頑張って作ったチョコレートを、悩んで悩んで悩みまくった末に決めた袋にていねいに入れた。そして袋の口をきゅっと締めれば、完成。
バレンタイン前日、私の想いがたくさん詰まった袋と睨めっこ。…ううっ、緊張してきた。

今年は本命一つしか作らなかった。友チョコも義理チョコも、無し。本命一つ。これにはワケがある。…明日、私は倉間に告白するのだ。だから、告白だけに専念できるようにした。本命だけに専念して、すべての力を注ぎ込んで作った。
私好みの可愛らしい袋を見て溜息を一つ。…うん、大丈夫。絶対大丈夫!…根拠はないけど、…絶対大丈夫だから頑張れ私!…何度も何度も言い聞かせて、布団にもぐった。ああ、お願い。この想いが伝わりますように…!







バレンタイン当日、いつも通っているはずの通学路も何だか違って見える。ドキドキと胸が高まって、鳴り止みそうにない。
右手に持った紙袋の中には、倉間への想い。軽いはずなのに、ズンと重い。ああ、どのタイミングで渡そう…朝?放課後?昼?部活前?部活後?か、帰り道?

頭の中が真っ白になっていたのだが、習慣ってすごい。私はいつのまにかシューズに履き替えて、階段を上っていた。…ということは、もうすぐ教室…!
ガラリとドアを開けると、そこには見慣れた水色の頭。彼も私に気づいたみたいで、こちらをチラっと見ていた。…あ、挨拶…。自然に、自然によ、私!


「お、おはよ…」
「…はよ」


う、うあああああああああ…機嫌悪い?機嫌悪いの?倉間、機嫌悪いの?
そっけない返事に悲しくなってくる。…いつもこんなだよね?大丈夫だよね?…こんなだよね?

少しのことで一喜一憂する私。どんだけ敏感になってるのよ。
ふらふらと自分の席に座り、手提げ袋を机の横にかけた。…はあ、重い。重いよ、コレ。






「倉間くんあげるー」
「あ、私もあげる。義理だからね」
「うっせ、分かってんだよ」


昼休み、彼の周りは人だかり。しょうがないよね、最近サッカー部活躍してるし。
彼の机の上はカラフルな包装だらけ。…果たしてあの中の何個が本命なんだろう。はあ。

あの中に突っ込んでいく勇気は出ず、私の机の横は重いまま。
もう一度倉間のほうを見ると、バチ…目が合ってしまった。慌てて逸らす。ああ、わざとらしかったかな…。変なヤツって思われたかな?あーあ、見なきゃ良かった。

机に伏せる。ああ、もう何も聞きたくない。









ついに放課後になってしまった。私の机の横には倉間へのバレンタインがかかったまま。チキンすぎる私。絶対大丈夫、とか言ってたのどこの誰だよ。…ここの私だよ。
はあ、と溜息をついてチラリと倉間を見ると、彼は荷物を入れたり出したり…何やってんだか。早く部活行かないと怒られちゃうぞー。なんて思っていたら、また目が合った。すると、倉間は教科書を乱暴に鞄に仕舞うと、ずんずんと私のほうへやってきた。…え?


慌てて目を逸らすと、若干不機嫌そうな倉間が机の横に立った。…あ、見られちゃう。
そう思って、慌てて私は袋を横から取り、ぎゅっと抱きしめた。それを見て、倉間はニヤリと笑った。


「それ、チョコかよ」
「そう…だけど」
「本命?」
「………悪い?」
「……ほー…。本命、ね。でも渡してねぇじゃん」
「そ、れは…渡す暇が無かった…というか」
「単にチキンなだけだろ」
「うっ…」


なんなんだこの展開。
こんな話されちゃ、渡すに渡せないじゃん…!…いや、むしろこれはチャンスなのか?倉間に思い切り押し付けて、帰っちゃえばいいんだ!そうだ、そうしよう!受け取ってもらえれば、それで良いんだよもう!

と、本来の目的(告白)を忘れて、私は一人脳内で完結させる。ぎゅっと抱きしめていた袋を、一気に倉間の胸元に押し付けた。



「え…」
「い、いいいいいらないんだったら捨ててよね!」
「ちょ、苗字…!」


倉間の制止を無視して私は鞄を引っつかむと、速水顔負けのスピードで教室から出た。
だけど、私は一つ見落としていた。



「それ、チョコかよ」
「そう…だけど」
「本命?」
「………悪い?」



既に、告白まがいの事をしていたという事に。











「(こ、これ…ほ、本命…?)」
「(うひゃー、でもこれでとりあえず安心!良かった!…あれ、でもなんか忘れてるような…)」





20120215




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