コンウェイに出て行くことを止められ、名前は草陰からスパーダたちの戦闘を見ていた。だがどの攻撃も全くあの魔物には効いていないみたいだ。
せめてあの魔物がどの種族か分かれば、解決法は少なからず見つかるかもしれないのに…。名前は悔しそうに眉を寄せる。残念ながらあんな姿の魔物は他に例がない。…新種の魔物が誕生したのか…それとも別の世界の魔物か…。…別の世界。…なんか非現実的なことを考えてしまった…。名前は少しだけ恥ずかしくなったのか、彼らから視線を逸らす。…すると、隣にいたコンウェイがスッと立ち上がった。


「コンウェイさん…?」
「君はここで待っていて」
「で、でも…」
「今の君は戦う術を持っていない。そんな君を庇いながら戦闘をするのは難しい。…分かるかい?」
「…はい」


それは遠まわしに役立たずと言われているようで。…悔しい。名前が唇を噛み締めていると、コンウェイが名前と同じ高さにしゃがみこんだ。
そして名前と視線を合わせる。

「でも、君の頑張り次第で、これから強くなれる」
「…!」
「…話はここまで。少し待ってて、すぐに終わらせるから」


そう言うとコンウェイは立ち上がり、スパーダたちのもとへ歩いていった。
名前はそれを草陰から見守ることにした。…名前の胸に、コンウェイの言葉が響く。

あんな風に言ってくれた人、初めてだ。天上界では身分が低かったから、ああして優しく声をかけてもらったことが無かった。自分はしがない一般の…。……え、あれ?
一体今、何を思い出していたのだろうか…?まるで自分のことではないことをさも自分のことのように考えていた気がする。…それに、天上界って…何?

するといきなり、眩い光が辺りに広がった。
名前が驚いて光の元を見ると、なんとコンウェイの本が光っているではないか。…その光は魔物に当たり、バチバチと閃光を散らす。

それを見た銀髪の男の子が驚いたように声を上げた。


「これは…天術ッ!?じゃあ、あなたも転生者…?」
「これで、彼の世界の物理法則とキミたちの世界の物理法則が複合化できた」
「なに言ってるかわけわかんないわよ!わかるように説明してよ!」
「キミたちの攻撃がきくようになったってことさ」
「最初っからそう言えよ!」
「でも、これだけじゃ興がないから、もう少し手伝わせてもらおうかな」

コンウェイはそう言うと、武器なのだろう本を広げて魔物と対峙する。
それを見たスパーダたちも、彼と同じように武器を構えた。…そこからは早かった。コンウェイもさることながら、他の3人も人間とは思えないくらいの身のこなしで敵を翻弄して、そして苦戦していたはずの魔物をいとも簡単に倒してしまった。

武器をしまった白髪の少年が、コンウェイに向かって問いかける。


「ねえ、今のは天術でしょう?あなたも、転生者なの?」
「そう…、これをキミたちは天術と呼んでるの?…天術、悪くない名前だね。ふふふ…。…ああ、そうだ。そろそろ出てきなよ、名前さん」
「…あ、はい」
「名前!?」

コンウェイに呼ばれて名前が草むらから立ち上がると、スパーダが驚いたように名前の名前を呼んだ。


「なんで名前がこんなトコにいるんだよ!つーかコイツと知り合いなのか!?」
「あー…、とりあえず無事で良かったよ、スパーダ」
「…さっきの質問の答えだけど…。残念ながらあの術は天術でもないし、ボクは転生者でもない」
「じゃあ、あなた…いや、あなたたち一体何者よ!?」
「ボクの名はコンウェイ。コンウェイ・タウ。ここで、キミたちを待ってたんだ」


コンウェイがぐるりと4人を見渡す。…キミたちの中に自分も含まれていたことに名前が驚いていると、銀髪の少年と赤髪の少女の視線が名前へ向いた。自己紹介しろって、ことだよね…。


