中庭に着くと、ビアスさんとアスベルが向かい合って立っていた。
私はリチャードの腕を引っ張り、ヒューバートたちの元へ駆け寄る。


「名前、リチャードさんと何で手を繋いでるの…?」
「ん?別にいいじゃん。ねぇ、リチャード」
「え、あ…うん」
「ふーん…(なんだか面白くないなぁ)」


「どうして丸腰なの?」


アスベルの声が響く。
ビアスさんを見ると、確かに何も持っていなかった。


「子供相手に本気になるのはばかばかしいのでね」
「…丸腰の人とは戦えない。それは、騎士として恥ずかしいことだから…」
「そんなこと言って、負けるのが怖いんでしょう?これではやはり、リチャード様に代わっていただくしかないですな」


ビアスさんのその言葉に、アスベルは持っていた木刀を構える。
そんなアスベルを見て、ビアスさんはニヤリと笑った。…なんだか、この人怖い。


「…よろしい。ではこちらから行きますよ」


ビアスさんはアスベルの懐に入り込み、その体を押した。
アスベルは後ろに倒れる。


「アスベル!」
「…口ほどにもない」


ビアスさんが服の汚れを掃っているところにアスベルは再び突っ込む。


「遅い!それで戦っているつもりか?」
「くそおっ!」
「な、何っ!?」


アスベル渾身の一撃が、ビアスさんの肩を強打する。
シェリアが歓声をあげた。


「…なるほど、少しは訓練しているようですね。しかし…ここまでです!」


ビアスさんは隠し持っていた爪を取り出すと、アスベルに向けた。
あ、あんなもの危ないじゃん!止めに入ろうとすると、男の人の声が響く。


「そこまで!」


振り向くと、先ほどリチャードを護衛していた人がいた。
アスベルは木刀を下ろし、額の汗を拭く。


「ふぅ、やっぱり本物の騎士は強いなぁ」
「すごい…ビアスと互角に戦うなんて…」


アスベルはビアスに近づくと、お辞儀をした。


「お相手、ありがとうございました。それと…大変なご無礼、申し訳ありませんでしたっ!もしよかったらまた稽古をつけて下さい」
「兄さんが大人だ…」
「どうしちゃったの!?」
「みんな言いすぎ…」
「か、からかうなよ!騎士の世界では礼儀も大切なんだ!稽古をつけてもらったら、ちゃんとお礼をしなくちゃ。俺だってそれくらい知ってるさ」


すると止めに入ってくれた護衛の人が、アスベルに近づき微笑む。


「君、騎士に興味があるのかね」
「俺…将来騎士になりたいんです」
「そうか、大きくなったら是非騎士団に入りたまえ。君は剣の素質がある」
「本当ですか?」


護衛の人はアスベルに優しく頷くと、ビアスさんの方を向いた。
先ほどの優しそうな表情とは違って厳しい表情だ。


「それよりビアス、あのような挑発はあまり褒められたことではないな」
「は……」
「リチャード様の稽古については、明日から私が代わる。君は邸内の警護に当たってくれ」
「わかりました…」
「では、リチャード様。私どもはこれで」


二人はリチャードに頭を下げ、屋敷に入っていった。



「ちょっとアスベル!すごいじゃない!」
「騎士の素質があるってさ!兄さん、さすがだな〜」
「いやぁ…」

二人が居なくなった後、私たちはアスベルに駆け寄った。
アスベルは顔を赤くしてそういうと、リチャードを向く。


「勝てなかったのは残念だけど、リチャードが無理させられなくてよかったよ」
「君…」
「稽古はもうなしになったんだ。せっかくだから面白い所へ行こうぜ」
「兄さん、どうする気?」
「こいつを連れて、あの花の咲いている場所へ行く」
「でも…もうすぐ日が暮れるわ」
「じゃあ、お前たちは残ってていいぞ。親父たちに何か聞かれたら知らないって言ってごまかしてくれ」


アスベルの言葉に、ヒューバートが無茶苦茶だ…とガクリとうな垂れた。
いつもだけど大変だよね、ヒュー…。


「ソフィ、アスベルたちについて行って。危ないことしないか見ててあげて」


ソフィはシェリアの言葉に頷き、とことことアスベルの傍に向かった。


「よし、じゃあ行くぞ!リチャード、ソフィ!」
「…君は、来ないのかい?」
「え…?」
「来ないのなら…それでいいのだけど…」


少しだけ顔を赤くして言うリチャード。
まだ時間は大丈夫だし、…うん。


「別に、行っても大丈夫だけど」
「本当?」
「本当」
「じゃあ名前も行こうぜ!」
「うん」
「じゃあな、二人とも!」


私はリチャードの隣に並んで、領主邸を後にした。




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