「なあ、名前はチョコ作んねーの?」


二人でスパーダの隠れ家とやらでだらだら過ごしていた時だった。彼は思い出したように顔を上げて、私に向かってそう問いかけた。
…バレンタインか…。もうそんな時期なんだ。

ハッキリ言って私は好きな人なんていない。…ベルフォルマ家長男という婚約者様はいるけど、あの人にあげるなんて嫌だし。
そんな予定はない、と言うとスパーダはどこか残念そうに「そうか…」と返事をした。


「ん、どうしたの?スパーダは私からのチョコが欲しいの?」
「遠慮なしに聞くな、お前。…ああ、そうだよ」
「んー…、スパーダは私なんかに貰わなくても、レグヌムの女の子からたくさん貰えると思うんだけど…」
「…名前からじゃないと意味ないんだよ」
「…?何か言った?」
「…何でもねぇよ」

彼はそう吐き捨てて、寝転んでいたソファから立ち上がる。


「帰るの?」
「…ああ、特訓しねぇと」
「そう。じゃあまたね」
「……ああ」


スパーダが下水道から去っていった後、私は溜息をつく。
…これは、作りましょうかね。











バレンタイン当日、私は自宅で作ったカップケーキの入った袋を手に、ベルフォルマ家を彷徨っていた。
下水道にいるかと思ったんだけど、スパーダの姿は無かった。残るは彼の自室か…もしくは特訓か。…まあとりあえず彼の自室に行ってみようかな。

そう思い、彼の部屋に続く曲がり角を曲がった時だった。…話し声が聞こえる。…この声は。…私は反射的に持っていた袋を隠した。


「名前じゃないか」
「…こんにちは」
「ああ。…先に行け」
「畏まりました」

…スパーダの兄、…ベルフォルマ家の長男、私の婚約者がいた。彼は後ろに控えていた執事を帰すと、私を熱い視線で見てきた。


「私に会いに来たのか?」
「…まあ」
「そうか、嬉しいぞ。…今日はバレンタインだったな」
「そう、ですね」
「今夜、私の部屋に来い」
「……分かりました」
「…ああ、夜まで我慢できないかもしれない」
「っ…」


彼は私の腰に手を這わすと、荒々しい口付けを始めた。…はあ、これだからこの人と会うのは嫌なんだ。夜だって、どうせ…。はあ、考えるだけで憂鬱。
顔はスパーダソックリなのに、性格が違いすぎる。まあ違う人間なんだからしょうがないけど。…とりあえず彼の口付けに答えて、頃合を見て身体をそっと離した。


「また、今夜」
「…フッ、ああ。ではまた今夜な」


彼はそう言うと去っていった。…完全に去ったのを確認して、私はごしごしと唇を拭う。
そして何事も無かったかのようにスパーダの部屋に向かった。



コンコンとノックすると、入れ、とやる気のない返事が聞こえた。それに少しだけ笑って、私はドアを開けた。


「スパーダ」
「…!名前!?」


私が来たことに驚いたのか、スパーダは慌ててベッドから起き上がるとこちらを向いた。帽子ないの、珍しいな。


「なんで…」
「…バレンタインだから。…ほら」


持ってきた。と、チョコレートの入った袋を掲げると、驚いたようにそれを凝視した。



「オレ…に?」
「うん、スパーダに」
「でも、作らないって…」
「スパーダには日頃からお世話になってるし、やっぱり作ろうかなーと」
「兄貴には…」
「作るわけないじゃん」
「だよな」


とにかく受け取って、と言うと彼はベッドから降りてこちらへやってきた。


「サンキュ。まさか貰えるなんて思ってなかった」
「ふふっ、味わって食べなよ」
「おう。…でさ、これ…本命?」


ニヤリと笑いながら言うクソガキに拳骨を一つ食らわした。










**
イノセンス連載「眠れぬ夢」が完結したら、連載しようと考えているTOIR長編の設定で書きました。
スパーダ→主
主はベルフォルマ長男の婚約者。だが全然好きではない
とりあえずおつまみ程度です。コンウェイさんとかドシドシ絡むので、そちらは本編でお楽しみいただければな、と思います




20120215




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