ラントに戻った私たち。まずはシェリアとヒューバートによるお説教が始まった。それが終わった後、アスベルの家の前でソフィに私がラムダに取り込まれそうになった後の話を聞いた。

「名前、…リチャードが名前を助けたんだよ」
「リチャードが?」
「うん。リチャードの持ってたお守りが光りだしたの。輝石のお守り。あの光を浴びた時、ラムダが名前の体から出ていったの」

輝石のお守りにはそんな力もあるのだろうか。…あの時最後に感じた穏やかな光。あれは輝石の光だったのかな?

「ううん、輝石の力もあったけど、きっとリチャードの思いの力も関係してると思う」
「思いの力…?」
「リチャードの思いを助けたのが輝石なんだと思う。お願いが叶うって本当だったんだね」
「…そっか」
「ねえ、名前。手を、繋ごう?」
「手?」
「…星の核へ向かう前の日、わたしは名前の手を離してしまった。…ずっと後悔してた…ごめんね、名前」
「ううん。私も黙っててごめんね、ソフィ」

私はソフィの手を両方の手で包むと、ソフィは優しく微笑んだ。ふと花壇を見ると、クロソフィの花が咲いていた。

「ソフィ、風花のことアスベルから聞いたよ。…見れるといいね」
「うん。もし風花が見れたら、みんなにも見てもらいたいの。名前にも、見てもらいたいな」
「ありがとう、じゃあ風花になったら…教えてね?みんなで見ようね」
「…うん!」




今日はもう遅いからアスベルの家に泊まることになって、明日…悲しいけどみんなとの旅は終わりだ。
部屋でくつろいでいた時、誰かがノックする音がしたので、扉を開くとリチャードがいた。

「名前、付き合って欲しいところがあるんだ。…時間、いいかな」
「うん…いいよ」
「ありがとう、では行こうか。少し遠出になるけど、構わないかな」
「うん」
「…じゃあ行こうか」

リチャードについて行くと、見慣れた場所に出た。…花畑だった。
時間は丁度、夜になる前だったから…7年前と一緒の夕方。あの時と同じように、夕焼けをバックに、沢山の花が咲き誇っている。

「リチャード…」
「懐かしいね。…あの時は邪魔が入って、この景色をあまり楽しめなかったから…見に行きたくてね」

リチャードはそのままゆっくり友情の誓いをした大きな木の下まで歩いていく。

「確かここに…、あれ…無くなってる」
「もしかして、手紙のこと?それだったら…」

私はポケットから二つ折りにした紙を取り出すと、リチャードは少し恥ずかしそうに頬を掻く。

「もう見てたんだね」
「ふふっ、うん。…手紙嬉しかったよ、ありがとう」
「…名前、…」

リチャードは悲しそうに顔を歪めた後、私から顔を背けた。

「僕は、君にとんでもないことをしてしまった。…だけど、僕は…」
「リチャード。私こそ、何もできなくてごめんね」
「そんなことないよ…僕は君には救われてばかりだ…それに比べて僕は、救うどころか、傷つけてばかりで…」
「7年前、崖から落ちた私を助けてくれたのはリチャードだった。私が海岸で倒れていたのを助けてくれたのはリチャードだった。ラムダに…取り込まれそうになったときに助けてくれたのは、リチャードだった。…どう?」
「…でも、僕は…」
「リチャードは、私の恩人だよ。…リチャードがいなかったら、私…ここにいないかもしれない」
「…名前」
「ありがとう、リチャード」

そういって笑うと、リチャードに強い力で抱きしめられた。急だったので、バランスがとれずに倒れてしまった。幸い下はたくさんの花々が咲き乱れていたので、クッション代わりになってくれた。

「ねえ、名前。約束、果たせそう」

リチャードは起き上がり、私の帽子を取ると自分の頭に置く。

「約束の証。大人になったとき、絶対に君に伝えるから…待たせてごめんね」
「…待ってたよ」
「うん。…ありがとう」

リチャードは私を抱き起こすと、そのまま耳元で囁くように言った。

「愛してる」
「…え」
「僕に、こんなこと言う資格…無いかもしれない。だけど、言っておきたかったんだ」
「リチャード…私…」
「これが僕がずっと言いたかった事。…でも、あの時言っておけばよかったなって少し後悔。君は、いろんな人に愛されているからね」
「…私ね、まだ恋とか…分からないの」
「うん。…だから遠慮なく行かせてもらうね」
「?」
「絶対に、君を振り向かせてみせる。ヒューバートにも、誰にも負けない…と僕が宣言してもいいかな?」
「え…あ…えっと、う、うん…」

私がそう言うと、リチャードはニコリと笑って再び花畑に寝転がった。彼に抱きしめられていたため、必然的に私も花畑へリターンすることになる。
夕焼けから夜空に変わった空が見えた。

リチャードに抱きしめられ、そっと囁かれる。



「もう二度と、君を悲しませることはしない。…ありがとう、名前」

リチャードに抱きしめられながら、私はその優しい温かさを感じて…私は目を瞑った。










fin


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テーマ「人外ファンタジー」
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