長旅を終えて城に着くと、僕は一番最初に父の下に向かった。
容態が急変したと聞いたが、どうやらもう大分調子は戻ったようで、僕は安心して自室へ戻った。



「ふぅ…」


溜息をつき、ベッドに腰掛ける。…ここはやはり息が詰まる。
父の部屋に見舞いに来ていた叔父の顔を見ただろうか、意地汚い顔をして…やはり、ここは汚い。



「それにくらべてラントは…」


ラントはとても綺麗な所だった、楽しそうに暮らす民たち、綺麗な小川、澄んだ空気…
僕は目を瞑って思い出す。
少ない時間だったが、とても楽しくて素敵だった一日を…
そして、あの少女のことを。



「っ…」


彼女を思い出しては、顔の赤くなる自分が少しばかり恥ずかしい。
初めてだった、こんな気持ちを抱いたのは…。

人を好きになる事なんて、今までなかった。
だから、自分でも少し驚いている。

もちろん、アスベルたちも好きだ。
…でも、名前は違う、何か、違う…同じ好き、なのに…。

僕は寝そべり、枕に顔をうずめる。すると自然に顔が綻んだ。




「可愛かった…な」


脳裏には彼女の笑顔、まるで可憐な花のような名前。
僕を優しく包み込んでくれるような、魅力があった。


この気持ちの名前…僕は知っている。
昔、本で読んだことがある。一人の村人が、村の優しい少女に惹かれる話だった。
そう、この気持ちは…


「恋…」



言葉に出すと、なんだか恥ずかしくなってしまって今度は毛布を頭から被る。とろけてしまいそうだった。
そして気づく、僕はありえないくらい彼女に惹かれている。




じゃあ、彼女はどうなのだろう。

僕は最初に彼女の人間関係から考えてみた。



「名前の友達…アスベル、ヒューバート…ソフィ、シェリア」


そこまで考えて、ストップする。ラントで出会った人ばかりじゃないか。
…そうか、僕は彼女のことを何も知らないんだ…。

そう考えると、悔しくて少しだけ腹が立ってきた。
…いや、でも彼女はずっと船暮らしで友達がいないと言っていた。だから、絞るとしたらこの中…


では話を戻そう、ソフィとシェリアは女の子だ、まずありえない。
ヒューバートは…どうなのだろう、まだ小さいし、違うよな…。いや、でも名前と同じ年だと聞いたから…うーん、保留だ。
あとは…




「アスベル」



思いだす、僕と名前が初めて会話したときの事を。



「強引だけど、優しいんだよ。…いつも人のためを思って行動している。それが、アスベル…」




褒めてた。
すごく、褒めてた。




「アスベル、なのか…?」



悔しいが、名前が先に出会ったのもアスベルの方だ。
…そう考えると、気分が落ち込んできた。悔しくて、足をバタつかせる。
今日の僕は随分と感情的で子供臭い。



「はぁ…」


また溜息がでる。
「恋」とはこんなに苦しいものなのだと、初めて知った。…本の主人公の気持ちがようやく理解できた。



だが、諦めれない。僕は名前が好きなんだ。

そう思うと、自然と力が溢れてくるような、そんな気がした。


名前と次にあったときに約束をしよう。
こんな子供臭い僕でも、あと何年か経てば大人になる…だからその時にこの思いを伝えると、約束しよう。



不思議と笑顔になる。
恋とは、こんなにも人の気持ちを変えるものなんだ、恐るべし、恋。


僕はベッドから立ち上がり、帽子を手に取る。
僕のお気に入りの緑色のやつだ。

これを彼女との約束の印に渡そう。


そう心に決めて、僕は帽子を大切に胸に抱きかかえた。









(そんな僕に、アスべルと女の子3人が来たと知らせが来るのはもう少しあとのことだ)






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