夜。
私はアスベルたちと聖堂で待ち合わせをした。
お父さんには嘘をつきたくないので正直に言うと、気をつけていってきなさいと笑顔で言われた。
聖堂に着くとすでにみんながそろっていたので、私は慌てて駆け寄る。
「みんな、お待たせ!」
「お、来たか名前!」
「リチャードは?」
「まだ来てないんだ。…リチャードの奴、遅いな」
私はシェリアの隣に腰を下ろす。
すると、ヒューバートと目が合った。
あんな事があった後なので、すこし気恥ずかしくて目を背けた。
何分経っただろうか、リチャードは一向に現れない。
「ねぇ、もうあきらめて帰ったほうがいいんじゃない?きっとリチャードは都合が悪くなったんだと思うわ」
「リチャードが約束を破るもんか!絶対来るって!」
「まだ待つの?もう時間も遅いわ。宿に帰ったほうが…」
「おっかしいなぁ…来ないはずがないんだけどなぁ」
アスベルは聖堂の入り口に近づく。
すると何かを発見したようで、手招きをする。
「おい、みんな来てみろよ!こんなところに穴が開いてる!」
「本当だ」
「よし、ちょっと中に入ってみよう」
シェリアがゲッって顔をしたが、おかまいなしにみんなその穴に入り込む。
少しだけ狭かったが、わたし達は子供なので、すんなりと入れた。
聖堂の中は意外と狭かった。どこからか水の音も聞こえたので、周りを見回すと聖堂の右端に小さな水汲み場があった。
ヒューバートが、あれは免罪の水というんだよって教えてくれる。
その免罪の水とは反対側の端に小さな扉があった。
「ここ、もしかして隠し通路の入り口じゃないか?…よし、みんな。ここに入ってみよう」
「だめよそんなの!暗いし危ないわ!」
「ぼくもやめた方がいいと思う。行き違いになったら大変だよ」
「リチャードはきっとここを通ってくるはずだ。だから途中で会えるさ」
「アスベル、危ないよ…?」
「大丈夫だって!どうせならこっちから行ってびっくりさせてやろう!さぁ、出発するぞ!」
わたし達は暗い通路を進む。
こうもりや虫がいて、少しだけ不気味だ。
「ねぇ兄さん、勝手に入ったりして、本当に大丈夫なの?」
「ヒューバート、私の後ろに隠れないでよぉ。私だって怖いんだから」
「で、でも…」
「アスベ…」
「止まれ!」
何か言おうとしたソフィの言葉を遮り、アスベルが大声を出す。
「えぇ、何?」
「ちょっとやめてよ、アスベル」
「まじかよ…お前らの後ろ…」
「うわああああっ!」
「ってうっそー!はっはっは!オバケなんているわけないだろ」
アスベルが大声で笑う。
…からかったの?と、シェリアが怒った。
「怒るわよ、アスベル!ヒューバート、立てる?あ…」
「ヒュー…」
「あ、うっ…」
「お前、お漏らし…」
「大丈夫、今回の事も誰にも言わない」
あれ、「も」…?
「ホント!あれ?……兄さん、前にお漏らしした話、言いふらしたな!」
「あ、あはは〜」
「ん?奥に部屋があるよ」
「お、ホントだ。行ってみよう!」
部屋に入ると、ソフィが落ち着かない様子で周りを見回す。
「ソフィ、どうした?」
「ここ…危険。ここにいるの、危ない…」
「!兄さん、上!」
ヒューバートの声に、皆一斉に上を見上げる。
すると、数匹のこうもりたちがこちらへ向かってきた。
私は近く似合った棒で、こうもりを突く。
「せんほうしょう!」
アスベルが木刀でこうもりを地上へ落とし、ヒューバートが二本の木の枝をこうもりに叩きつける。
ソフィもそれを手伝い、こうもりたちは呆気なく倒された。
「重い空気…まだ消えてない。…むしろ、近くなってる」
ソフィがもう一度辺りを見回す。
「アスベル、ここはだめ。すぐに離れた方がいい」
「心配するなって。魔物はもうやっつけたんだから」
「兄さん、向こうに誰か倒れてる!」
ヒューバートの指差す方を見る。
…あれは…
「リチャード!」
私とアスベルはリチャードの元へ駆け寄った。
「アスベル、名前、だめ!」
ソフィの声が聞こえたが、私は無視してリチャードに駆け寄った。
「リチャード!」
「やっぱりリチャードだ…!おい、しっかりしろ!」
ソフィも駆け寄ってきた。
私はリチャードの体を抱きしめる。
「リチャード、リチャード!」
「どうしよう…」
「な、なんでこんなことに…」
「シェリア、ヒューバート、逃げて!」
ソフィが声を荒げる。
振り向くと、二人の後ろに黒い影があった。
一瞬だった。
二人の体は飛ばされ、壁にぶつかり動かなくなった。
「シェリア、ヒュー…!」
黒い影は、姿を現す。
…
「あ、あ…」
私はただただ怖かった、恐ろしかった。
このような魔物、見たことがない…。
真っ黒で、不気味で…とても悲しい魔物だった。
「そんな、まさか…」
黒い魔物がシェリアたちに近づこうとする。
アスベルは我に返り、シェリアたちを庇うように前に出た。
「やめろっ!」
アスベルは木刀を持って魔物に挑むが、跳ね返されてしまった。
「アスベル!」
ソフィがアスベルの前に立つが、アスベルはそれをどけて再び魔物に挑む。
「いけない!」
ソフィがそう叫んだと同時に、アスベルは体を魔物に捕まれる。
「アスベル!」
魔物はアスベルを天上に叩きつけ、そのまま放った。
ソフィがアスベルを受け止めたが、アスベルは動かなかった。
「こんな…ばかな…」
「……」
ソフィは無言でアスベルを床に置くと、静かに立ち上がった。
「ソフィ…?」
「ゆるせない…」
ソフィの両手が光り始めた。
…あれ、は…?
「わたしは、お前を……、うおぉおおっ!」
ソフィは魔物に向かって突進していく。
そして、鮮やかに技を決めた。
魔物は倒れて動かなくなった。
それを見て、私は急いでアスベルに駆け寄る。
「アスベル!」
「アスベル、アスベル…」
呼びかけが聞こえていたのだろうか、ゆっくりとアスベルは目を開く。
「よかった…アスベル…目を覚ました…」
「俺の、せいだ…こんなところにつれてきたから…本当に、ごめん…」
ゾクッと寒気がした。
黒い影を見ると、こちらへゆっくり向かってきていた。
「!危ないっ!」
二人の前に両手を広げて立つ。
一瞬だった。
鋭い痛みと共に、私の記憶は飛んだ。