『好きだ、名前』

『綺麗になったな』

『俺たちはお似合いのカップルになれると思うんだ』

『何で返事をくれないんだ?』

『お前は俺のことが好きなんじゃないのか』

『俺がこんなにも話しかけてやってるのに』

『返事しろ』

『聞いてるのか』

『ふざけるな』

『返さなかったら家に行く』

『』

『』

『』
『』
『』
『』
『』
『』






「っ!!」


私は携帯を壁に投げつけた。怖い、怖い、怖い、怖い…怖すぎる。やめてほしい、怖い、やめてほしい、怖い怖い怖い!!
もう、彼とは終わったのだ。かかわりなくない、かかわらないでほしい。怖い怖い、怖いっ!

何故今更、彼は私に連絡してきたのだろうか?考えても考えても答えは出てこない。
鳴り止まない着信、メールの受信音、耐えきれずに、私は電源を切り、電池パックも抜いた。ほっとしたのも束の間、今度は自宅の電話が鳴り始めた。異常だ、そう思った。
これではまるでストーカーじゃないか。何を考えているんだ?ブルブルと体が震える。怖い、怖い。家の前にいたらどうしよう、窓から私を覗いていたら、どうしよう。カリカリカリカリ、私は自分の腕を無意識に掻いていた。こわいこわいこわいこわいこわいこわい、やだ、怖い


彼が関わると、私はいつもの私でいられなくなる。
彼と過ごした時間が幸せだったからこそ、あの時言葉にはできないほどの絶望を味わった。…そう、私にとって彼は…トラウマになっていたのだ。だから、私はただただ…彼が怖かった。誰にも相談なんてできない。私は近くにあったパーカーを手に取ると、フードを深くかぶって家を飛び出た。












部活からの帰り、俺は普段は通らない道を通って帰っていた。何故この道を通っているのかというと…。2か月くらい前に、この道を通る苗字さんを見たからだ。
その日から週に2・3回はこの道を通って帰るようにしている。遠回りになるのだが、…それでも、会えたらいいなと期待して…って、なんだか俺、ストーカーみたいだな…。いや、ストーカーか…、…。……なんだか急に恥ずかしくなってきた。

こんなことをしている自分が情けなくなり、やはりいつもの道から帰ろうとUターンしようとした時だった。右手に見える公園のブランコに、誰かが座っているのが見えた。…あれ、は…苗字さん…?…やっぱり、苗字さんだ。…し、私服姿初めて見た…、じゃ、じゃなくて…あんなところで何を…

すると、苗字さんの体が小刻みに震えているのが見えた。…何か、あったのか?
俺の体は自然と動いていた。ブランコに座る苗字さんの前に立つと、彼女の名前を呼んだ。


「苗字さん…?」
「…え、神童…くん…なんで、ここに…?」
「泣いて、いるのか…?」
「泣いてなんかない」
「でも…」
「泣いてなんかない!!!」
「!!」


いつも冷静な苗字さんが声を荒げるなんて、俺の知る限りでは初めてだ。
俺が驚いていると、苗字さんは混乱した様子で、自分の腕を掻きはじめた。よほど強い力なのだろう、少しだけ皮が剥がれていて、血が滲んでいた。


「苗字さん、腕…!」
「っ、」
「苗字さん!」
「放っといてよ!神童くんには、関係ないじゃない!!」
「っ、でもこういうのはダメだ!」


俺は苗字さんの腕を拘束すると、息を荒げている彼女の体を包み込んだ。
苗字さんの甘い香りがぐっと近づく。緊張するが、それどころではない。もがく彼女の体を抑え込んでいたら、苗字さんの呼吸が段々と落ち着いてきた。

俺は、そっと彼女を解放した。


落ち着きを取り戻した苗字さんは一瞬だけ俺を見て、それから何も言わずに公園から立ち去った。
俺はどうすることもできずに、ただただその様子を見守るだけだった。




20120522



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