうだな、もうしばらくこのまま行こうか」
「ありがと〜。やっぱり旅は道連れって言うしね!」
「それじゃ、グレルサイドへ向かおうか」



皆は歩き出す。
…気にならないのかな、みんな。

ソフィは誰って答えたんだろう、一番、好きな人。
やっぱりアスベルかな?かなり懐いてるし。あぁー、気になるなぁ。今度パスカルさんに聞いてみよっと。



「リチャード、大丈夫か?」


アスベルの声で我に返ると、リチャードがガクリと膝をついていた。
私は慌てて彼に駆け寄る。


「リチャード!どうしたの?」
「…平気だよ」


そういいながら顔色の悪いリチャード。
私は彼の背を優しくさする。


「ここまで歩き続けだからな。少し休むか?」
「みんなに迷惑はかけられない…」
「具合悪いのに無理しない方がいいよ。あたしらの事なら気にしなくていいからさ。ねぇ、ソフィ」


だがパスカルさんの問いにソフィは答えずに、黙って手を見つめる。
そして、リチャードの元に歩いて近づき、その手を伸ば…


「よせっ!」


バシっとソフィの手を叩くリチャード。
彼は立ち上がり、ソフィを睨む。まるで別人のような、そんな表情だ。

私は驚いた。彼がこんな表情になったのを初めて見たからだ。
リチャードに、初めて恐怖心を抱いた。


「リチャード…?」
「…あ、ああ、すまない。急だったので、つい…」


下を向いたまま動かないソフィを心配して、パスカルさんが肩を叩く。

「ソフィ、大丈夫だよ。リチャードは照れてるんだよ。触られて照れるなんて、ソフィのことが気になってるんだね。…!ラ、ライバル!ライバルなの、リチャードは!」

ソフィは黙って顔をあげ、リチャードを見つめる。


「…二人とも、なんだか変だぞ」
「ごめんアスベル、そして…ソフィも。僕はやはり疲れているみたいだ」
「リチャード…。リチャードとわたしは…友達?」
「……あぁ、友達だとも」
「友達…」

するとまたソフィは下を向き、表情を歪める。


「さぁ、先を急ごう」


同じく下を向き、そういうリチャードを、みんなは一度だけ見つめて足を進めた。
だが、私は動く事ができない。


「名前…?」
「リチャード…」
「怖がらせてしまったのかな…」


私の頬を彼の手が触る。
ビクっと身体が強張った。


「名前…」

リチャードは悲しそうに頬から手を離す。

「…リチャード、ごめん…」
「気にしなくていいよ。…ねぇ、名前、僕は……」


リチャードは何か言おうとしてたけれど、一瞬ためらい、それ以降続きを言うことは無かった。
私は黙って、彼と一緒に街道を進んだ。







「今は非常事態につき、許可なき者を街へ入れる事はできぬ」


グレルサイドに着くなり、二人組みの兵士に止められた。
だがそのうちの一人がリチャードに気づいたようで、おそるおそる声をかける。


「あ、あなた様はもしや…。王子殿下であらせられますか?」

リチャードは頷き、兵士二人はすぐに姿勢を正し敬礼した。

「し、少々お待ちください!公爵様にお知らせしてまいります!」


一人の兵士が去ると、パスカルが珍しいものを見るかのようにリチャードをじっと見つめる。


「へぇ〜リチャードって王子様なんだ?偉かったんだね〜」
「リチャードは王子…、ならアスベルは何?」
「俺は…、今の俺は…何者なんだろうな」


少し自嘲気味に呟くアスベルに、私は彼の手を取り笑いかける。


「アスベルはアスベルだよ。わたし達の友達」
「…ありがとう、名前」

すると、先程の兵士が帰ってきた。

「お待たせいたしました。どうぞ、お通りくださいませ!」
「ありがとう、デールは屋敷にいるのかな?」
「はっ」
「聞いての通りだ。まずはデールの下へ行って状況を確認しよう」









街の奥には立派な豪邸があった。
早速中に入ると、声がかかる。


「殿下!」


リチャードは声のしたほうを見て、笑顔になる。


「デール!」


すると、高級そうな服に身を包んだ男性がこちらへやってきた。
男性はリチャードの前で跪く。


「殿下、よくぞご無事であらせられました。今も王都にいらっしゃるのなら、何としてもお助けしなければと出撃の準備を整えておりました」
「心配をかけてすまなかった。集めた軍勢は、これから始まる戦いに使わせてほしい。僕は叔父のセルディクを倒し、父上の無念を晴らす。デールにも力を貸してほしい」
「ははっ!無論でございます!」
「そうだ、紹介しておこう」


リチャードがこちらを見たので、私は姿勢を正す。
デールさんは立ち上がり、わたし達を見回した。


「こちらはアスベル。彼がいてくれたお陰で僕は王都を脱出する事ができた」
「アスベル・ラントです。お目にかかれて光栄です」
「もしや君はラント領の…」
「はっ。前領主アストンの長男です」
「そうだったか…礼を言う。よく殿下を助けてくれた」
「とんでもありません。殿下のために尽力するのは当然の事です」
「ソフィとパスカルさん。彼女たちにもとても世話になった」


ソフィとパスカルを紹介し、リチャードはゆっくりと私を見る。


「そして名前だ。…前に話しただろう?」
「はい、覚えておりますとも。…この方が…」
「?」


二人の会話がよく分からずに疑問符を浮かべていると、デールさんはアスベルの方を見て呟いた。


「それにしてもラント領か…。あの地もどうなっているのやら。今や事実上、ストラタに支配されているような物だからな」
「その辺の事も含めて詳しい状況を聞かせてほしい。その上で、今後の方針を考えたい」
「かしこまりました。それではこちらへどうぞ」



デールさんに案内されて、わたし達は2階へと案内された。
アスベルの表情は浮かないものだった。




「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -