ラント出航の日。
私は船の上でお父さんの仕事の手伝いをしていた。



「はぁ…」
「また溜息か、名前。…またいつか来るから、楽しみにしていなさい」
「いつかっていつ…?」
「…はぁ」



先ほどから同じような事ばかり言う私。…お父さんもそろそろ困ってきている。
ごめんなさい、お父さん。でもね、でもね…

初めての友だち。
それは私にとって本当に大切なもので…


「離れたくないよ…」


遠くに見えるラントの風車を見つめると、また溜息が出てきた。








「おーい、名前!」


下方からの自分を呼ぶ声に、私は船の下を覗き込む。
なんと、アスベルとソフィがそこにいた。



「え、アスベルにソフィ?」
「おーい、名前!お願いがあるんだ!」


よく分からないので、私は船の外におりてみた。アスベルたちが駆け寄ってくる。


「お願いって、何?」
「俺たちを王都へ連れて行ってもらいたいんだ!」
「王都へ?何をしに行くの?」


私が聞くと、アスベルはソフィを指差す。


「王都ならソフィの知り合いもいるかもしれないだろ?それにリチャードたちにも会いたいし…」
「わかった、お父さんに頼んでみる」
「おう、よろしくな」



私はアスベルたちに手を振ると、甲板にいきお父さんに事情を説明した。
するとお父さんは快くOKをくれたので、アスベルたちを船に招き入れた。


「ありがとうございます、おじさん」
「ありがとうございます」
「いいや、いいんだよ。名前に良くしてくれたから、これくらいどうってことないよ。それに、どうせ次の目的地はバロニアだったからね」
「そうなんですか」
「それより、アストン様やケリー様はこのことをご存知なのかい?」
「え、あ、はい」



目を泳がせるアスベル。
あれ、そういえばアスベルってアストンさんに謹慎って言われてなかったっけ…?

じと目でアスベルを見ると、苦笑いで返された。




船が出港した。
私はラントに別れを告げる。



「ばいばい」









「船は初めてなのか?」
「わからない。でもなぜだろう、心がざわざわして不安になる…」
「ソフィ、大丈夫?」


船の端で海を見ているアスベルたちに近づくと、ソフィが胸元を押さえていた。
船酔いかな?だったら船室で寝ていたほうがいいかもしれないよね、…うーん。


「最初はなんともなかったのに向こうにある街を見たらなんだか急に……」
「俺は不安よりわくわくだけどな」
「わくわく……」
「こうやって船に乗って世界中を回ってみるのもいいかもな」


そういうと、アスベルは私の方を向く。


「なぁ、名前。またこうやって旅に連れてってくれよ!」
「え、うん!もちろん」
「ソフィと、ヒューバート、シェリア…リチャードも連れて!」


アスベルは笑顔でわたし達を見る。


「そしたら不安なんて吹っ飛んじゃうくらいきっと楽しいぜ!あ、もちろんソフィの記憶を取り戻す為だからな?」
「アスベル…」
「そろそろバロニアに着くよ、準備しなさい」
「あ、うん、お父さん。わかった!さ、アスベル、ソフィ、行こう」


ソフィに手を差し出すと、握ってくれた。
そのまま二人で手を繋いで船を降りた。










人が行きかうバロニア。
街の奥にはウィンドルの大輝石、大翠緑石が空に向かってそびえ立っていた。


「すげぇなぁ…、街はでかいし人も多い。ラントとはさすがに違うな」
「アスベル!」
「シェリア?どうしてお前がここに?」


船から降りてしばらく呆ぼーっとしていると、アスベルを呼ぶ声が。
振り向くと、息を切らして立っているシェリアがいた。



「王都のお医者様に体を診てもらいにきたの。それより名前に迷惑をかけて!」
「ううん、迷惑なんかじゃないよ」
「でも!」
「名前もこう言ってんだしいいじゃんか」
「もう、調子いいんだから!…それでアスベル、王都まで来てどうするつもりなの?」
「ソフィの身元探しもしたいし、騎士学校の見学なんてのもいいな。あと、リチャードにも会わないと」


アスベルは目をキラキラさせて言う。
シェリアはそんなアスベルを呆れたように見る。



「相手は王子様なのよ?簡単に会えるわけないじゃない」
「それができるんだよ。これがあればな」


アスベルはポケットからキラキラと光る指輪を取り出した。


「何?その指輪」
「リチャードとの友情の証さ!よし、それならまずはお城へ行ってみよう。こいつの凄さを見せてやる。じゃあ行こうぜ!」
「あ、ちょっと待ってて!」


私は船に上がり、こちらを見ていたお父さんの元へ行く。


「お父さん、私行ってきてもいい?」
「あぁ、友だちに会ってきなさい」
「ありがとう、ご飯までには帰るね!」



お父さんに手を振り、船から降りてアスベルたちと合流し、バロニア城へ向かった。





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