夜のラント、風車の下。


私は持参した毛布に包まりながら夜空を見上げていた。満点の空に輝く数万個の星。こうして空を見上げると、船にいた頃を思い出す。
夜にお父さんの横で毛布に包まって、幼い私は望遠鏡を片手に空を見上げていた。



「お星様、とても綺麗だね。ねぇ、お父さん。お星様の数くらい、お友達できるかなあ?」
「あぁ、きっとできるさ。名前はとても優しい子だからね」
「ほんとっ?ほんとに?」
「本当さ。お父さんが保障してあげるよ」



お父さん、お父さん


私は、星の数ほど友達はいないけど。
でもかけがえの無いものをたくさん手に入れたよ。






結局、パスカルの作戦は失敗に終わった。皆は残念そうな顔をしていたけど、私は平気だった。
ただただ、皆に感謝していたのだ。こんなにも私の事を思ってくれる仲間たち。…感謝してもしきれないくらいだった。

あの後ラントに帰った私たちは、明日の星の核出撃に向けて各自思い思いの時間を過ごすことになった。
私は大好きなラントの象徴ともいえる風車へ登った。



風に吹かれてくるりくるりと回る風車。
同時にくるりくるりと回る私の感情。


なんだかもう慣れてしまった。ラムダと私の感情がごちゃ混ぜになることに。
今は平気。自分を保てる。…でも明日、星の核へ行ったときの自分を考えると恐ろしくてたまらなかった。

みんながいる。…でも実際それだけでは駄目なのだ。
深いため息をついたとき、風車にかかる梯子が軋む音がした。



「名前」
「ヒューバート」



彼は私の横に腰掛、ホットココアを私に差し出してくれた。
私は自分の毛布を彼にもかけてあげた。するとヒューバートの顔は瞬く間に真っ赤になってしまったので、こちらも顔を赤くした。


長い沈黙が続いた後、ヒューバートはゆっくりと口を開いた。



「ぼくは、必ず名前を守ってみせます。…守る、だなんて薄っぺらい言葉だと思います。でも、ぼくはそうすることでしか貴女を…」
「ううん。そんなことない。…嬉しいよ」


手は自然に重なった。そこからゆっくりとぬくもりが広がる。ヒューバートが空を仰いだ。


「…母さんと、話してきました」
「そっか」
「きちんと…母と呼べました」
「うん」
「……母さんと話していると、昔の事をたくさん思い出しました。…昔は良かった。楽しかった。…けれど、それでは駄目なんですね」
「…」
「今を生きないと、過去ばかりに囚われてはいけません。過去の事は思い出です。大切な思い出。それを守るために、今を精一杯生きないといけません」
「うん…」
「だから、ぼくはもう自分を縛り付けないことにします」
「え?」


ヒューバートは私を正面から包み込んだ。突然の事だったので、私は少しだけ驚いた。
密着したことで彼の心臓の音が酷く大きく聞こえてくる。



「名前、聞いてください」
「う、うん…」
「一目惚れ、でした」
「!…」
「貴女のその優しさに、だんだん惹かれていきました。貴女の笑顔、貴女の仕草…全てに胸を奪われた」
「……」
「久しぶりに再会した。…名前を目にした瞬間、7年間溜めていたものが爆発するのを感じたんです。…一緒に旅をするうちに、貴女はぼくの中で7年前とは比べ物にならないくらい程に愛おしい存在になりました」
「っ、…ヒュー…」
「名前…、ぼくはもう仲間という関係だけでは満足できそうにないんです」


彼の声がだんだんと震えていく。心臓の音もだんだんと速くなっていく…
私は内側から爆発でもするのでは、というくらい顔が真っ赤になっていた。


いつも私を優しく、時には叱ってくれたヒューバート。いつも私の事を考えてくれていたヒューバート。
子供の頃からいつも人を気遣っていた優しい優しい彼…。


ドキン

胸が鳴った


私も、私も彼が好きなのだ。ヒューバートが、好き…なんだ。



「わた、しも…ヒューバートが好き…だよ」
「!名前…、っ…」


先ほどよりも強い力で私を抱きしめる逞しい彼の腕。
私もまた、ヒューバートの背中に手を回し彼の胸に顔を埋めた。


優しさが、私を包み込んだ。




それから私たちは2度目のキスをした。






ヒューバートの、今を生きるという言葉。
それは私の心に響き渡った。



この新たな関係とヒューバート言葉が、どれほど私を変えるかなんて、今の私は知らない。






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