(管理人の好みにより、リカルド氏の皆の序盤の呼び方は苗字です。キュキュとコンウェイは、少し考えさせてください。苦手な方はご注意を)






「もしや、苗字家の名前お嬢様ではありませぬか…?」

ハルトマン宅で朝食を食べた後、皆がレグヌムへ向かうための支度をしていた時だった。元々武器と1万ガルド以外持ってきていなかった名前は、皆より早く準備が終わり、机に座ってボーっとしていた。そこに遠慮がちに話しかけてきたのは、一日お世話になったハルトマンだった。「ええ、そうですが…」と名前が答えると、ハルトマンは深々とお辞儀をした。


「そうとは知らず数々の無礼を申し訳ございません」
「いいえ、いいのですよ。それに無礼などではなかったわ。手厚い歓迎、感謝いたしますわ」
「わたくしめには勿体無いお言葉、ありがとうございます」
「何故、私を知っていたのかしら…?」
「昔、ベルフォルマ家の旦那様に連れられ、お嬢様とサングェ様の婚約取り決めの儀にお供させていただいたことがありまして、そこでお写真を拝見いたしました。他にも、ベルフォルマ家でのパーティーなどで御見かけいたしました」
「そう…。……」
「サングェ様はお元気でいらっしゃいますか?」
「…そうね、…元気よ」
「……そうでございますか」

ハルトマンは名前の気持ちを汲んだのか、それ以上サングェの話題を出すことはしなかった。
…名前は、自分の婚約者であるサングェのことが嫌いだ。政略結婚…、貴族に生まれた自分の、抗えない未来。自分の一番好きな人と、優しい家庭が築きたい。…当たり前の幸せを手に出来ない運命は、名前の心に闇を落としていた。

それからすぐに他の皆が来たので、ハルトマンと名前は会話を止めた。帰り際に、ハルトマンが名前を見て、深々とお辞儀をする。それにどんな意味が込められていたのか、それはハルトマンと名前だけにしか分からなかった。








レグヌムに向かうため、ナーオスを出た一行がレグヌム峠に入った時のことだった。この乾ききった空気のせいで、イリアが盛大にくしゃみを2回ほどした…と同時に、誰かが名前たちの前に飛び降りてきた。

「呼ばれてないのにジャジャジャジャーン!!」
「!!?」

ド派手な男…。それが、名前の彼に対する第一印象。血のように真っ赤な服には、白いフリルがふんだんにあしらわれており、長い槍をこちらに向けながら、ふらふらと体を左右に揺らしながら、ピンクの髪の男はめちゃくちゃな口調で楽しそうに喋り始めた。

「くっしゃみふたつで呼ばれたからにゃ、それがハスタのターゲットさまよぉーっと!」
「あんたなんか呼んでないわよ!」

イリアの反応で、この男とイリアが顔見知りなのが分かった。…あまり、仲はよさそうではないが。
すると、リカルドも男を知っていたようで、彼の説明を始めた。…この男の名はハスタ・エクステルミ。他人を殺めることを自らの楽しみとする、傭兵の面汚し…らしいが、その説明だと傭兵というよりただの快楽殺人鬼だ。


「西の戦場で俺の元から逃げ出して以来、なにをしていた?そして今なにをしに現れた?」
「はいそこ!うるさいのでバケツをかぶって廊下に立ってなさいでごじゃるよ!…レグヌムの枢密院から依頼を受けて、皆さんを皆殺しに来ました!来て差し上げたでごじゃるよ!」
「枢密院からの依頼だと…?フン…貴様には守秘義務という概念はないのか、ハスタ?」
「フン…貴様にはあえて秘密を漏らすことで口封じのモチベーションを高めるという概念はないのか、リカルド先生?」

初めて出会うタイプの人間に、名前が少しだけ戸惑っていると、隣にいたコンウェイが小さな声で何かを言っていた。
…長槍と、長身…魔槍の刺客…3つの単語が、名前の耳に入ってきた。よく分からずに首を傾げていると、ハスタが槍を振り回していたので、慌ててそちらのほうへ注意を戻した。

スパーダがすぐに双剣を取り出し、名前を背中に庇う。他の皆もそれぞれの武器を手にし、ハスタと対峙した。


「(庇われるだけなんて…情けないなぁ)」


名前はそう思いながら、皆の迷惑にならないよう、同じく非戦闘員のコーダを連れてレグヌム峠入り口付近から皆を見守った。







「ねえ、ハスタの言ってた枢密院ってなんなの?」

戦闘が終わりハスタが逃げて行った後、レグヌム峠にある橋を渡りながら、ルカがふとした疑問を口にした。
正教一体の時代のなごりとして、レグヌム王家に残る役職。教会のお偉いさんたちが、レグヌム政府に政治のあれこれを助言するために設立された機関。…昔のように大きな動きはなくなったが、かつては強大な権力を握っていたため、その名残か、当時のように大っぴらに発言をすることはなくなったが、今でも裏で政治を動かしているらしい。アンジュと名前がそう説明すると、リカルドがそれに付け加える。

「枢密院はアルカ教団のバックにいるともウワサされているらしい」
「ハスタが刺客としてやってきたってことは、教団のマティウスと枢密院が一緒になって創世力を狙ってるってことなのかな?」
「う〜ん…そのあたりも含めて、早くレグヌムで情報を集めましょ」


アンジュの言葉に頷き、一同はレグヌム峠を後にした。



20120329



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