私を世界へと引っ張り出してくれたアスベル。アスベルは何度も色んなことに気づいてくれた。何度も私の力になってくれた。
ソフィは私が悲しい時、いつの間にか傍にいてくれた。ソフィと繋いだ手のぬくもりは、きっと忘れない。
私にたくさん優しさをくれたヒューバート。厳しい言葉の裏側にはいつも、優しさが詰まっていた。
シェリアはお母さんみたいに私を優しく包んでくれた。「答え」に私を導いてくれた。
パスカルと一緒にいると、いつも楽しかった。時には本当のお姉さんみたいに私を支えてくれた。
何かあるたびに頭を撫でてくれたのはマリクさん。彼が傍にいてくれるだけで、とても安心できた。

リチャードは…
リチャード…は、私を守ってくれた。出会って間もない私を、身を挺して守ってくれた。
優しくて物知りで、幼い私の憧れだった。彼の大好きな場所で、彼の帽子を貰った時、本当に嬉しかった。

この旅でいろんなことがあった。
大切な人も増えた、だけどその逆だってあった。心が折れそうな時に、支えてくれたのは…仲間と、大切な思い出だった。大切な皆との思い出を守って、これからもたくさん楽しいことが経験できるように、守らないといけなかったのに

ラムダの「生きる」私の「生きる」みんなの「生きる」
何が違うのかな
「生きる」って人それぞれ意味は違うと思う。人によって、色んな生き方があると思う。
だけど、私は根本的なものは一緒だと思うんだ。

一緒に、みんなで生きる方法を探していけば…そうしたら、辛いこともあると思う。だけど、楽しいことだってきっと…いや、絶対にあるんだから。



あたたかいものに包まれている感覚がした。何度か感じたことのある感覚。一回目は7年前、二回目はつい最近。…だけど、つい最近でも…何だかとても昔のように感じる。そう感じるくらいくらい、濃い旅をしてきたから。

目を開くと、一番最初に見えたのは星の核だった。…あれ、じゃあここはガルディアシャフト?

「名前…?」
優しい声に名前を呼ばれた。私が彼の名前を呼ぶと、途端に懐かしい香りが広がった。

「あぁ、よかった…名前…」
抱きしめられていた。頬にあたる柔らかい金色の髪。久しぶりに抱きしめられる。すべてを包み込んでくれる、やさしい腕、匂い。

「リチャード…」
「ああ、僕だよ…名前」
「名前、目が…覚めたのね?」
「シェリア…みんな、……」
「まだ起きたばかりだから混乱しているのね。…無理に起き上がらなくていいからね?」
「…う、ん」

視線を動かすと、すぐ隣にアスベルが寝ていた。何やらアスベルの方から声が聞こえてくるが、頭が上手く働かないため聞き取れない。

「ラムダ…は」
「今、兄さんがラムダと話をしているみたいなんです」
「アスベルが?」

私はリチャードに助けてもらいながら起き上がると、倒れているアスベルを見た。

「ラムダは…僕の自らの境遇を呪う気持ちと強く同調していた。それを僕は、分かり合えていると錯覚してしまった。だから僕たちは本当の意味で助けあすことが出来なかったんだと思う。だけど、アスベルなら…」
「…アスベル」
「…名前、お前が覚えているのは…どこまでだ?」
「私が覚えているのは、体が動かなくなって、ラムダが体に入ってきたところまで…です」
「ラムダの影響を受けているって聞いたけど、どういう事なの?」
「ラムダの繭の中で、ラムダに触れたときから…ラムダの感情が私に伝わってきたの。…黙っててごめんなさい」
「…まったく。大方ぼくたちに迷惑をかけると思ったから黙っていたんでしょう?」
「名前、私たちは仲間なんだから、迷惑だなんて思わないわよ?…一人で抱えちゃう癖、全然治らないわね」
「もうー。今度からそういうのは無しにしてよねっ!」

