次に頭の中に現れた映像には、先ほどと同じように、コーネルさんとエメロードさん、そしてヒューマノイドの身体に入ったラムダだった。
だが先ほどの映像とは違い、ラムダは大きな入れ物に閉じ込められていた。

ラムダの体組織を移植した生物が次々に狂暴なモンスターと化し、人々の脅威になっている。その原因はラムダ本体にあるらしいとの事だった。
ラムダは自身の体組織を移植した生物を精神的支配下に置くことが可能で、フォドラの上層部はラムダを危険と判断し、故に廃棄処分を決定したのだ。

だが、コーネルさんはそれに意見を述べる。
嫌がるラムダを無理やり実験対象にしたから、ラムダの気持ちを無視し、理不尽な扱いをすれば、怒るのも当然だ…と。
討論を続けていると、サイレンの音が室内に響き、やってきた数人の男達にコーネルさんは拘束されて、姿を消した。



逃げて!と、私の中のラムダが叫んだのが分かった。

ガンガンガンという硬いものを叩く音がした。ラムダがコーネルさんの連れ去られたほうを見ながら、必死に両拳を装置に叩きつけていた。
そこから感じられる感情は、焦り、悲しみ、絶望。コーネルさんの姿が見えなくなってしまった頃には、装置を叩くことを止めて、じっと下を見ていた。


「人間のふりをさせるなど。…所長はどうかしています。ラムダはあくまで実験の対象。目を向けるのは、その性質だけでいいのに」


お前もそう思うわよね、ラムダ


そう問いかけられた問いに、ラムダは応えない。ただただエメロードが怖いという感情だけが、私の胸とあそこにいるラムダに伝わってきたのだ。
それと同時に、装置の中の空気が変わる。重いものが、心の中に流れ込んでくるような、そんな気がした。

驚いてエメロードさんを見ると、彼女は薄く笑いながら「おやすみ」と呟く。


頭の中が真っ白になっていく。その中で見えたのは、救いを求めるように伸ばされたラムダの小さな手。





ラムダは、何もしていなかったのだ





「…エメロードさんは、ラムダのせいでフォドラが混乱し、結果的に滅びたと言っていたが」
「これまでの情報を統合すると、ラムダが何らかの実験の対象になっていたのは間違いない。その実験が原因で、騒動が起きたというのも事実だろう。ただ…」
「その騒動は、必ずしもラムダだけが原因ってわけじゃなかったかもしれないんだね。でも、責任だけは押し付けられて、悪者扱いされた…、そういうことかな?」
「…ここでこれ以上、推測を重ねていても仕方がない。少しでも早くラムダの下へ到達することを目指すとしよう。…ところで名前、大丈夫なのか?」
「あ、はい。…ラムダの感情は伝わってきたんですけど、苦しくなることはなかったです」
「どんな感情だったんだ?」


アスベルの問いに、私は考える。
酷く、悲しかった。悲しかったのだ。



「…焦り、悲しみ、絶望…。特に、コーネルさんが連れて行かれてから、強くなったの。…きっと、ラムダにとってコーネルさんは大切な人、だったんだ」
「名前?あなた…」
「え、どうしたの?シェリ、ア…」


頬に伝わる一筋の線。
震える自分の身体。


泣いているんだ…。



「何かあったんですか?どこか、苦しいとか…」
「ううん、全然平気なのに…、涙だけが溢れてくる…、な、んだろ…すごく、悲しい…」
「これもラムダの影響なのかもしれんな」
「…名前を元に戻すには、ラムダにこの感情を返さなきゃいけないと思うの」
「そっか、名前は繭でラムダに触れちゃったからラムダの感情が伝わってきてる…、その逆も考えれるんだね!」
「ですが…ラムダに更に触れたらより悪化してしまう、…というのは考えられませんか?」
「とりあえず、ラムダの下に行ってみるのが一番だよね」
「あぁ、行こう!」



私の胸の中には、ラムダの、コーネルさんを思う純粋な愛の気持ちが渦巻いていた。
それは、仲間たちを思う私の気持ちとよく似ていて…


ラムダが少しだけ、近しい存在に感じれた。





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