リチャードと、リチャードの中にいるラムダを分離させるために戦闘をして、そして彼らを動けない状態にまで追い込んだ。シェリアがラムダに出て来いと呼びかけるが、彼は答えない。

「リチャードとラムダの融合が進みすぎたせいで、分離ができない状態なのかもしれない」
「なんだって?」

私たちが駆け寄ると、リチャードはゆっくりと目を開いた。

「名前、は…」
「リチャード…」
「名前…」
「…。リチャード、これあげるよ」

ポケットから輝石のお守りを取り出し、リチャードに握らせる。ずっと渡したかった物、ようやく渡せた。
…ラムダと融合した彼に触れてしまったせいか、先ほどよりもっと苦しくなり、地面に手をつく。

「リチャードの、ために…作ったの。このお守り、効果あるんだよ。また、みんなが昔みたいに笑って過ごせるような時間だって、きっと…、できるから。…あのね、私は、この世界に生まれてよかった。みんなに会えたし、リチャードにも、会えたし…、私には友達なんていなかった、私の世界は船だけだった、だけど、変わった。変えてくれた。今まで出会った全ての人たちの優しさに触れて、素敵なものをたくさん貰った。リチャードにも、たくさん貰った。だからねえ、また一緒に花畑へ行こうよ。7年前みたいに、みんなで遊ぼう?」

「…名前、君は…こんな僕と、こんな、僕を…まだ」
「…私とリチャードは友達、だから…当たり前だよ」
「…俺だってそうだ。…リチャードは俺の友達だ。どんなことがあっても、俺はお前を見捨てない」
「アスベル…、名前、…ありがとう、…だけど、僕は気づくのが少し遅かったようだ…、遅いんだ、何もかも、遅かったんだよ…僕はもう、ラムダの気持ちと自分の気持ち、どっちが自分の気持ちか、分からなくなってきているんだ。このままでは、君たちの命を奪うことになってしまう。だから、今のうちに止めを刺すんだ」
「リチャード、諦めるな!」
「…僕に止めを刺したら、君の中にあるラムダの感情も、きっと消える…」
「ラムダの…感情?」
「…ダメだよ、じゃあ私たち何のためにここまで来たの?リチャードを助けるためなんだよ?」
「…だけど、ダメなんだ。だから早く、僕に止めを…」
「そうはさせない!」
「この声…もしやラムダか?」

するともの凄い力がリチャードの周りを包み込んだ。するとまともに息も出来ない状態になった。…くそっ

「…っ、はあ、はあ…」
「名前?どうしたの、名前!」
「先ほど言っていたラムダの感情というやつか?もしかしたら名前の様子がどこかおかしかったのも…」
「なんでずっと一人で…」

マリクさんに支えられてもらう。だけど私は仲間の問いに答えずリチャードを見る。

「アスベル、僕がラムダの意識を抑える!早く止めを…!アスベル、早く!ぐああああっ!」
「リチャード!」
「…、ラムダ、一緒に…いこう。…もう、こんな過ちを繰り返すのは、おしまいに、するんだ!」
「我とともに…消えるというのか…?生きる権利を、自ら放棄するというのか…?…ありえん、我々を苦しめた存在のために、消えるなどあり得ん!消えるのならば、一人で消えよ!生きる意志のない者に、用はない!」

ゆっくりとリチャードの体が宙に浮く。禍々しい空気に包まれながら、表情を歪めるリチャード。
私たちは下から見ていることしか出来なかった。やだ、やだ…こんな事、こんな事になるなんて、そんなの…


「嫌だあああああっ!」
「ぐあああああっ!」
「リチャード!」

私の叫ぶ声とリチャードの悲鳴が重なるのと同時に、アスベルがリチャードの下へ飛ぶ、そしてアスベルはリチャードを掴んで引っ張った。
アスベルの体も禍々しい原素に包まれるが、何とかリチャードを救い出すことに成功した。気を失ったリチャードの下からアスベルが出てくるのと同時にソフィが警戒したように構えた。

「ラムダ…!」
「あれが…ラムダ、なのか?」
「リチャードの体から離れて、今まで取り込んだ原素と融合している」
「あれを倒せば、全てが終わるんだ」
「全てが終わる…?我を倒したら、次は何と争う?争う相手が見つからねば、自ら作り出すか?人間はいつもそうだ、存在していくために、他を犠牲にし続ける。その必要のないものまで争いに巻き込み、悪として滅ぼす。それがいかに無知で驕った考えか、わかろうともしない。死を持ってその罪を償うがいい!!」

戦闘に入る直前、私の体は抱えられ倒れているリチャードの隣に降ろされる。

「マリクさん、っ、は…私、戦える…から、」
「何のためにここまで来たのか考えろ」
「…でも、私は何もしないのなんて嫌だ…!」
「陛下を救い出す事も目的だが、リチャード陛下を含めた全員で帰ることも目的だ」
「…」
「さっきの言葉で、陛下の気持ちは随分楽になったと思うぞ。親友のアスベルと、お前からの言葉は、な」
「…」

私が頷くと、マリクさんは武器を持って前線へと向かっていった。
痛む胸を押さえて、私はラムダを見る。黒い球体のようなものだったラムダの姿は、大きな人のような姿になっていた。

ラムダのある感情が強くなる。

『生きろ』

…コーネルさんの言葉だ。

生きる。そのために、仲間も、ラムダも戦っている。だけど、私にはそれができない。
だけど戦うことだけが誰かのためになるというわけでは、ない。
隣にいるリチャードを見る。…もしラムダがこちらを狙ってきたら、彼を助けないと。…それが今私にできること、だよね。
私はリチャードを庇うように彼の体を抱きかかえた。

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