「クリスマスプレゼントは何が欲しい?」
彼女は俺の質問に、答えをくれなかった。
名前が喜んでくれるものなら、何でも用意するつもりだった。ただ、単純に彼女の喜ぶ顔が見たかったからだ。
だけどそんな俺に、名前は気を遣わなくて良いと言ってやんわりと断った。でも、俺は恋人になってから初めてのクリスマスだから特別なものにしたかったのだ。
すると、彼女から一つ提案が出された。…それが、俺を悩ませる種になっていた。
名前と俺はプレゼント交換をすることになったのだ。
最初は嬉しかった。彼女が選んでくれたプレゼントを貰えるなんて、そんなステキなことが他にあるものか?
だけど、ここからが問題だった。俺は、名前に何をプレゼントすれば良いのだろうか。
もし彼女が嫌がるものをプレゼントしてしまったら?
優しい彼女は受け取ってはくれるだろうが、きっと残念な気持ちになるだろう。愛想をつかされてしまうかもしれない。
そんなことになったら俺は、ショックで倒れてしまう。
何度も何度も色んな店に行っては頭を悩ませる毎日。
クリスマスイブの前日に、やっと彼女へのプレゼントを購入した。ピンクゴールドの、細いネックレスだ。丁寧に白い紙で包装されて、金色のリボンが巻かれてあるそれを見ても、俺も不安は無くならなかった。
「はい、拓人」
「あ、ありがとう…」
名前を自宅に呼んで二人だけでクリスマスパーティ。名前が作ってきてくれたケーキと俺の家のシェフが作った料理が並べられている机の横でプレゼント交換。
彼女から渡されたのは大きなブルーの袋だった。メッセージカードがついてあり、丸っこい可愛らしい字で【拓人へ】と書かれていた。
「開けてもいいか?」
「うん、もちろん」
彼女の許可を貰い、俺はリボンを解く。すると、出てきたのは落ち着いた色合いのマフラーだった。
もしかして、これは…。
「いびつな形でごめんね。一応手作り…なの」
「いびつなんかじゃない…、綺麗だ。…ありがとう、名前。すごく、嬉しい」
「へへっ、ありがとう」
きっと時間もかかった筈だ。俺のためにこんなステキなものを用意してくれているなんて…。
それから、俺は自分がプレゼントを渡していなかったことに気がついた。…だけど…。
彼女からプレゼントを貰って、俺はますます自分のプレゼントに自信がなくなった。
俺はあんなにステキなものを貰った。だけど、俺はどうだ?本当にこれで彼女は喜んでくれるのか?考えれば考えるほど自信がなくなっていく。そして、ついに頬に熱い何かが伝った。
「た、拓人?」
「ふっ、ううっ…俺、俺は…渡せないよぉ」
「…どうしたの?」
名前が優しく俺に問いかける。俺はしまってあったプレゼントの箱を取り出し、それを強く握る。
「俺、のは、絶対に名前に喜んでもらえない、…手作りじゃないし、名前の趣味じゃないかもしれない、恥ずかしいっ…」
「拓人、」
「おれ、趣味悪いから…っ、名前に嫌われたくな…ううっ」
「拓人、見せて?」
「ううっ、うっ…」
「開けるよ?」
包装を解き、それから箱を開ける名前。怖くてその表情を見ることができない。
俺が俯いた時だった。彼女が俺に抱きついてきた。
「ふ、ぇ、名前…?」
「ありがとう。すごく嬉しいよ、拓人。こんな綺麗なネックレス、私はじめて見たよ」
ねぇ、拓人につけてもらいたいな。
そう言う名前の首に戸惑いつつ手をまわす。そして、彼女にネックレスをつけてあげた。
胸元でキラリと輝くソレ。おそるおそる名前を見ると、彼女は優しく笑っている。
「あのね、拓人」
「…」
「ネックレスも勿論嬉しかったよ。でもね、私は拓人が私のために選んでくれたってことが、一番嬉しいんだよ」
「っ、名前」
「私も拓人のことを考えながら編んだの。拓人と一緒なんだよ」
「…うん。…そうだよな。……ありがとう」
俺がそう言うと名前は優しく笑ってくれた。それは、宝石よりもアクセサリーよりも綺麗で。…俺は気付いた。
彼女の笑顔が、俺にとっての最高のプレゼントだと。