大型船が港に来ると聞いたのは、ほんの数時間前の話だ。
兄さんは、嬉しそうにぼくの手を引っ張りながら街道を歩く。


「だめだよ兄さん、街の外は危ないから行くなって言われてるし…、それに港には運搬屋さんを出迎えに父さんも行ってるんだよ?」
「でもさ、会ってみたくないか?」
「それは…、そうだけど」


兄さんが執務室から盗み聞きした話。
運搬屋さんには一人娘がいて、一緒に世界中を旅してまわっているのだそうだ。



「きっと俺たちの知らないことをたくさん知っているんだ!それって、すごいことだよな!」
「そうだけど…」
「だからさ、なっ?」
「はあ、わかったよ兄さん」

結局、ぼくが折れた。




「おー、めちゃくちゃでかいな!」
「すごい!こんなに大きな船、初めて見るよ」


港には、今まで見たこともないような大きな船がとまっていた。
ぼくと兄さんは、しばらくその船の大きさに圧倒されて動けなかった。


「あ、親父!」
「え…?あ、ほんとだ」
「行くぞ、ヒューバート」

ぼくの手を取り、兄さんは船から荷を降ろしている船員さんたちや父さんや父さんと話している船長さんにバレないように船に忍び込んだ。






「ここかな?」
「そっと開いて中を見てみようよ」
「そうだな…よし、そーっと…」

船の中には沢山の部屋があった。どこにその女の子がいるのか全くわからなかったので、手当たり次第扉を開けていった。
そーっと開いたが、その部屋には誰もいない。

「あー。いなかったかぁ…」
「でも兄さん、この部屋…」

ぬいぐるみとか沢山置いてあるから当たりじゃないかなぁ…。と言おうと振り返ると…。あ…


「ん?どうした、ヒューバート」
「に、兄さん…!」
「あ?なんだ、よ…。あ…」

そこにいたのは、ぼくらと同じくらいの年の女の子。
驚いたように目をぱちぱち閉じたり開いたりしている。その姿が、なんだかとても可愛かった。


「誰?」
「え、えっと…。ぼくたちは…」
「俺はアスベル!こいつは弟のヒューバート。よろしくなっ!」
「…え、えっと…。あ、あ…名前、です」
「んなに緊張すんなよな!なな、これから街へ行かないか?」
「え、街?…あ、ごめんね。今日は夜からお父さんのお手伝いしないといけないからずっと船に居ないといけないの」
「そっか…」
「あ、あ、…でも…お部屋なら、いいよ。えっと、夜までなら」
「本当か?」
「うん、お部屋…入る?」

名前と言う少女はぼくたちがさっきまで勝手に覗いていた部屋の扉を開ける。
すると兄さんは笑いながら入っていった。

も、もう!女の子の部屋だよ?デリカシーがないんだから!


「ヒュー、バート?くん?」
「え、あ…名前ちゃん」
「お部屋…入ろ?」
「う、うん!ありがとう」


彼女に手招きされ、ぼくは船の中にある彼女の部屋にお邪魔した。





「へぇー、じゃあずっと船で暮らしてんだ」
「うん…ずっとだよ」
「飽きない?」
「…わかんない」

名前という少女は口数が少なく、大人しいというのが最初の印象だった。
ぼくや兄さんが話しかけても、その顔をあげようとはしなかった。その手は震えている。

兄さんも、段々少女の様子がおかしい事に気づく。


「名前さ、こっち向いて話せよ」
「え、…?」
「だってさ、話すときに話しかけてる相手がこっち向いてなかったら寂しいだろ?」
「あ…、ご、ごめんね?私、どうしていいか分かんなくて…。私、今まで同じくらいの年の子と話したことがなかった、から…」


彼女はずっと船暮らしだった。
…それは、ある意味籠の中の鳥状態だったのかもしれない。

かわいそうだ、と思った。


「じゃあこれからいっぱい話そうぜ!」
「え…?」
「二週間ラントにいるんだろ?だったら沢山たくさん遊ぼうぜ!色んなとこ案内してやる!だから…そんな悲しそうな顔するなよ!」
「…うん、ありがと」
「よし!俺たちはもう友達だ!」
「とも、だち…?」
「あぁ!友達さ!なぁ、ヒューバート!」
「うん、友達だよ」
「友達…ともだち、トモダチ…っ、うん、うん!ありがと!」



そう言って笑った名前の笑顔を見たとき、ぼくの胸は鳴った。



はじめての!
彼女にとっても、それに…ある意味ぼくにとってもはじめてのモノだった







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