「……美しい」
「綺麗だよね、私もびっくりしちゃった」


一年中花の咲いているあの場所へやってきた。
夕焼けをバックに、沢山の花が咲き誇っている。…昼間見た太陽の光で輝く花もすごく綺麗だったけど、夕日に照らされた姿もとても美しかった。


「名前は、ここへはよく来るのかい?」
「ううん、まだ2回目。実は今日のお昼にもここにきたの」
「…無理を言ってしまったようだ、すまない」
「そんなことないよ。お昼とはまた違った風景を見ることが出来たし、それに…誘ってくれて嬉しかったよ」
「名前…」


リチャードに微笑むと、彼も微笑んでくれた。最初は硬い表情しか見れなかったから、なんだか嬉しいなぁ。
なんて思っていたら、後ろからアスベルとソフィがやってきた。


「どうしてもリチャードにここを見せたかったんだ。せっかく王都からわざわざラントまで来たんだしさ」
「それだけ…?」
「あぁ、そうさ。どうだ?気に入ってくれたか?」
「君という人は…」


リチャードが優しい顔になる。
釣られて私も、笑った。


「王子殿下、こちらにいらっしゃいましたか」


突然聞こえた第三者の声に、驚き後ろを見る。そこには屋敷に戻ったはずのビアスさんがいた。
しかも、彼は昼間見た武器を手にしている。…なんで?


「ビアス…!」
「王子?…思い出した!今の王様にはリチャードって名前の王子様が…」
「王子殿下、護衛の者たちが血眼で殿下を捜しております。彼らの手を煩わせるのは歓心しませんな」
「心配をかけて悪かった、ビアス」
「いいえ、心配など。私にしてみればむしろ好都合というものでして」




ビアスさんは、爪を取り出し、わたし達の方へ向けた。
リチャードの身体が強張る。



「今日の稽古はおしまいのはずじゃ…」
「これは稽古ではありませんよ。命をかけた決闘です。殿下の……命をね」
「くっ!」


此処まで言われてやっと気づいたのか、アスベルは木刀を握る。


「ここは警護の者もいない…。決闘にはふさわしい場所ですね。…お命頂戴!」
「やめろ!!リチャード、離れてろ!名前、リチャードを頼む!」
「わかった!」

リチャードの手を引くと、私は崖の近くまで寄った。



「リチャード、大丈夫?」
「あ、あぁ…」

様子のおかしいリチャードの手を握る。
彼は、アスベルとソフィがビアスさんと戦っているのを複雑そうに見つめていた。


「リチャード…」


ビアスさんはリチャードの稽古の先生だ。そんな彼に裏切られた…殺され、かけた…。
リチャードの体は震えている。私が、守らないと。


ビアスさんは、2人に押されているようだった。ソフィの蹴りをやり過ごし、こちらを見つめる。目が合って、ビアスさんはにやりと笑った。


「ならば…!」



一瞬だった。

ビアスさんの体当たりで私の身体は崖のむこうに放り出されていた。


「きゃあっ!」
「名前っ!」


リチャードが私の腕を掴むが、一緒になって落ちてしまう。



「名前!リチャード!」
「ひゃはははっ!死ねぇ!っう!」


ソフィの技がクリーンヒットし、ビアスが倒れた。
それを確認したアスベルとソフィは、二人の落ちたそこに飛び込んだ。











リチャードに抱きしめられる。
昼間にヒューと確認した通り、この崖はとんでもない高さだった。



「君は…守るから」


リチャードの腕に頭を守られて、わたし達は落ちる。
死ぬのかな、なんて思った。
この高さから落ちたら、ひとたまりもないだろう。

私は無意識にリチャードの服を掴んだ。ぎゅっとリチャードが私を更に強く抱きしめるのと同時に私の意識は遠のいていった。







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