王都へ向かう途中、アスベルとリチャードからこれまでに起こった事を聞いた。

アスベルはあれから騎士学校に入り、それから7年間バロニアにいたそうだ。
だがアストン様が戦死し、迷いに迷って領主を継ぐためにラントへ戻った。
しかしそこに来たストラタ軍の手によりアスベルは、故郷から追放されてしまったのだ。

…何より一番驚いたのが、そこでストラタ軍を操っているヒューバートの存在のことだ。
彼は兄思いだった。そんな彼が実の兄を追放するなんて…。

リチャードはお父さんを、叔父のセルディク大公の命により動いた騎士団に殺され、例の地下通路へ逃げ込んだところでアスベルたちと再会したらしいのだ。
先ほどきた兵士たちも、リチャードを追ってきた者たちらしい。


そして、この少女のこと。
アスベルは、ソフィと初めて会ったあの花が一年中咲いているところでこの少女を見つけたらしい。
…ソフィとこの子は、何か接点があるのだろうか。

いろいろ思うところはあったけど、私はこの子をソフィとして受け入れる事にした。
この子は、ソフィだ。


…ソフィと、思いたかった。







「それにしても…」


リチャードが私の横に並び、嬉しそうに私の帽子の上から私の頭を撫でた。
7年前のあの日から、ずっと私の頭の上にあるリチャードの帽子。横に付いている羽が少しボサボサになっていたが、そのほかの物は7年前と変わらず、だ。

「まだ、持っていてくれたんだね」
「これは大事な宝物だから」
「名前…ありがとう」


そう笑顔で言うリチャードに、私も微笑み返す。
昔はぶかぶかだったけど、今ではきちんと私の頭にフィットしている。


「この帽子のおかげで…君だと分かったんだ」
「あぁ、倒れていたとき?…私、そんなに面影ないかな?」
「そうだね、昔も可愛らしかったけど、今はとても…綺麗だ。とても魅力的だよ」


穏やかに微笑みながら言うリチャードに、私は顔が熱くなるのを感じた。


「も、もう、からかわないでよ!」
「僕は本気なんだけどな」
「うっ、もう!知らない、アスベルに言いつけてやる!」


私はリチャードから離れ、アスベルの隣に並んだ。
後ろからリチャードの笑い声がする。
もう…!


「仲いいよな、お前たち」
「そ、そうかな?」
「…なんだか、懐かしいな」


アスベルが私を見つめる。
私もそれに答えるようにアスベルを見た。


「名前は変わってなくてよかった…」
「変わってなくて…?」


アスベルの言葉に、首を傾げる。
すると、悲しそうにアスベルは言葉を紡ぐ。

「…みんな変わってた、シェリアもヒューバートも…」
「アスベル…」


アスベルたちにとって、七年という月日はどれほど長いものだったのだろうか。
私は知らない。知らなかった。
何もかも…


「名前…?どうした?」

目を瞑るとアスベルに声を掛けられる。
大丈夫、何でもないと言い、私は笑顔をつくった。


「そろそろ返してもらうよ、アスベル」

私の腕を引っ張り、リチャードがアスベルから私を引き離した。
すぽんと私はリチャードの腕に収まった。


「リ、リチャード…」
「名前、あまり妬かせないでくれ」
「は?」


リチャードの言う事が理解できず、そのままの態勢で固まる。
するとリチャードは微笑み、私の手を握り歩き出す。

…どうもペースを乱されているような気がする。




上機嫌なリチャードに連れられ暫く歩くと、彼の足は止まった。
前方の何かを見て、岩陰に隠れるように私に言った。


「どうしたの、リチャード…」
「この先にあるのはウォールブリッジだよ」


岩陰から前を見ると、大きな門があった。
両端には兵士がいて、見張りをしているようだ。


「橋がそのまま砦になっているのか…」
「警備しているのは、叔父の軍勢か?」
「リチャード、別の道はないのか?」
「うーん…」


リチャードが顎に手を当てて考える。


「他の行き方もあるにはあるけど、どれも王都を経由しないと…」
「今王都へ戻るのは危険過ぎる…弱ったな」
「やっぱりあそこから行くしかないよね」
「でも兵士がいるぞ…?」
「うぎゃぁぁ!」

3人で話していたら、女性の叫び声が聞こえた。
そしてソフィが居ないことに気づく。


「ソフィ!?」


急いで駆け寄ると、ソフィは両手を前に突き出していた。
下を見ると土煙が舞っている…


「どうしたんだ?何があった?」
「…あの人が、触った」
「え?」
「触った?」


土煙が晴れた。
見ると、赤と白のツートーンの髪の女性が呆然と座っていた。


「女の人…?」
「さ、触れた…、触れたよね…」


女性は、手を握ったり開いたりを繰り返し、わたし達を見る。
そして立ち上がると、こちらへ向かってきた。な、なんか怖い…


「もう一回!お願い、もう一回触らせて!」
「何者だ!」


アスベルがソフィの前に立ち、刀を持つ。
すると、女性は笑顔で手を広げた。


「あたし?パスカル!よろしく!」
「…ソフィに何をする気だ」
「いやぁー、まさか本物に会えるなんて思わなくてさ。ついはしゃいじゃった!」
「本物に会える…?」



よく分からない女性に私はついていけず、リチャードの影に隠れる。
すると、リチャードは困ったように笑った。


「ほんのついさっき、あの子の幻を見たんだよね」
「幻…?それはどういう意味だ?ソフィのことを、何か知っているのか」
「うーん、口で説明してもわかんないんじゃないかな…」


パスカルさんは、うーんと唸ってポンッと手を叩いた。


「実際に見たほうが早いと思うよ。すぐそこだし」

彼女が指差す方を見ると、何も変哲のない野原だった。


「何もないよ?」
「あそこだって、あそこ!奥」

パスカルさんに連れられ、その奥に進むと、青い見たことのない模様が在った。


「これは…」
「これを使うと、地下にある遺跡に行けるんだけどね。幻があるのはそこ」
「遺跡だって…?」
「期待しないで潜ったんだけど、結構面白かったよ。結果的に塞がってる橋を通らずに反対側にも来られたしね」


わたし達は顔を見合わせた。
これは、チャンスなのかもしれない。


「遺跡の中に兵士はいたかい?」
「いなかったよ。あたしのほかはだ〜れも」
「どうする?アスベル」
「…行ってみよう。このままここにいてもどうにもならない。ソフィの幻の事も気になるし…」
「わかった。君がそう言うなら僕に依存はないよ」


するとリチャードは私の方を向く。
私も頷いた。


「決心ついた?そんじゃひとつみんなで潜るとしますか!」
「…一緒に行くのか?」
「うん」
「パスカルさんに遺跡の中を案内してもらうと言う事でいいのかな?」
「もちろん」
「…そうだな。わかった、一緒に行こう」


アスベルがそういうと、パスカルさんはにこりと頷いた。
表情がコロコロ変わるなぁ、と思った。



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