「やばい、親父だ…!」


アスベルの強い要望で騎士学校へ向かう途中の宿屋の前。
そこに、アストンさんとヒューバートがいた。

アスベルは急いで隠れるが、ヒューバートがこちらに気づいて、声を上げた。



「アスベル、どうするの?見つかっちゃったわよ」
「ちぇ。こうなったら仕方ない。覚悟を決めるか」


アスベルは物陰から立ち上がり、宿屋まで行く。


「アスベル…、お前たちどうして王都に」
「ラント卿、それでは私は船に戻って準備を進めております」
「は、よろしく頼みます。オズウェル殿」


一緒にいた眼鏡の男の人が、サッとこっちを見据え、すぐにヒューバートに視線を向ける。


「それではな、ヒューバート君。楽しみにしているぞ」
「……はい」
「ヒュー?」


何だか様子のおかしなヒューバートに、私は疑問を持つ。
すると、オズウェルと呼ばれた男の人は去っていった。



「…アスベル。なぜお前がここにいるのだ?それに、殿下まで…これは、どういう事だ」
「それは…」
「…まぁいい。せっかく来たのだ。今日だけは特別に許してやろう」


アストンさんは微笑むと、リチャードに礼をする。


「王子殿下、愚息がご迷惑をおかけしています」
「父さん…?」
「私は先に宿屋へ戻っている。殿下とのお話が終わったらお前たちも来い」



そういうと、アストンさんは宿屋へ入っていった。
アスベルは不思議そうにドアを見つめる。


「親父があんな物分りのいいこというなんて…。何かあったのか?…まぁいいか!これで堂々とできるってもんだし!よーし、思い切り遊ぶぞ!」
「ねぇ、さっきから変よ、ヒューバート」


ヒューバートは、先ほどから悲しそうな表情で下ばかり見ている。


「もしかして…わたし達だけで遊んできた事、怒ってる?」
「べつにわざとのけ者にしたんじゃないぜ?これはなりゆきで…」
「みんな僕のためにしてくれた事なんだ。それでも、真っ先に君を誘うべきだったね。ごめんよ、ヒューバート」
「王子だってばれないか、そればっか気にしてたからな〜。リチャードが兄弟で、俺たちがその兄弟でって事にしたんだけど」
「ぼくは?」


ヒューバートが口を開いた。
とても悲しそうな声に、アスベルも驚いた表情になる。


「ぼくは…兄さんの弟…だよね」
「なに言ってんだよ、あたりまえだろ」
「そう…だよね」
「変なの。一体どうしたってんだ?」
「アスベルの兄弟は自分だけって言いたいのかな?わたし達に取られたみたいで寂しいのかも」
「おいおい、なんだよ〜、照れるじゃんか!」


アスベルが嬉しそうにヒューバートの背中を叩く。
だが彼の表情は硬いままだった。

…どうしたんだろう。


「よしわかった。じゃあお前も連れてもう一度どこか見物に行こう!」
「そういう事なら城を案内しようか?」
「ホントに?」
「でも、大丈夫なの?」
「夜なら…案内できるかも。それでもよければ…。正面からは無理だけど、隠し通路を使えば入れるよ」
「隠し通路!」


アスベルの顔が輝く。
男の子ってこういうのが好きなのだろうか?


「昔の文献に書かれているのを見て、数日前に通ってみたんだ。城の中から街にある聖堂まで今でも行き来が可能だったよ」
「じゃあそこを通って…」
「うん。夜に聖堂の前で待ちあわせよう。迎えに行くから」
「わかった!絶対に行く!」
「それじゃ、僕はいったん戻るよ。夜にまた会おう」
「ああ、またな」



というと、リチャードは去っていった。




「すごい!すごいぞ!本物の探険みたいだ!さすがリチャード!夜が来るのが待ちきれない!なぁ、ヒューバートもそうだろ?」
「う、うん…」
「よーし!宿屋へ行って夜になるのを待とう!あぁ、楽しみだなぁ!」


私はもう一度ヒューバートを見る。
彼はずっと俯いたままだった。









夜までまだ時間がある。
私は様子のおかしかったヒューバートを外に連れ出した。



「何、名前…」
「何か、あったの?」
「……」


ヒューバートは自分のズボンをぎゅっと握り締めた。


「僕…ストラタに養子に出されちゃうんだ」
「え?」
「…さっき来てた眼鏡の人、あの人が僕の新しいお父さんになるんだって」
「眼鏡の…」


オズウェルと呼ばれていた男の人…。
ヒューバートが養子に…?


「じゃあヒューバートはラントには…」
「うっ、うわぁぁん…」


ヒューバートはついに泣き出した。
私はどうしていいかわからず、オロオロするばかりだった。


「僕、行きたくないよぉ、兄さんと、みんなと離れ離れになるなんて、そんなの嫌だよ!」
「アスベルには、言わないの?」
「いえないよ、っ、いえないっ…兄さんに言えるわけがないじゃないか!」
「ヒューバート、ごめん、私、私…うわぁあん」


気づけば一緒に泣いていた。
長い間一緒に、声が枯れるまで泣いて、泣いて…


最後はお互い無言で、ヒューバートは宿屋に、私は船へと帰った。





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