そこは見たことの無い場所だった。私にとっては。
だが、私の中にいるラムダの感情が暴れる。懐かしい、懐かしいと言って暴れる。悲しい、楽しい…。そこで分かった。これはラムダの過去の記憶なのだろう。


どこかで見たことのあるような…小さな男の子が、積み木で遊んでいた。
すると傍にあった装置から、初老の男性が出てきた。

ラムダの感情がビクリと震えた。この人は、ラムダの…ワタシの大好きな人だ、と。


男性がラムダ、と男の子を呼んだ。ラムダ、は遊ぶ手を止めて男性を見た。
それに笑いながら近づくと、男性はラムダの頭を優しく撫でた。


「積み木で遊んでいたのか。よしよし」

だが、何も反応を見せないラムダに、男性は少しだけ悲しそうな表情になる。

「褒められて嬉しくないのか?嬉しいときはこうするんだ」


男性は歯を見せて笑った。本当に楽しそうに笑った。
するとラムダもそれを真似して、ニィッと歯を見せた。

笑うこと、それは一番良い感情を相手に伝える手段。私や仲間たちもよく使う、一番の感情表現。
それをラムダに教えるこの男性は、とても優しそうで…なんだかお父さんを思い出した。


「ははは、ぎこちないがまぁいいだろう。いずれ自然にできるようになる」


そういうと、男性は再びラムダの頭を優しく撫でた。この二人は親子みたいだ。
男性は、まるで大切な自分の子供のようにラムダを扱っている。
すると、再び装置が開いた。…椅子に乗ったエメロードさんだった。

ラムダの感情が、怒りをあらわにした。私自身も、この人に良い感情はないので、少し複雑な気持ちになった。



「コーネル所長」
「おぉ、エメロード君か」
「…所長、私はやはりこのやり方は賛同できません」

エメロードさんは椅子に座ったままゆっくりと近づいてきて、ラムダをひと睨みして続ける。


「我々の研究目的は、星の核で発見されたラムダの能力を研究する事だった筈です。…情操の形成ではありません。これを続けていると倫理規定に抵触する恐れがあります」
「…倫理か」


コーネルと呼ばれた男性は、エメロードさんからラムダに視線を移す。


「泣いたり、笑ったり…。そういった当たり前の感情すら、この子に与えてはいけないのか?」
「そうはいいますが、このボディはあくまで研究用として便宜的に与えた物に過ぎません」
「器が魂を形成する事もあるのだよ…。見たまえ、この子を」


ラムダは作った城をゆっくりと上から壊してゆく。


「日に日に人間らしく成長しているではないか。…エメロード君。実は私はこの子を通じて試みたいことがあるのだ。もしかしたらこの子は、ヒューマノイドの枠を超えた、新たな存在になるかもしれない。この子は我々にとって、未来の可能性そのものなのだよ」
「はぁ…」
「ラムダにはもっと多くの事を学ばせる必要がある。そしてのびのびと育ってほしい。…そう、人間そのものとしてな」


コーネルさんとエメロードさん、そしてラムダがゆっくりと消えていく。
それと同時に、私の頭の中でラムダが叫んだ。これは、これは、マズい…


「あ、あっあ…ああああ…っ、あ、や、やめ…やめて、やめて、出てくるなあっ!」


「私」が叫んだと同時に、ラムダの感情が心の奥に引っ込んでいったのが分かった。
乱れた呼吸を落ち着けていると、仲間達が駆け寄ってくる。


「名前!大丈夫か?」
「う、うん…なんとか」
「汗がすごい…、一度回復術をかけるわね」
「あり、がと…」


シェリアの癒しの力で、心と身体がだんだんと落ち着いていくのが分かった。


「ここに来たせいで、ラムダの感情が表に出やすくなったのか?」
「うん、それもあるだろうし、ラムダの本体に近づいたせいで、名前の中のラムダの感情と共鳴し易くなったのかもしれない」
「少し休むか?名前」
「ううん、大丈夫。シェリアの術のおかげで楽になったよ」
「無理はしないでね?」
「わかってる」


ヒューバートとアスベルに支えられながら、私はゆっくりと立ち上がった。
これから先、何が起こるかわからない。だけど、大丈夫。私には仲間がいる。仲間がいるから。





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