リチャード、そしてその中にいるラムダと戦って彼らを動けない状態にまで追い込んだ。彼らが倒れるのと同時に、私たちは彼らのもとに駆け寄る。

「馬鹿な…、何故僕たちが、こんな…」
「ラムダ!リチャードから出てきて!お願いっ!」

シェリアがラムダに呼びかけるが、彼は答えない。

「リチャードとラムダの融合が進みすぎたせいで、分離ができない状態なのかもしれない」
「なんだって?」


「アスベル、君なら僕を止めてくれると思ったよ…。僕は、裏切られるくらいなら…誰とも関わりたくない…。いいや、いっそのこと誰もいなくなってしまえばいい。皆消えてなくなればいい、そう思う一方で、誰かにすくって欲しい、分かって欲しいと思っていた。君と争いながらも君に、助けて欲しいと願うなんて…」
「お前は俺の友達だ、どんなに争っても俺はお前を見捨てない!…見捨てられるものか!」
「…アスベル、君はこんな僕をまだ友と呼ぶのか?…ありがとう、アスベル。…だけど、僕は気づくのが少し遅かったようだ…、遅いんだ、何もかも、遅かったんだよ…僕はもう、ラムダの気持ちと自分の気持ち、どっちが自分の気持ちか、分からなくなってきているんだ。このままでは、君たちの命を奪うことになってしまう。だから、今のうちに止めを刺すんだ。早く!」
「リチャード、諦めるな!」
「名前!…僕に止めを刺したら、君の中にあるラムダの感情も、きっと消える…。だから、だから!」
「駄目だよっ!私たちはリチャードたちを助けるために、ここまで来たんだよ!一緒に、みんな一緒に帰らないと、駄目なんだ!」
「早く…止めをっ!」
「そうはさせない!」
「この声…もしやラムダか?」

するともの凄い力がリチャードの周りを包み込んだ。
同時に、苦しくなりまともに息も出来ない状態になった。深く悲しいラムダの感情が、私の心を支配していく。暗い暗い闇が、心を覆っていく。

「…っ、はあ、はあ…」
「名前っ!」

ヒューバートが支えてくれる。すぐにシェリアが回復術をかけてくれたが、全く効かなかった。

「な、なんで…?なんで効かないのっ!」
「シェリア、落ち着いて!」
「名前、起きろ!起きるんだ!」

マリクさんが耳元で大きな声で呼びかけるが、私にはそれに応える気力さえなかった。

「アスベル、もう時間がないんだ!このままでは名前がラムダに飲み込まれてしまう!僕がラムダの意識を抑える!早く止めを…!アスベル、早く!ぐああああっ!」
「リチャード!」
「うあああっ!…っ、ラムダ、一緒に…いこう。…もう、こんな過ちを繰り返すのは、おしまいに、するんだ!」
「我とともに…消えるというのか…?生きる権利を、自ら放棄するというのか…?…ありえん、我々を苦しめた存在のために、消えるなどあり得ん!消えるのならば、一人で消えよ!生きる意志のない者に、用はない!」

ゆっくりとリチャードの体が宙に浮く。禍々しい空気に包まれながら、表情を歪めるリチャード。
そんな…駄目だよ、駄目だよっ!

「ぐあああああっ!」
「リチャード!」

リチャードが悲鳴をあげるのと同時に、アスベルがリチャードのもとへ飛ぶ。そしてアスベルはリチャードを掴んで引っ張った。
アスベルの体も禍々しい原素に包まれるが、何とかリチャードを救い出すことに成功した。気を失ったリチャードの下からアスベルが出てくるのと同時にソフィが警戒したように構える。

「ラムダ…!」
「あれが…ラムダ、なのか?」
「リチャードの体から離れて、今まで取り込んだ原素と融合している」
「あれを倒せば、全てが終わるんだ」
「全てが終わる…?我を倒したら、次は何と争う?争う相手が見つからねば、自ら作り出すか?人間はいつもそうだ、存在していくために、他を犠牲にし続ける。その必要のないものまで争いに巻き込み、悪として滅ぼす。それがいかに無知で驕った考えか、わかろうともしない」

ラムダはそういうと、私の方を見た。彼がニヤリ、と笑ったのがわかった。

「っ!?」

それと同時に私の身体は宙に浮いた、そして「何か」が自分の体から何かがあふれ出す。…これは…

「あ、あれは、ラムダの感情か!?」
「名前っ!」

黒く冷たいものが、私の心を支配する。

「もしかして、このまま名前の意識を乗っ取るつもりなのかもしれない」
「なんだって!?」
「名前の身体にはラムダ自身の感情と言う名の欠片があった。だから、取り込んで支配下におくのも他の誰かを乗っ取るよりもはるかに簡単…」
「どうにか出来ないの?」
「ラムダの力がさっきよりも強くなってる…、倒して引きずり出すことは難しいかもしれない…」
「そんなっ!」

シェリアの悲痛な叫び声を最後に、私の意識は完全に無くなった。







目が覚めると、見たことのない場所だった。何もない空間に私は一人、立っていた。

「ここは…」
「ここは、我とお前が共有する領域」
「っ!」

ラムダの声が聞こえたのと同時に、真っ黒なものが私の両手両足に巻きつく。っ、身動きが取れない…!

「お前をこの領域から排除し、お前の身体を我が支配下におく」
「…!」
「それにしても、よくここまで耐え抜いたものだ。ここに来る前に落ちると思ったぞ」
「仲間が…」
「?」
「仲間が、助けてくれたからだよラムダ。仲間がいたから、私はここまでこれた」
「仲間…だと?」

無意識なのだろうか、拘束する力が強くなった気がする。手足がキリキリと痛んだが、それを無視して私は言葉を続ける。

「仲間。…仲間がいたから、みんなが助けてくれたから、私は私でいることができた」
「戯言を。仲間がいただけで変わるわけがないだろう」
「変わるんだよ。今までもそうだった、みんながいたからどんなことだって出来た。一人じゃできなかった」
「では今のこの状況、仲間が助けてくれるか?仲間がいるだけでこの状況が変わると言うのか?」
「約束したんだ、みんなで一緒に帰るって。みんなは約束を破らない。それに、ヒューバートは…何があっても私を守ってくれるって言った。だから、大丈夫」
「根拠のないことを…、っ!?」

すると突然私の周りをあたたかく優しい光が包み込んだ。同時にラムダの拘束が緩んだ。すぐにそこから抜け出すと、ラムダに近づいた。

「くっ…貴様、一体何をした!」
「言った通りだった」
「なんだと…?」
「これは、みんなの光だよ」

強く頼れるアスベルの光、私を包み込んでくれるシェリアの光、ソフィのあたたかい心の光、明るく私を照らしてくれるパスカルの光、マリクさんのお父さんみたいな大きな光、そして…
ヒューバートの、優しい光。

ありがとう、みんな。助けられてばかりだね。ありがとう。


心が折れそうな時に、支えてくれたのは…仲間と、大切な思い出だ。大切な皆との思い出を守って、これからもたくさん楽しいことが経験できるように、私はここから帰らないといけない。
私はポケットから自分で作った輝石のお守りを2つ取り出す。自分のと、リチャードの分だ。二つとも、自分を纏っている光と同じように光っていた。リチャードの、光。希望の光。…私は二つを両手で優しく包み込んだ。

辺りが今まで以上に眩しく、優しく光った。

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