パスカルさんに言われた通りに青い装置に乗ると、景色が一気に変わった。
先程までいた街道ではない。ここはどこ…?


「なんだ、何が起こったんだ?」
「ここはもう遺跡の中だよ」

パスカルさんの言葉に、わたし達は辺りを見回す。
地下の遺跡は、今までに見たこのとないような口では説明しにくい空間だった。
そんな場所に、私たちは一瞬で移動してきたのだ。


「僕たちは全然動かなかったのにどうやって別の場所に移動したんだい?」
「別に大した事はしてないよ。チャカチャカポンってやっただけ」
「チャカ、チャカポン…?」
「よくわからないんだが…」


私とアスベルが頭を抱える。
そんなわたし達に目もくれず、パスカルさんは嬉しそうに言った。


「ね、ね、凄いでしょ!地面の下にこーんな広い所があるんだよ!驚きだよね!」
「これが遺跡か…僕たちの街の様子とはまるで違うものに見えるね」
「遺跡を作ったのは大昔のアンマルチア族だからね。違ってるのは当然でしょ」
「アンマルチア族…?」
「アンマルチア族ってのはこうやって世界各地に残っている遺跡を作った種族の事ね」
「もしかしてパスカルさんは考古学者なのかな?」
「ん〜ま〜そんなとこかもね」


そう言うとパスカルさんは手をぐにゃぐにゃさせてソフィを見る。


「参考になった?だったらお礼に触らせて。ねぇねぇ」
「……さわるの、だめ」
「む〜けちんぼめ〜」
「…早く先へ行かないか?」
「はいは〜い」


ソフィが慌ててアスベルの背に隠れると、パスカルさんは頬を膨らます。
アスベルが少し呆れたようにパスカルさんを見ると、彼女は元気よく手を挙げた。








先程の入り口のようなワープや床移動がある入り組んだ道を、パスカルさんの後に続き進む。
すると、少し開けたところに出た。


「あった〜!これこれ!これが幻を映す装置だよ!」

パスカルさんの近くでその装置を見てみると、緑の文字が浮き上がっていた。
ここにあるもの全てが不思議だ、見たこともない装置たちに私は少しだけ興奮した。


「ここにある装置はどうやれば動く?」
「簡単だよ。横のところにあるのをパカパカってやって、最後に大きいのをピコってやればいいの」
「何を言っているのかまるでわからないんだが」
「やってみればわかるって。簡単だから」


アスベルが装置をいじると、ブーブーと大きな音が鳴った。
その音の正体は分からないが、画面に何も映らなかったことを見る限り失敗したんだな、と思った。


「しょ〜がないね。あたしが模範を見せますか」


パスカルさんがいじると、何も作動しなかった装置が動き出した。


「最初からパスカルさんがやってればよかったんじゃ…」
「名前、それは言わないでやってくれないか?」
「え、なんで?…あ」

アスベルを見ると少しだけ落ち込んでいるように見えた。

その瞬間、装置が音を発した。
わたし達が近寄ると、画面に何かが映し出された。

あれは…


「わたし…」


ソフィだった。
画面の中の彼女は無表情で、真っ直ぐ前だけを見つめていた。


「これがパスカルさんの言っていたソフィの幻なのかい?」
「確かに…ソフィのよく似ている…」
「ね?本物そっくりでしょ?」
「そっくりと言うより…本物じゃない…?」

私が呟くと、皆はもう一度画面を見る。


「本物…?これは、わたし?」
「確かに、本物っぽいわよねぇ。あたしがソフィを見て思わず触っちゃったのも頷けるでしょ?」
「この装置も、アンマルチア族が大昔に作ったものなのかい?」
「たぶんね。まぁその辺は色々と調べ中なんだけど」


すると、画面に映し出されていたソフィがプツリと音を立てて消えた。


「あ〜あ、消えちゃった」
「ソフィ、今の幻を見て何か思い出したりしたか?」

アスベルが聞くと、ソフィは首を横に振る。

「駄目か…」
「ソフィと関係があるのかどうかも、あれだけではなんとも言えないね」
「説明書きでもあればよかったんだけどね〜。ここんとこに書かれてる文字も消えちゃっててほとんど読めないんだよね」
「文字?」


近寄ると、石に緑の文字が彫られていた。
えーっと…ラ、…ダ…。擦れて読めない…


「かろうじてわかるのが…ラ…ムダって書かれてるところだけど…その先が…」
「ラムダ?どういう意味だ?」
「ラ…ムダ…昔、どこかで…聞いた事があるような…」
「ラムダ…。パスカル、他にも何かわからないのか?」


アスベルの言葉に、もう一度石を見るパスカルさん。
だが、先程の「ラムダ」以外に読み取れるところはなくて、お手上げといった感じに両手を広げる。


「ん〜、今のところはそれだけね」
「とりあえず今は先へ進もう。ここでこうして考えていてもすぐに答えは出ないだろう」
「そうだね。パスカルさん、出口ってどっち?」
「出口はあっちよ、じゃあ行くとしますか!」



パスカルの声に、みんなが移動しだした。
だが、ソフィだけがあの装置をじっと見つめたまま動かない。


「ソフィ…?」
「…ラムダ……」


ラムダ、それはソフィの記憶に関しての唯一の手がかり。


「思い出せそうで、思い出せないの…。無理に思い出そうと思ったら、胸が苦しくなるの。名前…わたし、どうしたらいいのかな」


苦しそうに自分の胸元を押さえるソフィ。
私はその手を上から包む。


「無理に、思い出そうとしなくて良いんじゃないかな?これからゆっくり思い出せばいいよ」


ソフィはゆっくり顔をあげ、頷いた。
そして私の手に自分の手を絡ませる。


「ソフィ…?」
「こうしちゃ、だめ?」


不安そうに聞く彼女に私は首を横に振り、私からも指を絡ませる。
なんとなく、懐かしかった。彼女に初めて会ったあの時も、こうして手を繋いだことを思い出した。

「いいよ、繋ごう」
「じゃあ行こう」


そういうとソフィは嬉しそうに私を引っ張った。






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