例のキノコも採取し、鍾乳洞をもう少しで抜けることが出来る…そんな時だった。
2匹の犬と共に、1人の少年が私たちの行く手を塞いだ。彼の名はシアン。アルカ教団に属している、転生者だそうだ。
彼はエルマーナから「創世力」の在り処の情報を聞き出せと、アルカ教団に命じられて此処までやってきたらしい。当然エルマーナはそれを拒否し、戦闘になった。

転生者の可能性はあるにしても、戦闘をする力のない名前はコーダを抱きかかえて岩陰に身を隠していた。
歯がゆい。私はこの中でも年上のほうなのに、年下の…それも10歳くらい歳が離れている子に守られてばかりで…。名前はルカたちの戦いを見ながら、唇をかみしめた。


すると、いきなり視界がぼやける。驚いて目を瞑ると、いきなり景色が変わった。
…きっと、時間帯は夜。だけど、何も聞こえない。…いや、微かに聞こえるのは悲鳴。悲鳴と言うよりは、断末魔に近い…人々の声。
真っ赤に燃え盛る炎、きっと戦争をしているのだ。そう思った。

それからすぐに、全身を貫くような痛み。そして恐怖。霞む視界の中、最後に捉えたのは…死神のような、微笑み。






「っ!!」
「名前?どうしたんだ、しかし」
「あ、コ、コーダくん…」


気が付くと、先ほどまでいた鍾乳洞にいた。
これは一度だけ体験したことがある、先ほどの記憶の場でアスラのあの光景を見た時と、よく似ていた。だとすると、もしかすると今のは自分の…前世の記憶なのかもしれない。
でも、だとしても…よくわからなかった、というのが正直な感想である。結局、私の前世は何なんだろう…?


「おーい名前、終わったぞ!」


スパーダの声が聞こえて、名前が岩陰から顔を出すと、シアンと犬2匹が逃げていくところだった。あんなにボロボロになって可哀想に。アルカ教団はあんな幼気な子供まで戦闘に駆り出すのか。だとすると、ひどい話だ。
名前はコーダを抱きかかえながらルカたちのもとへいく。だが、その足はすぐに止まった。

カタカタと体が震える。名前の視線の先には、リカルドがいた。…アンジュと楽しそうに笑う、リカルド。何故か、先ほどの記憶の…最後の死神のような、微笑みを思い出した。
腕の中のコーダが、心配そうに名前の名前を繰り返すが、名前はそれに答えることができなかった。



「名前さん?どうかしたの?」
「……、」
「え、え…?名前さん?本当にどうかしたの?」
「…っ、…あ、…いや、何でもないよ」


様子がおかしい名前のもとに、ルカが近寄ってきた。彼に肩を叩かれ、名前は我に返った。
ルカに何でもないと返し、名前は仲間たちのもとへと駆け寄った。わからないことが、多すぎる。
もう一度、リカルドのことを横目で見た。…初めて会ったときから思っていたけど…、もしかしたら彼とは、前世で関わっていたのかもしれない。それも、悪い形で。…とにかく、転生者なら転生者で、早く記憶を取り戻せると、ありがたいのだけど。







「ただいま〜かえったで〜…あれ?」
「どうしたの、エルマーナちゃん」
「いや、誰もおれへんのや。おかしいなぁ、普段やったら、もう帰っとんのに」

マンホールの中のエルマーナと子供たちが暮らしている場所(元スパーダの秘密基地)まで戻ってきた。
だが、肝心の子供たちがいない。エルマーナや皆がキョロキョロしていると、マンホールから男の怒鳴り声と子供の泣き叫ぶ声が聞こえてきた。

嫌な予感がして、急いでマンホールの外に出てみると…。
高価な服に身を包んだ男と、用心棒らしき巨体の男、そしてマントに身を包んだ男たちに囲まれている2人の子供がいた。エルマーナが声を荒げて名前を呼んだ。おそらくあの二人の子供がエルマーナの言っていた一緒に暮らしている子供なのだろう。


「おうおう、盗人どもの親玉が登場か。貴様の子分どもは捕まえたぞ。もう観念するんだな」
「はなせー!はなせよー!」
「いい年した大人がなにやってんのよ!子供たち放しなさい!泣いてんじゃないのよッ!」
「だまれ小娘!おまえもまとめて処分しちまおうか!ああ?」

この男、どこかで見たことがある気がする。…確か…貴族街に建つ、あの趣味の悪い家の当主だったかしら…。
それにしても、貴族のくせに言葉使いが悪いな…。あ、それを言ったらスパーダもか。いやでもスパーダはきちんとした場ではベルフォルマ家に習いきちんとした言葉使いを…って、今はどうでもいい話よね。


「その子たちがなにをしたと言うのですか?」
「なにをしたか、そこのチビに聞いてみな!3日に1度はうちの店に盗みに現れて今までどれほどの被害が出たか!」
「……」
「おっさんよぉ、参考までに聞くけど、その子らどーなるんだ?」
「知れたこと!ガルポスの農場に連れて行くんだよ!あそこは労働力が貴重でな、子供を連れて行くといい金になるんだ」
「ええ!その子たちを農場に売るの?ひどい!そんなの、ひどすぎるよ!」
「ふん!薄汚いコイツらが悪いんだ!さっさとくたばってくれれば街もキレイになるんだがな!」


その言葉に、エルマーナが反論するが、相手方は聞く耳持たずといった感じだ。
先ほど採ってきたキノコのお金で弁償すると言ったが、それにも応じず、貴族たちは子供たちを連れ帰ってしまった。


「せっかく今日まで一緒に頑張って生きてきたのに…バラバラになってしまうんやろか…、ウチ、もう二度とあの子らに会われへんのやろか…そんなんイヤや…」
「……そんなことはさせません!今ここで、この子たちを救わない神など、神ではありません!」
「え?」
「自らの罪を悔いているこの子たちをお許しにならないというのであれば、そんな神は神ではありません!私の信じる神はここにいます!…わたしは行きます。みんなは付いてくるの?こないの?」
「…ふ、雇い主の意向には従おう」
「乗りかかった船だしねぇ」
「個よりも全に仕えよ、か。オレだけイヤってわけにゃいかねーよな」
「え〜と、もちろん僕も!」
「…でも…、あの人たちがどこに行ったか、分かるのかい?」
「…彼は、貴族街に住んでいる。場所も知っているから、問題ないよ」
「さっすが物知り名前ね!んじゃ、子供たちを取り返しに行きましょー!」


それにしても…ガルポス農場に子供を…。そのような事、聞いたことがない。法律に則っているとしたら、私も知っているはずなのだが…。……これはもしかして、人身売買なのではないのだろうか…?
…レグヌムでのストリートチルドレンの扱いは、悪い。…まさか…な。



20120612




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