あの後、色々なことを胸にラントへと帰った私たち。
夜も深まり、ラントの象徴ともいえる風車が夜風に揺れて回っていた。


ラントに着いた後、私たちは明日に備えて解散した。早めに就寝しようという提案だったが、仲間たちはまだ暫く起きているようだった。
私はどうしようか迷ったが、結局寝ることを決めた。



男性はアスベルたちの部屋、女性には客室がそれぞれの寝室としてラント家から貸し出された。
私はそのベッドの上に寝転がり、静かに目を閉じる。

とりあえず、明日何が起こるかわからない。だから明日に備えて体力を回復しておこうと思う。

今日は色んなことがありすぎた。だがそのおかげで色々と考えることもできた。心構えも、できた。
大丈夫。リチャードたちを助けるまでは、きっと我慢できる。自分を見失わなければ、きっとラムダに干渉されることは無いのだろう。…たぶん。
いや、弱気になってはいけない。きっと大丈夫。きっと、きっと皆で一緒に帰ってこれる。…だから今はゆっくり…



コンコン、とドアが叩かれた。女の子たちは部屋に入ってくるのにノックなんてしないだろう。じゃあ一体誰だ…?
私はベッドから起き上がり、客室のドアを開けた。そこには少し申し訳なさそうな表情でアスベルが立っていた。


「アスベル?どうしたの…」
「名前と話がしたくて…」
「…立ち話もなんだし、入ったらいいよ」
「あぁ、ありがとう」


アスベルを部屋に招き入れると、私はベッドに腰をかけ、彼は机のそばに置いてある椅子に座った。


「寝てたのか?」
「ううん、まだ起きてた」
「そうか…」


無言が続く。…アスベルは何か言いたそうだった。先ほどから目線を動かして、どこか落ち着かない様子だ。
…多分彼は色々と考えているのだろう。ソフィのことも、リチャードもことも。もちろん皆のことも。

実質このパーティを仕切っているのはアスベルだ。それだけ、彼にかかる負担は大きい。それに元々真面目な性格のため、深く考えてしまって今きっとどうしようもない状態なのかもしれない。
…そういうところ、本当に私とそっくりだな。

するとゆっくりとアスベルが口を開いた。



「ソフィは、クロソフィが風花になるのを見たいらしい」
「クロソフィの…?」


クロソフィが風花になるには、花が咲いた後に幾晩も月の光を浴びせないといけないらしい。
ラント家の花壇で見たクロソフィは、それにはまだ程遠い状態だった。


「そっか…」
「俺たちは…、本当に戻ってこれるかな」


アスベルの問いに、答えることができなかった。私自身、それが不安で仕方なかったからだ。
また暫く沈黙が続いた後、またその沈黙を破ったのはアスベルだった。


「…俺、名前にお礼を言いに来たんだ」
「お礼?」
「あぁ、…正直リチャードのこと、みんな諦めかけていただろう?俺もその雰囲気に圧されそうになっていたんだ」
「…」
「でも、名前は諦めなかった。どんなに酷い目にあっても、どんなことが起こっても諦めようとはしなかった。…俺はそんなお前の姿に助けられた。…頑張ろうと思えたんだ」


それは違うよ、アスベル。
私は弱い。弱いんだ。…絶望したときもあるし、運命を呪ったりもした。今だって、みんなに隠し事をしている。
本当は分かっている。ラムダの感情が流れ込んでくるということを、みんなに伝えたほうが良いということを。…だけど、私は隠し通すことを選んだ。
それは私の我侭だ。みんなに迷惑をかけたくない、そんな理由じゃないのだ。…これは私のただの我侭だということに、私は気づいている。気づいているけれど、…私はこの道を貫く。たとえ私に何があっても。

それでも、そんな私でもアスベルはそう言ってくれたのだ。…それが嬉しかった。
私も、仲間たちに救われているのだ。


「これから先、何があっても友達でいよう…。覚えているか?」
「うん」
「…子供の頃の約束だけどな。…でも、あの時この約束をして本当によかったと思うんだ」
「そうだね」
「こうして今も…これから先もずっと、この約束は永遠に残るんだ。…だから、また皆で笑って過ごせるようになりたいな」
「…うん」
「…なぁ、名前」


今まで笑っていたアスベルの表情が硬くなる。










私はアスベルが去った部屋の中、ベッドに寝転んで先ほどアスベルが私に投げかけた言葉を心の中で唱えていた。


「すべてを守りたいと思うのは…、そんなに無理なことなのか…?」


そう言ったアスベルは、泣きそうだった。


どうなのだろう、と思う。
皆で帰る。…言葉では簡単に言えることだ。だが現実はどうだろう。
リチャードとラムダの関係。ソフィの対消滅の話。そして皆は知らないけど、私の中にいるラムダの感情。

…それをすべて解決することは、本当に可能なのだろうか。


私には分からない。だから私はアスベルにこう答えた。




「やってみなければ、わからない」



自分自身にも投げかけた言葉だった。







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