「貴様のごとき存在が…」
「今の声は…」
「我の力を…手にできると思うのか!」
「エメロード、さん?」


彼女の声と、別の…男の声が混ざり合って聞こえてきた。
エメロードさんは何かに逆らうように身体を捻りながら声を張り上げる。


「何…?…う、…うおおおおお!馬鹿な…こんな筈では!ぎゃあああああっ!」

絶叫しながら、エメロードさんの身体はゆっくりと宙に浮いた。


「何が起こっているんだ!?」
「拒絶反応…?」


ソフィが呟いた瞬間、エメロードさんの身体が歪んでいった。あぁ…これは…
私が俯いた瞬間、エメロードさんの身体は爆発した。


「っ、見てください!まだ、何かが…!」

ヒューバートの声に、私は顔をあげてエメロードさんがいた空中を見る。


「誰…?」

小さな男の子が、いた。
悲しそうに下を見て、その小さな身体を震わせている。


「ラムダ…」
「リチャード!?」
「え…」


リチャードが、ラムダ…と呼ばれた少年に手を向ける。
…なんで…?リチャードは、なんでラムダに手を向けるの?リチャードは、ラムダのせいで苦しんでいたんでしょう?


「おいで…ラムダ、僕のところへ」
「リチャード、ダメっ!」


リチャードが向けた手に触れようと、ラムダも手を伸ばす。
私は急いでリチャードに駆け寄った。だが、その瞬間にラムダの力がリチャードと私を包み込んだ。


「うぁぁぁぁあああ!」
「っ!ああああああああっ!」
「名前!リチャード!」


胸に、沢山の感情が流れ込んでくる。


苦しみ、悲しみ、怒り、悦び、憎しみ、痛み、安心、不安、焦燥 、困惑、憧憬、欲望、 恐怖、不満、無念、嫌悪、軽蔑、嫉妬、期待、劣等感、怨み、切なさ、絶望、憎悪、空虚、生…そして死。

次々と流れ込んでくる感情に、吐き気を覚えた。


「っあ、ううっ」
「名前!」
「あ、あああっ。う、あ…あ…っあ…」
「名前、名前!」


ヒューバートとアスベルが私を支えてリチャードから引き離す。だが私はただ喘ぐことしかできなかった。
感情が入り乱れて、頭がパンクしそうだ。

すると、急に辺りが真っ赤に光った。
その光りが収まるころには、リチャードは背中から羽を生やし、美しい金髪は銀色に染まっていた。…別人のようだ。

リチャードが拳を地面に叩きつけると、物凄い衝撃が私たちを襲う。
地割れが起こり、割れた地面から光りが溢れた。


「星の核へ続く穴が開いた…!」


衝撃の影響で繭が崩れ始めた。ヒューバートが私を庇うように抱きしめる。


「リチャード!」


リチャードはゆっくりとこちらを向いて、無表情で私たちを見つめる。


「ラムダァアアァッ!」
「ソフィ、待て!どこへ行く気だ!?」
「止めないで!ラムダを消さないと!」
「落ち着けソフィ!」


「はっあ…あ…リチャ、ド…いやだ、あ…いやだぁ…」
「名前、今はもう無理です!」
「はなし、て…、リチャー…一緒に、かえろ…」
「離しません!今名前を離してしまったら、あなたを失う気がして怖いんです!」
「ヒュ、バト…でも、私、っ…」
「っ!」


ヒューバートは私を横抱きにすると、マリクさんの下へ向かった。


「……」


先ほどのこともあってか、意識が再び朦朧としてきた。
私はゆっくりと視線をずらし、リチャードのいた所を見つめる。


…結局、お守りも渡せなかったな。…また、何も出来なかったな。
リチャード…彼の気持ちは…どこへ向いているのだろうか。

私はゆっくりと目を瞑り、静かに涙を流した。







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