暗くじめじめした洞窟を抜け、リチャードたち3人は街道に出た。
埃を払い、辺りを見回す。

敵は…いないようだ。


剣を鞘に収め、アスベルは近くにある小屋を指差す。



「あそこで休めそうだ」
「そうだね、でも本当に気を使わなくてもいいんだよ」
「そんなこと言って…フラフラじゃないか、リチャード。なぁ、ソフィも休むだろ?」


アスベルはソフィに視線を向けると、彼女はずっと違う方向を見ていた。


「どうした?」
「…人」
「え?」


アスベルは剣を抜く。
まさか、追っ手?…こんなに早くに!

ソフィの指差す方を見ると、砂浜に人が倒れていた。


「追っ手じゃないのか…って、そんなこと言ってる場合じゃない!助けないと」
「ん?…あの帽子は…」

アスベルが砂浜に向かうと、ソフィも一緒に走ってついてきた。
続いて、リチャードもやってくる。



アスベルは倒れていた人に近寄る。
…女の子だ。

閉じられた唇は紫で、全身濡れていた。


「打ち上げられたのか…?」


心音と呼吸を確認する。


「まだ、生きてる」

ソフィの声に、一安心。
だが、この少女…どこかで見たことがあるような気がする…

アスベルはもう一度少女を見る。
リチャードは、彼女の被っていた帽子を取り、眺める。


「やはり…これは、…」
「リチャード?その帽子に見覚えでもあるのか?」


アスベルの問いに、コクリと頷くリチャード。


「これは、僕が彼女にあげたものだ」
「リチャードが、この子に?」
「君も知っているはずだよ、アスベル」


アスベルは、思い出す。
この髪の色、そして、バロニアについてからこの帽子を被っていた一人の少女を。


「もしかして…」
「そう、名前だよ」


アスベルは驚き、彼女を見つめる。
子供のころと違う大人っぽい彼女に、アスベルの顔は少しだけ赤くなる。


「アスベル、小屋に連れて行かないの?」

ソフィに言われ、我に返る。


「あ、あぁ…。ベッドで休ませてあげよう。…すごく震えてるしな」


彼女の体を抱き上げると、リチャードが手を差し伸べてきた。


「僕が運ぶよ」
「いや、お前は怪我をしているだろう、俺が運ぶよ」
「…アスベル」


リチャードは無表情でアスベルに言う。
…どうやら怒っているようだ。


「わ、わかったよ、お前に任せる」
「物分りが良くて嬉しいよ」


少しご機嫌が戻ったリチャードは、彼女を横抱きにし、小屋へと歩いていった。
アスベルとソフィは、その後に続き小屋へと向かった。









「それにしてもびしゃびしゃだね」
「何か着替えれるものがあればいいんだが…」


彼女を簡易ベッドに寝かせようとしたのだが、服が濡れているのでこのままでは風邪ひいてしまう。
男二人は悩んだ。


「僕の服を貸してあげようか」
「いや、サイズが合わないんじゃないか…?」
「そこがいいんじゃないか!」
「は、はぁ…」


力説するリチャードに、少し着いていけないアスベル。
そんな二人の下に、ソフィが何かを持ってくる。


「はい、小屋に常備されている着替え。あの棚にあったよ」
「おぉ、でかしたな、ソフィ!」
「…少し残念だよ」


リチャードの言葉を無視して、アスベルはそれを持ち名前に近づく。


「ちょっと待った、アスベル。もしかして君が着替えさせる気かい?」
「あ、そ、そうだよな…」


持ち前のお兄ちゃん気質が働いてしまったアスベル。
そう、相手は女性。
いくら友達といえど、そこは触れてはいけないものなのだ。常識的に。



「ふう、君は目を離すとすぐに突拍子も無い行動に出るね」
「あ、あぁ…反省している」
「じゃあ、アスベル。ついでにソフィも外に出ていてくれないかな?」
「何する気だ?」
「僕が着替えさせるよ」
「お前も一緒だろ!」


本気で言っているのかよく分からないリチャードの発言に、アスベルは頭を抱える。
すると、ソフィがアスベルの持っていた着替えを取り返し、男二人を小屋から出した。



「わたしが、着替えさせる。入ってきちゃだめ」



パタン



とドアを閉められた。



「君のせいだよ、アスベル」
「いや、どっちかというとお前のせい…っていうか、お前のせいとか何か関係あるのか?」
「僕には大有りだよ」





すっかり機嫌の悪くなったリチャードに、ソフィとアスベルが食料調達を頼まれたのは、名前が起きる数十分前のことだった。





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