…仲間、か。
リチャードを助けることも大切だったけど、仲間に頼ることをしなかった。信じていないわけじゃなかったけど、迷惑をかけてはいけないと思ってずっと黙っていた。
だけど、それは間違いだった。頼って、頼られて…それが仲間のあるべき姿だったのだ。
するとアスベルの声が強く聞こえた。話を止めて、みんなでアスベルを見た。

「誰しも一人では乗り越えられないことがある。けど、手を取り合い協力し合えばなんだってやれる。俺はそう思っている」
「協力?その言葉で騙されるのは愚かな人間という存在だけだ」
「…そうだな。確かに人間はどうしようもない生き物だ。もちろん俺も、そんなどうしようもない人間の一人さ」

だけど…アスベルは言葉を続ける。
人間は決してそれだけじゃない、と。ラムダにとって大切な人だったコーネルさん。父親のようにラムダに接して、色々なことを教えてくれた。
誤解から悲劇が生まれ、その悲劇が更に大きな悲劇を生んだ。悲劇のはじまりには、いつもラムダの悲しみがあった。コーネルさんは、ラムダを悲しませるために育てたわけではない、と。ラムダを育てたコーネルさんは、ラムダに生きてこの世界を知って欲しかったのではないか?コーネルさんがラムダに見せようとしていたのは、悲しみだけではない、楽しいことも幸せなこともある、そんな素晴らしい世界だったはずだ…と。

「なあ、ラムダ。この世界をもう一度見てみないか?俺の中に入ったまま、一緒に生きることでだ」
「我はお前を侵食する。お前の領域は、次第に薄れていくだろう」
「俺はお前に乗っ取られたりしない」
「不可能だ。人の身で抗いきれるものではない」
「やってみなくちゃ分からない。俺がお前に乗っ取られてしまうかどうか…。それも含めてお前は見ていればいい」

やってみなくちゃ分からない。
星の核へ向かう前、私がアスベルに言った言葉だった。アスベルの決断は、私には考え付かないことだった。人にやってみなくちゃ分からないとか言って…自分は本当に何もできなかったな…。…だけど、今はそれよりアスベルの様子を見よう。


「さあラムダ、手をとれ」
「断ると言ったら?」
「…俺がお前の手を取るだけだ。どちらが先かなんて関係ない。手はつなぐ事に意味があるんだから」
「あくまで我と共に生きるつもりか。油断しているとお前の脆弱な自我など簡単に乗っ取ってしまうぞ」
「そう簡単に乗っ取られたりしないよう、こっちも本気でやらせてもらうさ」
「これからはお前と我と二人だけの戦いになるという事か」
「ああ、そういうことだな。俺は望むところだ」

するとそこで、ラムダとアスベルの声が聞こえにくくなってきた。
心配そうに仲間がアスベルに近づくと、閉じられたアスベルの目が開かれた。瞳の片方が、違う色になっていた。

「アスベルとラムダが話してるの、あたしたちにも聞こえてたよ。ラムダは…消えちゃったの?」

するとソフィがアスベルの手を取り、自分の近くへ持っていく。何かを確かめるように目を閉じ、少しだけ考えて、そしてまた目を開いた。

「…違う。今までみたいな反応じゃないの」
「それじゃあ、ラムダは消えたの?」
「これは…ソレとは違う気がする。このラムダは消せない。消す必要のないラムダ」
「…どういう、事だ?」
「ラムダは…眠る、と言っていた。少し眠らせてもらうと」
「じゃあ、もうソフィが自分を犠牲にする必要はなくなったって事?」
「ああ」

ラムダも、私たちもみんなが「生きる」ことができる世界。
全てを守るという、アスベルの考え。ソフィもラムダも、結果的に守ることができた。…まだ一歩だけ。だけど、この一歩が踏み出せたことによって、たくさん変わっていくことがあるといいな。


「戻ろう、俺たちの場所へ」

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