「これは義理。義理。義理ったら義理だから」
「そんなに言わなくても…」
「とーにーかーく、義理だから!」


そう吐き捨てて去っていったのは、一緒に旅をしている名前さん。
そんな彼女が置いていったのは、今ボクの手の中にある綺麗にラッピングされた袋。…今日はバレンタインだ。

故郷にいた頃は毎日書斎に閉じこもってばかりだったから、こうして手渡しでチョコレートを貰うなんて久しぶりだ。(いつもは家に大量に届く)
だから…かな。名前さんからチョコレートを貰って、嬉しいと感じたのは。

紫色のリボンをほどき、中身を見てみる。…これは、生チョコレートというものだろうか。彼女、手の込んだものも作れるんだ。なんて失礼な感想を漏らし、ボクは生チョコを一つ摘み、口に入れる。…うん、美味しい。

とりあえずこれから夕食だから、また後でいただこう。ボクは袋の口を閉じ、それから宿屋のロビーへ向かった。






今日の夕飯はアンジュさんの希望で、この辺りで有名なパスタの店で食べることになった。
注文した料理が一通り届いた時だった。スパーダくんが思い出したように名前さんのほうを向く。


「そういや名前のクッキー美味かったな」
「!!」
「……」
「そうだね、名前は料理上手なんだね」
「ねえねえあたしのは?」
「イリアのは少しばさばさしてた…って、に、睨まないでよぉ!」
「確かに、甘さも控えめでちょうど良かったな」
「ええなあー名前姉ちゃん今度ウチにも作ってぇな!」
「わたしも貰っちゃおうかな」
「アンジュ、大きくなるな!」
「キュキュさん…?」


……へえ。
チラリと名前さんのほうを見ると、必死でボクのほうを見ないように視線を逸らしていた。…顔、真っ赤。












宿屋に着き、部屋に戻るために解散した瞬間、ボクは名前さんの腕を掴んで宿屋の外に連れ出した。
名前さん、突然のことに驚いて声も出ないみたいだ。…ふふっ、面白いね。

人通りの少ない公園までつれてきて、ボクは彼女の手を離し、ベンチに座る。立ち尽くす彼女を見て一言。


「座らないの?」
「ど、どうしたの…突然」
「…まあ、とりあえず座りなよ」

そう促すと、名前さんは渋々といった様子でボクの隣に腰を下ろした。


「聞きたいことがあってね」
「…な、に」
「ボクのチョコを、君は義理…と言ったよね」
「…そうだけど…」
「どうもさっきの話では、ボク以外はクッキーだったみたいだ」
「……」
「ボク以外は全員、本命なのかな?」

笑いながらそう言うと、名前さんの顔は瞬く間に紅く染まった。
そこに、ボクは追い討ちをかける。


「それとも、“義理”は…ウソだったのかな?」
「っ…!」


そう言うと、名前さんはバッと立ち上がってそのまま走って逃げてしまった。
…少し、苛めすぎたかな?

ボクは立ち上がると、彼女の去ったほうへ足を向ける。
…さて、どんな甘い言葉をかけるべきかな。こういうことには不慣れなので分からない。…それにしても、顔を真っ赤にして…可愛かったな。



20120215



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