「これは、手紙…?」


アスベルのそんな声で、我に返る。重い足を引きずって、仲間たちに近づく。


「誰からの手紙なの?」
「うん…?あれ、…これあて先が俺になってる」

アスベルはその手紙を声に出して読みはじめた。


前略…君とはもうどれくらい会っていないのかな?君が王都の騎士学校でがんばっている事は耳に入っているよ。


そこまで聞いて、この手紙が誰からのものなのか、すぐにわかった。
私は顔がほころぶ。…リチャードだ。

日付が書かれていた。…1年以上も前のものらしい。
彼は、優しくて憧れだった。私が知らないことをたくさん知っていたし、王子さまなのに偉そうじゃなくて…とてもすごい人だと思った。

だからこそ、私は彼と一緒にもう一度笑いあいたいのだ。彼だから、リチャードだから。



「あれ、もう一枚あるぞ…。これ、名前宛てだ」
「え…」
「読んで、いいか?」
「う、うん…」

アスベルが声を出して手紙を読み始めた。



名前へ

久しぶりだね、君と会えなかったこの6年間。…僕は君の事を一度たりとも忘れた事はなかった。
苦しいときも…悲しいときも、もちろん楽しいときも、ずっとずっと…。

君にはとても救われた。思えば初めて出会ったあの日、君が外へ連れて行ってくれなければ、何も始まらなかったね。
名前には大切なものを沢山もらった。本当にありがとう。

君はどんな素敵な女性になっているのだろうか。僕のこと、覚えているのだろうか。
6年って、とっても長いね。早く君に会いたいよ。

…そうだ。約束、覚えているかな。僕は君に伝えることがあるんだ。…でも今は言わないよ、直接…君の目を見て言いたいからね。

長くなってしまってすまない。…この手紙が、君の下へ届くように想いを込めて。





「リチャード…」

アスベルから手紙を受け取り、それを抱きしめる。


私がくよくよしてどうするんだ。私はやらなければならないことが、沢山あるではないか。
今、私がやらなくてはいけないこと。そんなの分かりきった事だった。


あの日リチャードが、私を庇ってくれた時のように。今度はリチャードを救う。この身に何が起ころうと、彼だけは、リチャードだけは必ず…!
だから、私がみんなに心配をかけてはいけない。ゆっくりと、私は感情を殺した。






真実は、伝えない。




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