名前が目を開けると、まず自分の身体が光に包まれているのが見えた。
次に見えたのは、名前の傷ついた箇所に手を当て、何やら呪文のようなものを唱えている青色の髪の女性。それから、そんな彼女の後ろにある壊れた兵器。すると、スパーダが大きな声で名前の名を呼んだ。


「名前!良かった、目ェ覚ましたんだな!」
「スパーダ…?…ええっと、どういう状況かな?」
「僕が…ッ!」
「…?」
「僕を、庇って…名前さんが怪我したんです…ッ!」
「違うわ…!わたしが、…わたしがこの方に怪我を負わせてしまったの…」
「え…?」

名前が戸惑っていると、ルカと青い髪の女性が泣きそうになりながら主張を始める。収拾がつかなくなってしまったので、コンウェイに視線を送ると、コンウェイは溜息をつきながらやってきた。


「兵器が襲ってきたのは覚えてる?」
「はい」
「あれに入ってたのが、この女性。探していた聖女、アンジュさんだよ」
「ああ、見つかったんですね。良かった」
「ルカくんはキミが庇ったことで怪我を負ったキミに対して負い目を感じている。彼女は自分の意思ではないとはいえ、自分の力で動いていた兵器がキミを傷つけてしまったことに負い目を感じている。…こんなところかな」
「なるほど、分かりました。…お二人とも気にしないでくださいね。痛みもないし、全然平気ですから」
「はあ?痛みがない?アンタ、血が物凄く出てたのよ?痛くないワケないじゃ…「イリア」…なによ、スパーダ」


イリアの言葉を遮ったスパーダは、名前の腰に手を回し起き上がるのを手伝う。そして彼女を支えながら立ち上がった。


「ふらつくだろ?」
「んー、血も出てたみたいだからね…。まあ、治療してくれたみたいだし、なんとかなると思うよ」
「脱出の時も傍にいてやるよ」
「ははっ…ありがとう、助かる」
「名前さん、本当に痛まないの…?」
「うん、全く。…だから心配しなくても大丈夫だよ」


名前がそう言うと、渋々といった様子で納得したルカたち。
名前はウソなど言ってはいない。本当に何も感じなかったのだ。…だけど、血が出たことで少しだけ身体がふらつく。…でも、それだけだった。


「じゃあ、とにかく逃げましょ!ほら、アンジュも一緒に逃げましょ!」
「本当に…わたしも一緒に行っていいのかな…?」
「どうしたの?早く逃げようよ!」
「…わたしは…一時の感情に身を任せ、大聖堂を破壊した…。そして、名前さんや皆さんを危ない目に…。わたしは自分が…転生者としての自分の力が恐い…。人を傷つけるくらいなら、いっそ…このまま…」
「このまま人殺しの道具になるの?なにもせずに?」
「それは…!」
「もし過去の自分を悔いているのなら、生きて償いの道を選ぶほうが賢明だと思うけど?」

コンウェイがアンジュに向かって言うと、スパーダが同意するように頷き、それからアンジュを向いた。

「そうそうおまえ、良いこと言うぜ!なあ、大聖堂をぶっ壊す前はみんなの傷を治したりしてたんだろ。あんたの力は人助けとかいいことにだって使えるんだよ。転生者の力が全部悪いわけじゃねえ」


スパーダとコンウェイの言葉がアンジュの心に響き、彼女を説得することに成功した。
そこから簡単な自己紹介が始まったのだが、名前はルカとアンジュの会話で出た二つの単語がどうしても気になった。「センサス」そして「猛将アスラ」…話から察するに、ルカが天上の神だった時の名が「アスラ」らしい。アスラ…なぜかこの3文字が名前の心に引っかかった。
名前はルカをチラリと盗み見る。…自分は、知っている。…この子を、…この方を…どこかで…。でも、どこで…?

だが名前はそこで考えるのを止めた。ナーオス基地内にサイレンの音が響き渡る。もしかしたら、進入したことに気付かれたのかもしれない。一行は急いで出口へ向かった。名前はスパーダに手を引かれながら、ふと前方を走るコンウェイを見る。


「(彼の言葉は、本当に胸に響く…)」


先ほどのアンジュへの言葉や、非戦闘員である自分にかけてくれた言葉…。名前には、コンウェイの言葉がまるで希望の光のようにも思えた。
他にも、魔物から自分を助けてくれもした。…強くて、知識があるコンウェイに、名前は少しだけ憧れ始めていた。






先ほどのサイレンは自分たちが侵入したのがバレたのではなく、どうやらガラム兵がナーオス基地に侵入してきたから、らしい。
混乱に乗じて、進入したのがバレることなく逃げ切ることが出来たら良いけど…、だが名前の希望はすぐに打ち砕かれることになった。前方から、黒いコートに身を包んだ男がやってきたのだ。
ルカ、イリア、スパーダの3人はこの男と知り合いらしく、男の登場に驚いている様子だった。男のほうも、3人を見て溜息を吐いた。

「またおまえらガキどもか。いつから戦場はガキの遊び場になったのやら」

そう言うと、男はぐるりと6人を見回した。当然、名前とも視線が絡み合った。その瞬間、名前の身体がガタガタと震え始める。喉元を締め付けられる感覚、身体が熱くなり、頭が痛くなる。そんな名前の様子に気付いたコンウェイが、そっと名前の前に庇うように進み出た。


「コンウェイさん…?」
「……」

コンウェイは何も言わなかったが、きっと体調の悪い自分を気遣ってくれたのだろう。名前はコンウェイの後ろに隠れ、男を見ないように下を向いた。
男…リカルドはテノスの貴族からの依頼でアンジュの身柄を確保するためにやってきたらしいが、アンジュに逆に雇われて彼女の護衛になった。リカルドという仲間を加え、一先ずナーオスに戻ることになった。



「よろしく頼む」
「あ、………はい…」


リカルドの挨拶に、名前は上手く返すことが出来なかった。何故だか、彼を見るだけで苦しくなってくる。


「(おかしいな…、初対面のはずなのに…)」
「(俺は…嫌われているのか?)」




20120324



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