「私は名前・苗字です。スパーダの…友人、かな。コンウェイさんとは此処で偶然会ったの」
「つーか待ってたってどういう意味だよ!もしかして最初にオレたちがあいつと戦ってたの、黙って見てたのかよ!さっさと助けろよ!」
「まあまあ、そうトンがらないで…。キミたちなら手助けがなくても、なんとかするんじゃないかと思ってね。…そもそもキミたちがボクの知っているキミたちなら、今ここで死ぬべきじゃない。必ずボクを『そのとき』まで導いてくれるはずだから」
「はあ?おまえさっきからなに言ってんだよ?」
「スパーダ!」
「な、なんだよ…」
「助けてくれた人に何を言ってるの。まずは感謝の言葉でしょ?」
「ふふ、いいよ名前さん。それにボクは感謝の言葉よりも、お願いを聞いてほしいんだ」
「お願い…、ですか?」


銀髪の子が聞き返すと、コンウェイは笑いながら頷いた。
その笑顔に名前が底知れぬ何かを感じていると、コンウェイが言葉を続けたのでそちらに集中することにした。


「そう、お願い。ボクも一緒に連れてって欲しいんだ。キミたちの旅に」
「転生者でもねぇ、今初めて会ったヤツとなんで一緒に旅しなきゃいけねーんだよ?」
「ほ〜ら来た。だから感謝の言葉よりお願いを聞いてほしいって言ったんだ。…ねえ、さっきの敵はボクのおかげで倒せたわけでしょう?…いいかい?ボクのおかげで。…また似たような敵が現れたら困ると思うんだけどなぁ。…ねえ?…だからお願い。ボクも一緒に連れてって」
「…そういうのはお願いじゃねぇ!キョーハクっていうんだよ!」
「スパーダ!コンウェイさんは悪い人じゃないわ!」
「っ!なんでさっきからコイツの肩持つんだよ!」
「…やれやれ、キミはボクが想像してたのと違って、ずいぶん沸点が低いなぁ、スパーダくん」
「……ッ!!なんでオレの名前、知ってんだよ!?」
「さっき名前さんがキミの名前を言っていたからだよ。……まあ、それだけじゃないけどね」
「はあ?」
「そんなことより、ほら。門番を倒したからゲートが開くよ」

コンウェイの言葉に疑問を抱くと同時に、頭に一つの画が流れ込んできた。
お城のような場所に、たくさんの人がいて…立派なマントを着た男と、その前に跪く青年…?一体何なんだ…?


「…なに、今の…」
「ゲートが開いたのさ」
「ゲート…?」
「そう、ここは時空のゆがみに近い場所。今の出ひとつ、キミたちの世界のどこかへ近道が開いたはずだよ」
「それ…どういうこと?」
「まあおいおい話すよ、イリアさん」


そんな中、名前は先ほどからコンウェイの話し方に疑問を抱いていた。キミたちの世界…?…まるで、自分の世界は別にあるような言い方…。そして異能者とは違う不思議な力を使える…。面白い人だな、というのが名前のコンウェイに対する率直な感想である。あとは恩人。助けられた恩がある。何かで返したいけど…。名前が考えにふけっていると、コンウェイを旅路に加えるかどうかの話し合いが決着したようで、全員の視線が名前に向いていた。


「それで…名前さんは、どうするんですか?」
「アンタは転生者なの?」
「いや、私は…違うけど」
「…つーかなんで名前はここにいるんだよ」
「あ、そうだ!私、ベルフォルマの家でスパーダがナーオス基地に捕まってるって聞いて、それでここまで来たんだけど…!」
「は?」
「…え?」
「…いや、名前。確かにオレは捕まってたけど、…捕まってたのはナーオス基地じゃなくて、転生者研究所だぜ…?」
「…え?」
「……間違えたのか」
「…そう、みたいです」

とりあえず言えることは、ここでスパーダに会えて良かった、ということだけです。




20120307




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