「名前!」


部屋に入るのと同時に、パスカルに抱きつかれる。隣でヒューバートが怒ったように彼女の名を呼んだ。
私はヒューバートに大丈夫、と言うとパスカルの細い腰に手を回し、抱きしめた。


「目が覚めたんだね!魘されていたようだけど、大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ。パスカルもありがとね、ヒューバートから聞いたよ。ここまでシャトルってやつを運転してくれたんだよね」
「へへっ、うん。でも本当に良かったよ〜。怪我も治ったみたいだし!」
「心配かけちゃってごめんね」
「…名前」


急にパスカルが真剣な表情になる。彼女はいつもの無邪気な表情を捨て、22歳の大人らしい表情になったのだ。
私の肩に手を置き、真っ直ぐに私を見つめる。彼女の瞳は揺れていた。


「あたし…繭の中で名前が倒れていたのを見て、苦しかったよ、怖かったんだよ。…我がままかもしれないけど、でも…もういなくならないで…」
「パスカル…」


あぁ、私の自分勝手な行動で大切な友達を傷つけてしまったんだ。胸が締め付けられる。
私は頷くと、もう一度彼女に抱きついた。



「名前」
「マリクさん…」


パスカルの後ろから、優しく響く低い声。
彼女から身体を離して、私は彼に駆け寄った。

大きな手のひらが、私の頭を撫でる。彼にこうしてもらえるのはとても久しぶりだったので、嬉しくて少しだけ泣きそうになった。



「体調は大丈夫なのか?」
「はい、もう平気です」
「そうか…。無理はするなよ」
「分かりました。…ありがとうございます、マリクさん」



すると執務室の扉が慌しく開いた。飛び込んできたのはシェリア。とても焦っているようだった。



「み、みんなっ!名前が、名前がいないわ!」
「落ち着いてくださいシェリア。名前ならここにいますよ」
「え…あ、名前…」


シェリアの大きな瞳がパチリパチリと瞬きをする。その瞳がマリクさんの傍にいた私を捕らえると、彼女は嬉しそうにこちらへ走ってやってきた。


「名前!」
「シェリア、心配しすぎだよ」
「馬鹿!心配もするわよ!心配しすぎてどうしようもなかったわ!」

あぁ、でもよかった!そう言うとシェリアは私を抱きしめる。懐かしいシェリアの匂いに、私の心は落ち着いた。



「シェリア、ありがとね。怪我…治療してくれたんだよね」
「いいの、そんなの。もう、大丈夫なのよね?」
「うん、もう大丈夫。…本当にありがとう」
「名前…」


シェリアの瞳は濡れていた。私も釣られて泣いてしまった。
私は、こんなに優しい人たちに囲まれている。…でも、ラムダは…リチャードは今、一人なのだ。


ラムダの気持ち、もしかしたらこれは、ラムダが憑依しているリチャードの気持ちでもあるのかもしれない…。
私にはみんながいる。みんながいるから、私は悲しくない。孤独なんて感じない。


ラムダが孤独を感じるのは、近くに大切な人がいないからじゃないのかな。そんなの、悲しすぎるよ。
…私は思った。ラムダと一度、きちんと話してみたい…と。私に力はない。だけど、ラムダの友達になることは…できるんじゃないのかな。

それに、リチャードは何か悩んでいる様子だった。どこか戸惑っているようにも感じた。
とにかく、もう一度二人と会いたい。会って、それからまた伝えるんだ。何度でも、伝えるんだ。
リチャードには、この前言ったことを。ラムダには、友達になろう…と。



だから私は絶対に諦めない。これから先、どんなことが起ころうと。






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