昨夜から、身体の調子が良くなかった。朝起きると、昨日よりも身体が重くて、身体を起こすのも一苦労だった。
だけど、家の事もしないといけないし…重い身体に鞭を打って、私はベッドから起き上がった。

すると隣に寝ていたはずのヒューバートの姿がない。そして、キッチンから漂ってくる美味しそうなにおい。…ああ、寝坊してしまった。


「おはようございます、随分と遅いお目覚めですね」
「おはよう、ヒューバート。うん、何だか調子が悪くて…」
「風邪ですか?」
「身体がだるいし…何だか吐き気もするし、…そうかも」
「念のため病院へ行きましょう。ぼくもついていきます」
「え、いいよ。仕事行ってきて?」
「駄目ですよ、あなたを一人にはできませんし…」


その後、何とかヒューバートを説得して仕事に行ってもらった。
私は洗濯物を干し終えると、戸締りをきっちりして、家を出た。病院の帰りに食材屋に寄らないとな…なんて思いながら、病院への道を歩く。


ヒューバートと一緒になって半年が過ぎた。
結婚するまでも、一緒に暮らしていたんだけど…やっぱりただの同棲と結婚じゃわけが違う。
朝起きたら隣にいて、いってきます・いってらっしゃいを交わして、家事をして、おかえり・ただいまを交わして、彼のために作った晩御飯を二人で一緒に食べて、あたたかいお風呂に入って、同じベッドで寝る…。

ささいな事だけど、幸せだった。
彼と一緒…それだけで、とてもとてもかけがえのないものになった。



病院で受付を済ませる。朝も早かったので、待たずに検査を受けることが出来た。
それから、ロビーで待つこと数分。再びお医者様に呼ばれて、診察室に入る。…それにしてもおかしいな、ただの風邪だったら…一回目の診察で言ってくれるはずなんだけど…

そう思っていたら、お医者様が笑顔で私に言った。


「おめでた、ですよ」
「…え?」


驚きすぎて、何というかもう…何も考えられなかった。妊娠三ヶ月目…だそうだ。
正直もう、食材屋に寄っているほど心の余裕なんてなかった。
ふらふらと家に帰り、リビングの椅子に座る。

妊娠…?私が、妊娠…妊娠…

最初は混乱していた頭が、時間が経つにつれて「妊娠した」という事実を受け入れ始める。それと同時に頭の中を、あたたかいものが支配した。


「お母さんになるんだ、…私」

自分のお腹の中に、小さな生命があるんだ…そう思ったら、食べすぎで少しだけぽっこりしたお腹が急に愛おしく思えてきた。
名前なんにしよう、とか…皆にはいつ伝えようかな…なんて考えていたら、ヒューバートが仕事から帰ってきた。

体調はどうか?と聞くヒューバートに、私は少しだけ顔を赤くしながら、ニコリと笑いながら、

「赤ちゃん、できたよ」

と伝えた。
すると、ヒューバートは私が病院で赤ちゃんがいると聞かされた時と同じような反応をした。
そして少しだけ顔を赤らめると、「そうですか…」と軍服を脱ぎながら答える。その微妙な反応に、私は少しだけ不安になったけど、そんな心配はすぐに吹き飛んだ。


「嬉しいです」

とびきり優しい笑顔で、愛おしそうに私と、私のお腹の中にいる赤ちゃんを見るヒューバート。ああ、幸せだなあ…と感じた。
ヒューバートは私に近づいてきて、優しく優しくお腹を撫でる。

「この中に子供がいるなんて…何だか不思議ですね。大きくなってきたら、実感できるんでしょうか?」
「ううん、もっとよく触ってみて」
「…え?」

ドクン、ドクン。

赤ちゃんの音が聞こえる。ドクン、ドクンと、生きている音がした。
実際には聞こえたのかどうかもわからなかったけど、確かに、私のお腹の中に「生命」がいるのを感じることが出来た。


「生命の、音がしますね」
「…うん。私と、ヒューバートの…大切な子供だよ」
「ぼく…今とても幸せです」
「私もだよ」


二人で身を寄せ合って、それから目を閉じる。
これから先、どんなことがあっても…二人で、いや…家族で乗り越えていこうね。


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