ぼくの目の前で、君が倒れた。全ての暗闇を一人で飲み込んで、倒れた。
急いで駆け寄ると、ラムダの声が彼女の中から聞こえてきた。それと一緒に、彼女の声も聞こえた。
ぼくは少し安心した。彼女はまだ飲み込まれたわけではない、と。だけど安心はできない。まだ彼女の中にラムダはいるのだから。

『仲間が、助けてくれたからだよラムダ。仲間がいたから、私はここまでこれた』
『仲間。…仲間がいたから、みんなが助けてくれたから、私は私でいることができた』
『変わるんだよ。今までもそうだった、みんながいたからどんなことだって出来た。一人じゃできなかった』
『約束したんだ、みんなで一緒に帰るって。みんなは約束を破らない。それに、ヒューバートは…何があっても私を守ってくれるって言った。だから、大丈夫』

彼女の、ぼくたちを信じる声が聞こえた。…そうだ、ぼくたちは一緒に帰るんだ。そして、もっとたくさんの思い出を作るんだ。
優しく強い彼女。はじめて会ったときはもう遠い昔のことだ。あの頃からぼくは成長しただろうか、彼女を守れる立派な男になれただろうか。
いや、まだだ。じゃあ尚更一緒に帰らないといけない。彼女と、みんなと一緒に帰って、そして見せ付けるんだ。ぼくが彼女を守る姿を、ぼくと彼女の幸せな未来を。

ぼくは彼女の両手をキツく握った。兄さんたちも、ぼくらの手を包み込むようにその上に重ねる。
優しくて、あたたかい光がぼくたちを包み込んだ。








心の隅で誰かが泣いていた。…ラムダだった。
ラムダは生きたいと常に願っていた。私たちも、生きたいと願っていた。
ラムダにとっての生きると、私たちの生きるって、何が違うのかな?生きるって、なんだろう。








「名前、起きないと置いていきますよ」

少しチクチクした言葉、だけどとても優しい声で愛おしい人が私の名前を呼ぶ。
クスリと笑って、私は彼に手を伸ばした。彼の頬に手を当てると、その手をヒューバートの手が上から包みこんだ。

「…駄目だよ、約束したじゃん」
「だったら早く起きなさい」
「もうー」
「もうじゃありませんよ…全く」

ヒューバートは私を抱き起こし、そのままきつく抱きしめた。

「心配しました」
「ごめんね、ヒューバート」
「…謝らないでください」
「名前っ!どこか痛むところはない?」
「ぐっ、シェリア…」

ヒューバートを押しのけて、シェリアが私の手を握る。私はあはは、と笑ってその手を握り返した。

「大丈夫だよ、どこも悪くないから」
「本当?痛み出したら言うのよ?」
「うん」

私はシェリアにお礼を言うと、辺りを見回す。ラムダはどこにもいなかった。それに、リチャード…!!

「リ、リチャード!大丈夫?」
「僕の心配より自分の心配をしなよ。…まあ、名前らしいけど」
「…ううっ、でも…」
「ふふっ、意地悪言ってごめんね?…それに、ここまでにしておかないといけないみたいだ」

そう言うとリチャードは笑いながら私から離れる。その後ろに居たのは、顔を顰めたヒューバートだった。

「……」
「ヒューバート?どうかした?」
「何でもありません」
「でも…」
「何でもありません!」
「…そ、そう?」
「…名前」

私に声をかけてきたのはアスベルだった。私は彼を見て驚いた。だって、瞳が…

「アスベル、目が…」
「ラムダがいるんだ」
「ラムダ、が…?」
「名前、お前が前俺に聞いたこと、覚えているか?」
「?」
「ラムダにとっての生きると、私たちの生きるって、何が違うのかって…。考えたんだ。何も違わない。俺たちの生きたいも、ラムダの生きたいも変わらないんだ。だからラムダを説得したんだ、俺の中に入ったまま、一緒に生きることでこの世界を見ようって」
「…アスベルは大丈夫なの?」
「大丈夫」
「…アスベルがそう言うんなら、大丈夫だね」

ラムダも、私たちもみんなが「生きる」ことができる世界。
全てを守るという、アスベルの考え。ソフィもラムダも、結果的に守ることができた。…まだ一歩だけ。だけど、この一歩が踏み出せたことによって、たくさん変わっていくことがあるといいな。


「戻ろう、俺たちの場所へ」

第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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