名前たちがマンホールに戻ると、既にルカとコンウェイが帰ってきていた。傍には見知らぬ少女もいる。どちらかの知り合いかな?と名前が考えていると、息を荒げたイリアがルカに詰め寄った。
ルカが実家に顔を出したのではないかと怒るイリアは、普段の様子と違っていて。まるで行き場のない怒りをルカにぶつけているようにも思える。
コンウェイがルカをフォローして、その場はなんとか収まったのだが、大丈夫だろうか。

とりあえず、上は兵士がうろついているからということで、匿ってくれると言ってくれた下水道に住み着いていたというらしい先ほどの少女について行くと、スパーダが作った下水道の隠れ家が見事に改造されていた。子供の衣服が吊り下げられてあったり、藁が積み上げられてあったり…かなり生活感にあふれていた。

彼女の名前はエルマーナ・ラルモ。戦争孤児で、しばらく前から小さい子を引き連れて此処に住んでいたらしい。まあ確かにここなら、雨風も凌げるし、電気も通っているからある程度の生活はできる。…自分たちがいなくなった後に、使われていたなんて思ってもみなかったけど。
エルマーナに今までのいきさつを話すと、とても心配してくれた。なんだかお母さんみたいな子だな、自分より小さい子のお世話もしているみたいだし、しっかりしているなぁ…と名前が感心していたら、スパーダとリカルドが戻ってきた。スパーダは変わり果てた自分の隠れ家にひどく驚いた様子だった。


「なぁ、ところで…。あんたらウチと取引せぇへん?」
「取引だと…?ガキのくせにいっぱしの口をきくものだな」
「あんなぁ、ウチら情報収集はお手のもんやねん。あんたらが必要な情報、拾といてあげるわ。その間あんたらはここに隠れとり」
「ふむ。…で、その代わり?」
「自分話早いなぁ。その代わり、鍾乳洞の奥に金目のモンがあるっちゅう話やさかい、それ取って来てもらわれへん?」
「金目の物って、宝石とか?」
「宝石な!ええなぁ、女の子のあこがれやねぇ。でもそんなんちゃうねん。キレイな地下水と湿気で生える長寿の霊薬といわれとるキノコが生えとんねん」


何でもそのキノコは高い値段で売ることができるらしい。それを売ってお金に換えたら、しばらくは下水道よりもマシな生活が出来るようになるらしい。
とにかくそれを集めに向かうことになったルカたち一向。名前もそれについていくことに決めた。

鍾乳洞内は少しだけ肌寒く、薄着だった名前は少しだけ身震いした。
此処にもやはり魔物はいて、名前はコーダとエルと少し離れた場所から戦う皆を見守っていた。



「守護を咀嚼せよ、スポイル・アーマー!」


1つ、コンウェイの戦い方を見ていて気づいたことがある。彼は敵から受けた攻撃を覚えて、使っているのだ。
はたしてそのような事が可能なのだろうか。見る限り、ルカやイリアたち転生者はコンウェイのようなことをやってはいない。…やはり、コンウェイは特殊だ。周りの皆とは違うオーラを放っている。…だから、惹かれるのかもしれない。自分にとって良い意味で異質な彼に、色々なことを知っていそうな、広い世界を持つ彼に。

すると、戦いを終えたコンウェイがこちらへと近づいてきた。


「ずいぶん見られていた気がするんだけど、どうかしたのかな?」
「コンウェイは敵の技を使うことができるのね」
「ああ、これはラーニングという能力でね。一度受けた技ならどんなものでも会得することができるんだ」
「コンウェイだからこそ出来るんだろうね」
「まあ確かにこの能力は特殊なものだからね。…でも、君なら訓練すれば天術を会得することができると思うよ」
「え…?でも、天術は転生者だけが使えるんでしょう?それなら…」
「……もうすぐだよ」
「え…、今なんて言った?」
「……何でもないさ。それより、何かがあるよ」
「…あ、本当だ…」


なんだかはぐらかされた気がするが、気にしないようにしよう。
コンウェイの言葉に、名前は目を凝らして先を見る。すると、そこには祭壇のようなものがあった。


「刻まれている文字…ずいぶんと古い形式のものみたいね」
「文字が古いってどういう意味だよ?あんなのに新しいとか古いとかあんのか?」
「天から下ろされた地上人も、しばらくは天上界で使っていた文字をそのまま使っていたの」
「時が経つにつれ、ちょっとずつ形や読みが変わっていって今の文字になったんだよ」
「ここに刻まれている文字は天上界で使われていたとされる文字にかなり近いものね」


アンジュの言葉に、名前は祭壇に刻まれている文字を見る。…、……あ、あれ?
解読するためには普通なら参考となる文献が必要だが、なぜだか今は何もなくてもこの文字が読めた。


「(我らは罪を悔い改め、反省を終えた。だから天に戻してくれ…?)」
「不思議だな、見慣れる文字なのに、あらかた意味がわかる」
「おそらく、前世の記憶で文字を読んでいるんでしょうね」


前世の記憶で…?
おそらく転生者の記憶のことだろう。でも、でも…
名前は混乱する。なぜ、自分はこの文字が読めた?何故皆のように読めたのだ?…まさか、いや、でも…


「僕、さっきからここって懐かしい感じがするんだ!ねえ、みんなもそう思わない?」
「あ〜、そう言われてみればあたしも〜」
「感傷的にはならん質だが確かに俺も…」
「コーダは?コーダは感じないぞー?仲間外れか、しかし?」
「不思議だね、これって前世に関係あるのかな?」
「そうね、天上界の雰囲気とどこか近いのかも。大昔の地上人がこの祭壇に求めたように」
「なぁはよ行こ〜やぁ、みんななにしてんのん?」
「ああ、ごめんごめん。話し込んじゃったね、さあみんな、行こう」


ルカの先ほどの言葉「懐かしい感じがする」…これも、何となくだけど分かる気がする。
…もしかすると、自分は転生者なのかもしれない。名前の頭の中で、1つの考えが浮かんだ。
だけども、それを決めるけるのは早すぎる。他の皆は記憶を思い出しているが、自分は自分の前世が何だったかすら思い出していない。
だけど、自分は転生者ではないと真っ向から否定はできない。…そう、まったく分からないのだ。



「……いつ、思い出すのかな」



あの日、ナーオスでコンウェイに言われた言葉がよみがえる。
…私は…私は…。




20120508



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